魔力者部隊
貨物倉庫の影から二人の商人が現れた。先ほどの汽車でやってきた男達だ。コートを脱ぎ捨てると、ギャリオッツ帝国の軍服を着ている。イーゲル軍曹は長い黒髪を膝まで垂らした痩せた男だ。その黒髪がうねうねと動きだし、中から朝日に反射した銀線が射出される。
グリフェは長い筒を両手で前に出して構えた。筒の両端から長い刃が射出される。カトラスという両端刃の武器だ。それを回転させて、銀線を防御。弾けたのは1メートルもある髪の毛針だった。イーゲル軍曹は髪の毛を硬質の矢に変質させ、ニードルガンとして射出できるのだ。
毛針が絶えた瞬間、グリフェがカトラスを構えて前進。カトラスを大上段に振りおろす。だが、もう一人の男……クラッベ軍曹が立ちはだかる。やけに横幅の広い蟹のような男だ。構わず刃を下ろすが、硬い音がして刀剣が折れて、破片が飛ぶ。
「なにっ!」
「かっかっかっ……俺の肌は踵や爪のような角質で覆われている。その程度の武器じゃ通じはせんわい……」
クラッベ軍曹が嘲笑い、口を大きく広げた。口腔内から白い飛沫がグリフェに向けて噴出する。本能的に危険を感じたグリフェが横へ退く。白飛沫は泡となって倉庫の煉瓦の壁に付着。煉瓦が白煙をあげて溶けていく……強力な溶解泡だ。
「くそぉぉ……化け物どもめ……」
「ふふふふふ……魔力者部隊の精鋭の実力はどうですか? さあ、アンドレア嬢は頂いていきますよ……」
「いやあああっ!」
魔力者部隊に防戦一方のグリフェを横目に、シュブラック曹長が侯爵令嬢の手をつかむ。
「汚ねえ手でアンドレアに触るんじゃねえよ!」
シュブラック曹長に引っ張られる侯爵令嬢。目の前に蒸気式自動車がやってきた。このままでは何処かへ連れ去れる。だが、こんな状況でも、内一つだけ嬉しいことがある。
――グリフェ……妾を“高慢ちき娘”と呼んでいたのに、いつの間にか“姫さん”だなんて仇名に変えて……
「おっと、曹長殿の邪魔はしないでもらおう……」
イーゲル軍曹が再び黒髪針をいくつも射出。右に走って逃げるグリフェに、クラッベ軍曹が溶解泡を噴出。グリフェがバク転をして回避。そこを黒い球体が突進してきた。グリフェごと倉庫の煉瓦に激突。
のはずが、間一髪で空中に飛翔して躱す。黒い球体が転がり、黒い毛針で覆われたイーゲル軍曹に変わる。空中から着地せんとするグリフェに向かって、クラッベ軍曹が軍用ナイフを閃かせた。が、グリフェは落ちてこない。煉瓦倉庫の二階に換気用の窓が開いていて、倉庫内に潜りこんだのだ。
「ちっ、厄介な……」
「俺にまかせておけ!」
クラッベ軍曹が溶解泡の激流を煉瓦の壁に叩きつける。白い泡が粘土を焼いた煉瓦を溶かして、丸い穴ができた。白煙をたてる穴をくぐって、二人の軍曹が侵入。倉庫内は石炭を詰め込んだ麻袋や木箱、貨物コンテナがあった。貨物コンテナを三重に積んだ一角の向こうで物音がした。
イーゲル軍曹が右側から、クラッベ軍曹が左側から回り込む。忍び足で暗闇の倉庫内を進むイーゲル軍曹。コンテナブロックの突き当たりにきた。軍用ナイフを構えて、頭を少しだして様子を伺う。鍔広帽子とロングコートの影が見えた。イーゲル軍曹はすかさず髪針を連続して打ち込んだ。反対側からクラッベ軍曹が溶解泡を噴射。挟み撃ちがグリフェを襲う。が、彼は糸に引かれたマリオネット人形のように宙に飛び退いた。
「ぐぎゃあああっ!!」
「おわあああぁっ!!」
溶解泡がイーゲル軍曹に浴びせられ、白い泡で包まれた肉体が、白骨を残して溶けていく。髪針がクラッベ軍曹の角質の表皮を貫き、ニードルまみれの全身から血飛沫をあげて倒れ伏す。
グリフェは倉庫の破壊孔から飛び出たが、すでにアンドレアは白煙をあげる蒸気式装甲トラックで連れ去られていた。
「グリフェ、乗んなっ!」
目の前に蒸気式自動車がやってきて急停止した。ハンドルを握っているのはタートルで、後部座席にミランも乗っている。助手席に乗り込んだ。
「ちょうどいい……タートル、あのトラックを追え!」
「あいよ、まかしとき!」
「それにしても、どうしたこの車?」
「通りすがりの人から強引に拝借したんだ……レンタル料はベドナーシュ商会から色をつけて貰える、ってね……」
「グッジョブだぜ、相棒!」
蒸気式装甲トラックは猛スピードで東の街道を飛ばしている。荷馬車や通行人が慌てて飛び退く。その後をグリフェの乗ったスチームカーが追いかける。背後から銃声が聞こえた。ギャリオッツの偵察戦闘車から身を乗り出した兵士が火薬長銃をこちらに向けている。
「うわあああっ……こっちを狙ってますよ、グリフェ殿!」
「まだ、伏兵がいたか……やばい、みんな頭を下げろ!」




