シャドウビルダー
「おやおや……そう怖がらないでください……私は貴方をお迎えに来ただけです。アンドレア・ユルコヴァー嬢……」
アンドレアは踵を返して幌馬車へ駆けだす。
「おっと、そうはいきませんよ……」
アンドレアの眼前にシルクハットの若い紳士が回りこんできた。恐るべき速さである。知性的な顔立ちだが、鍛え上げられた体躯の持ち主だ。
「いつの間に……」
「さあ……アンドレア様……」
「おっと、無理強いは紳士のマナーに反するんじゃねえのか?」
第三者の声にアンドレアと紳士は振り向く。倉庫の屋根の上に、銀髪のロングコートの男がいた。
「おおっ! グリフェ……」
「貴様がグリフェか……私の名はロドルフ・シュブラック曹長……ギャリオッツ帝国駐留軍魔力部隊の一人よ……」
「よくここまで嗅ぎつけたな、ギャリオッツの犬め……」
「プラグセン警察は可愛そうにずっと、南部地区の街道出口や周囲を見張っていますよ。他の賞金稼ぎ達も同様ですね……」
「なんで、テメエは俺たちの居場所がわかった?」
「実はミアーチェで賞金稼ぎたちと大立ち回りをしていたのを物陰から見張っていたのです。その後は私の〈影〉を幌馬車に放ち、その後は〈影〉が聞いていましたよ……ゼニュフラットの町、ヴォータン村に立ち寄ったことをね」
「影……だと?」
「グリエェ、こやつは自分の影を切り離してスパイにできるようじゃ……リリアナ達に知らせたのも、こ奴じゃろう……」
「そんな莫迦な……と、言いたいが、魔力者か……この俺に気配を感じさせねえとはな……」
「ふふふふ……影は息をせず、気配も生体エネルギーもありませんからねえ……」
「しかし、なぜすぐに襲わなかった?」
「ふふふふ……情報収集ですよ。ルパート大佐の遺言によると、ミスターグリフェは化合人間だとか……敵を知らなければ百戦危うからず、ってね……」
「はん、傾向と対策を練るのは学生とサラリーマンだけにしといてくれっ!」
グリフェがシュブラック曹長に飛び降りざまに、脇腹に右の回し蹴りを放つ。だが、シュブラック曹長は避けようともしない。
「なにっ!」
シュブラック曹長の脇腹にヒットしたはずの蹴りが通り抜けた。見れば、曹長の体が黒っぽく透けている。まるで北軍兵士パウルの幽霊のように……そして、徐々に体が元の色に復元。
「はははははは……私の能力は『シャドウビルダー』! 影を総べる者なり! 地面に映った影を蹴っても当たりますか? 剣で刺しても、銃弾に当たっても変わらないでしょう? 私はそれと同じですよ……」
「ちっ、厄介な魔力者め……」
グリフェが長年の戦いの経験から、幻術者の生み出した幻影ではないかと推察。ならば、本体が近くにいるはずだと周囲を見回す。
「どこを見ているんです? 私はここですよ!」
シュブラック曹長の繰り出した上段蹴りがグリフェの左腕にヒット。幻かと思えば、いつの間にか本体と入れ替わったようだ。
「莫迦な……だが、チャンスだ」
すかさずグリフェは右フックを曹長に繰り出した。だが、またも前のように敵の肉体を突き抜けた。シュブラックは天を仰いで哄笑する。
「そんなんアリかよ……おのれ、シュブラック!」
「ふふふふふ……アリなんですよ、グリフェ……しかし、私はあなたに関わってばかりおられません……イーゲル軍曹、クラッベ軍曹……」
「ははっ、後は我等におまかせを……」




