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ドラゴン襲来

 なんとか竜巻の暴威から逃れた幌馬車の一行は、馬車の故障もあり、旅程が遅れ次の町に届かず、草原沿いで見つけた廃僧院で野宿する事になった。


「うう……妾のドレスが……衣装が……」

「もうしわけありません、アンドレア様……次の町で替りの衣装を手配しますから……」


 グリフェとタートルがあの状況では仕方が無かったと口を出すが、侯爵令嬢の機嫌は直らない。それでも腹は減るので、手頃な石を集めて釜戸をつくり、鉄棒で三脚をつくり、鍋をさげて焚火。残った荷物から干し肉とコーン、野草でシチューを作りはじめた。


 ふと、夜空を眺めて星から現在位置を割り出していたタートルは黒雲の合間になにか動くものを発見した。夜鳥か蝙蝠だろうか……いや、フォルムが違う。


「おい、グリフェ……ありゃあ……なんだ?」

「なんだ、タートル。どこだ…………むむっ……」

「なあ、頼むからワイバーンかドラゴンだなんて言わないでくれよ……」

「やばいなあ……ワイバーンかドラゴンかもしれん……しかも、二体もいやがる」


 タートルが右手で額を押さえて嘆息する。


「ミラン、アンドレア……幌の中に入れ……ドラゴンかもしれん」


 二人は青ざめる。タートルは焚火に水をかけて消化。慌てて一同は幌の中に退避した。


 ラドラシア大陸には様々なモンスターが棲息するが、そんなモンスター種族の中でも別格、最大最強の存在がドラゴンだ。モンスタースレイヤーの中でも最強と言われるドラゴンスレイヤーといえど、一個連隊以上の人数と重武装兵器と魔道士団が必須とされ、それでも全滅の可能性がある。それほど危険なモンスターの王族なのだ。


 グリフェは幌の隙間から様子をうかがった。月明かりの夜空に、大きな翼を広げ、長い首と尻尾をもつ巨竜はグルグルと旋回していたが、一体ずつ降下してきた。夜の草原に獲物を見つけたのか? いや、二体の翼竜はこちらに向かって飛来してきた。強風がおき、帆馬車がガタガタと揺れ、薪や荷物が吹き飛んだ。馬たちが怯えていななく。野営地に赤い鱗の竜が舞い下りる。次に、白い鱗の竜が……翼長8メートル、体長7メートルほどの中型ドラゴンのようだ。


「おいおい……ファイアドレイクとフロストドレイクじゃねえか……真逆の棲み処をネグラにする竜がなんでつるんでやがる?」


 ファイアドレイクとは、火竜ともいい、火山地帯や高熱地帯に棲息するドラゴンだ。そのため、外皮は熱に強く、溶岩の中に潜れる種類もいるという。口から火炎や高熱のブレスを吐くのが武器。


 フロストドレイクとは、氷竜ともいい、凍土地帯や極北地帯を棲み処にするドラゴンだ。寒さに強い表皮を持ち、体から冷気を出す種類をいるという。口から寒風や凍結のブレスを吐くのが武器。


 火竜と氷竜はその棲息地の違いから、本来出会うことはないはずだ。


「グリフェ……竜の背に人が乗っているぜ……どこかの国の騎竜じゃねえか?」

「騎竜か……騎竜部隊を所持しているのは……アルヴェイクかギャリオッツか……」


 火竜と氷竜が地面に腹をつけ、鞍から二人の重武装甲冑騎士が降りてきた。グリフェとタートルが幌馬車から出てきて、交渉役が応対する。


「これはこれは、騎士殿……オレっちはしがない旅の音楽師でして……いったい、なんの御用で?」


 赤い甲冑騎士が兜をとった。ながい金髪がふり乱れる。青い甲冑騎士も兜をとると、流れるように黒髪が乱れでた。

「タートル・ピッグとグリフェ・ガルツァバルデスだな……お初にお目にかかる。私は近衛騎士のリリアナ・ネドマヴァー……」


 暗い金髪のダークブロンドが月光に輝き、青い瞳はサファイヤ、鼻梁の整った美貌の赤甲冑の女騎士だ。


「私は同じく近衛騎士のスヴェトラ・シェラー……アンドレア・ユルコヴァー侯爵令嬢を迎えにきた……」


 東域人のようなエキゾチックで神秘的な黒髪を長く垂らした茶瞳、気丈な面貌、これまた麗容の青甲冑の女騎士だ。


「リリアナ……スヴェトラ……無事だったのね……」


「そうよ……迎えにきたの……一緒にミアーチェに帰りましょう……」


 幌馬車からアンドレアが飛び出てきた。プラグセン王国の社交界で旧知の友人たちである。駆け寄ろうとする令嬢をグリフェの鋼の腕が止めた。


「おい、姫さん待ちな……奴らはドラッケンの手先……吸血鬼ヴァンピールだぜ……」

「えっ!?」


 アンドレアがグリフェを振り向き、また女騎士たちに視線を戻す。美女騎士たちの肌は、闇夜にも蒼白く病的な感じだ。月光が雲で閉ざされ、リリアナとスヴェトラの瞳が、陰火のように爛と光った。


「ひっ……」


 アンドレアが後退りしていき、ミラン執事に抱きつく。ミランは女主人を後ろにかばった。


「どうしたの……アンドレア……一緒に都へ……ミアーチェに戻りましょう……」

「そうよ……そして、ミシュルフェルド城館へ……ドラッケン伯爵の花嫁となるのです……」

「そうよ……偉大なる帝国将校にして、諸国にも知られた戦略家……そして、ダンディな伯爵さま……」


 二人の女吸血鬼騎士は頬を赤らめ、官能と陶酔の笑みを見せた。犬歯が長くのび、白い牙が見える。かつて、ドラッケンを暗殺すべく城館に乗り込んできた勇ましいプラグセン王国女騎士の姿はもう、そこにはいなかった……


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