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炎のなかの死線

 ボジェクが叫ぶ。グリフェは白煙の間から、鷲の翼を生やして滑空してきた。交換したばかりの機関銃のトリガーを引き、憎き敵に撃ちまくる。


 だが、こちらも華麗に旋回して、凶弾を回避する。こちらも化け物だ。グリフェは手にした折れた支柱の先を、サイクロプス・ゴーレムの眼球に叩き込む。木片が岩石でできた眼球の中心に刺さっていく。

 

 岩石には壊れやすい点というものがある。鷲の目を持つグリフェがそれを見極め、東域武術を極めた技が石を制したのだ。サイクロプス・ゴーレムが悲鳴をあげて両手で傷痕を覆う。ガーゴイルと違って、人間のように動くベルデンリンク製ゴーレムは痛覚に代りになる魔術神経回路が張り巡らされている。


「わわわっ……暴れるな……サイクロプス……うぎゃああああっ!」


 レザーチェのグレイブが閃き、魔道士ヘネンロッターは左肩から右腰まで袈裟がけに斬られた。朱線がはしり、血の奔流。斜めに肉体がずれていく……


「くそぉぉぉ……出直しだ……次は本職の殺し屋を雇ってやるぜ……」

「次はないぞ、ボジェク!」


 左肩からまだ燃えていない支柱に驚異の跳躍力で飛び移るボジェク。だが、眼前に鷲の翼をもつ宿敵がいた。


「てめえ、グリフェ……るごぎゃあああああぁぁぁぁ!」


 グリフェの右手の魔爪が一閃し、情報屋ボジェクの肉体は、空中で真横に四つの朱線が走った。段々畑のようにずれていって、血の滝を流し、五体が四散して落下。


 暴れまくるサイクロプスの周囲をグリフェが旋回して、暴走停止呪文を探す。が、右肩に乗ったレザーチェがサイクロプスの猪首に、グレイブの刀剣を薙いだ。斬空破が単眼巨人の首を斬り落とした。サイクロプス・ゴーレムは首なし彫像と化して停止する。


「とんでもねえ斬れ味だな……」


 呆れるグリフェを余所に、テントが燃えて崩れ落ちていく。外には蒸気式ポンプ車があつまり、消防団が集まってホースから放水活動をおこなっていた。


 離れて避難していたミラン、アンドレア、タートル、そしてクララ・カリガルチュアの前に、飛翔してきたグリフェが煤で汚れたロングコートを翻して飛び降りた。


「おおっ、無事だったのじゃな……グリフェ……さすがじゃ……」


 ミランとタートルもかけつけ、安全を祝う。


「レザーチェは……レザーチェはどうしたの……」


 白いドレスを着たクララ・カリガルチュアが心配そうにグリフェに問う。


「それがなあ……俺が運んでやるっていうのに、『貴様に借りはつくらん』って、断られて、煙のなかに消えたよ……」


「まったく……しようのない奴ねえ……」

「それが我の流儀だ……」


 いつの間にかクララの背後に青衣の剣士が立っていた。青い髪の男といえば、この大陸に一人きり……


「レザーチェ! ふん、無事なのはわかっていたわよ!」


安堵の表情が浮かんだ白いドレスの少女は、急に腕を組んで不機嫌になった。まあまあと、タートルが仲裁にはいった。


「それしても、お嬢ちゃんはまだ幼いのに苦労しているみたいだねえ……」

「失礼ね……私はこう見えても、21歳よ……」


 糸のような目を見開いたタートルがレザーチェを見る。小さく頷いた。


「こりゃ、失礼……」

「こほん……まあ、いいじゃない……ここにいるのは皆、逃亡者ね。何かの縁で祝杯でもあげたいところだけど、お互い追われる身……このまま別れましょう……」

「それがいい、クレールヒェン……魔道士ヘネンロッターは倒した……だが、また刺客はくる……ここを去ろう……」


 グリフェ達はテントから去り、辻馬車を拾って山葡萄亭へ向かう。レザーチェとクララはいつの間にか消えていた――


「それにしても、クララ達も何か込み入った事情がありそうじゃったのう……」

「まあな……奴らには奴らの物語があるさ。俺たちには関係ないさ……」


 夜もすぎ、4時となっていた。暗闇に青みがさし、ゼニュフラットの街並みに白い霧が這うように漂い、ガス灯がおぼろに佇んでいる。



 レザーチェとクララ・カリガルチュアは、次々回あたりに書こうと構想を練っているスチームパンクです。今回はグリフェの話に先行してゲスト出演しました。

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