表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/87

共同戦線ふたたび

 一方、見世物小屋では――


「ふう…………可動機構が破壊されて、あやうく窒息死するところだったわ……」

「クールヒェン……生きていたか……」


 白いドレスの少女は12,3歳くらいに見える少女であった。ハニーブロンドにエメラルドの瞳を持ち、色白の額も頰も汗でぐっしょり濡れていた。どことなく、〈EGG〉のバーチャルモデルであるアリス・リーデシュタインに似ているが、あちらが太陽のように朗らかなのに比べ、こちらは月のように冷たい美貌の持ち主であった。


 レザーチェが腰をもって、抜け殻から引き出した。驚天動地の異常な光景に、グリフェもミランもアンドレアも目を点にして立ちすくんでいた。レザーチェは相変わらず無表情だ。


「どういう事だあ? マダム・カリガルチュアは機械仕掛けの人形だったのか?」

「そうよ……あたしは追われる身なのでね。ベルデンリンクの自動人形職人に造ってもらった特別性の自動人形甲冑よ……」

「これは凄い……ある意味、ミアーチェの自動人形やロボット技術より凄いかもしれません……」


 機械仕掛けに興味のあるミランがしげしげと自動人形甲冑の内部の仕掛けを覗く。


「誤解があって戦ったけど、これもボジェクの悪意が生んだ不幸な出会いよ。忘れましょう……」

「そうだな……大金に目がくらまないとは、大した奴らだぜ……」

「改めて自己紹介するわ。あたしはクレールヒェン・カリガルチュア。皆はクララと呼ぶわ。ベルデンリンク帝国のインゴルシュミッツ大学の元学生よ……そして、こちらは……」


「レザーチェだ……」


「俺はグリフェ・ガルツァバルデスだ。さっきはすまなかったな……だが、タートルを斬りつけたんだ。これであいこにしようぜ……」


 握手を求めるグリフェ。しかし、レザーチェは彼にそっぽを向いた。

 アンドレア、ミラン、タートルも新ためて自己紹介した。その途中、突然、見世物小屋のテントが轟音を立てて揺れ始めた。ミシミシと音をたて、支柱が折れていく。

 テントが破れて、夜空が見えた。その青い闇を背景に巨大な顔が覗く。馬車ほどもある巨大な一つ目がこちらをギロリと睥睨していた。乱杭歯をむき出しにした獰猛な顔。

 

 身長10メートル以上ある巨人である。単眼巨人サイクロプスである。だが、全身が奇岩を組み合わせたようなイビツな肌だ。サイクロプスを模したストーンゴーレムである。ヘネンロッターは指輪の魔法石に封じこめた奥の手を出してきたのだ。しかし、マイリンク社の新造ゴーレムボジョビークに匹敵する人造巨人を、ベルデンリンク帝国では、すでに開発していたとは……その魔法技術の進化は聞いた以上かもしれない。


「ぐふふふふふ……また会ったな、レザーチェ。今度こそ貴様の命をもらいうけるぞ」

「ついでに、グリフェとタートルの命もな……ひひひひひひ」


 サイクロプス型ゴーレムの右肩に魔道士ヘネンロッター、左肩にボジェクが乗っていた。


「なんだあ……テメエら、いつの間につるんでやがった?」

「ぐふふふ……まあ、いいではないか……ボジェクがいうのは、グリフェとら、お前は凶悪な誘拐犯ではないか……ならばレザーチェと共に、死ねい! 火焔烈矢フレイム・アロー!」


 炎の矢が連続して倒壊した見世物小屋内に突き刺さる。二人の若者が飛燕のごとき敏捷さで躱した。そこを、サイクロプス・ゴーレムが怪力で支柱をもぎとって、二人を串刺しにせんと地面に突き立てる。タートルが先導して、慌ててテントの外へ避難する一同。火炎烈矢のせいで、木箱やテントに燃え移り、周囲が火事になっていく。グリフェとレザーチェは立ち止まって、巨人を見上げている。


「うわああっ、やべええ! レザーチェ……ここは仲直りのついでに共同戦線を……」


 レザーチェがジロリと半眼の青瞳を向ける、グレイブの剣先を向けた。凄まじい殺気だ……グリフェは一瞬、グレイブで刺し貫かれる己の姿を幻視した――


「……今度、裏切ったら、一刀両断にする……本物のほうをな……」

「わかった……悪かったよ……そう、睨みなさんなって、背筋が凍らあな……」


 そう言っている間に単眼巨人が二人に支柱を叩きつけた。地面がえぐれ、土埃が舞うほどの衝撃だ。


「むっ、やつら、何処へいった?」


 土埃が舞い、燃えあがる火勢が濛々と白煙を生みだし、周囲の視界を閉ざす。


「ここだっ!」


 魔道士ルヘネンロッターと情報屋ボジェクが声のした方角を見れば、レザーチェが支柱を駆けのぼり、サイクロプス・ゴーレムの腕を走り抜けて迫ってくる。驚くべき運動神経能力だ。それに急斜面を、平面を走っているがごとき走りである。驚異の体幹神経だ。


「おのれ、レザーチェ! ボジェク、レザーチェを仕留めれば情報料は百倍にしてやるぞ!」

「さすが、次期宮廷魔道士様は太っ腹で……おまかせを!」


 右肩のヘネンロッターの杖の先から雷光が生じて、レザーチェに発射される。そして、サイクロプス・ゴーレムが口から高熱火炎を吐く。さらにボジェクが左肩に添えつけたガトリング銃の引き金を引いて、連続掃射。薬莢が宙に舞う。


 三重連続攻撃が青衣の剣士を襲う。レザーチェはレザーコートを翻して、高熱火炎を巧みに避けた。そこへ、雷光と銃弾が集中。しかし、青い剣士には命中しない……


「なんだとぉぉ……貴様は鬼神か魔物か!?」


 ヘネンロッターとボジェクが目を剥いて青衣の死神を見つめる。二人は戦慄と恐怖の感情に包まれ、肌が総毛立つ。ひょっとして、とんでもない化物に戦いを挑んだのではないか……と。


 レザーチェは未来予知能力を使ってはいない。すべて、驚異の動体視力で相手の予備動作から弾道予測をし、人並みはずれた反射神経と運動神経によって回避しているのだ。


「ひいいいいい……奴は人間じゃねえ……人の姿をした魔物ですぜ、魔道士の旦那!」

「くっ、来るな……化け物!」


 魔道士が杖からありったけの魔力を使って、巨大な雷光を剣士にぶつける。ボジェクは弾倉が切れたのに気がつき、震える手で交換する。


「おっと、陽動ごくろうさん!」

「グリフェ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ