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カリガルチュアの正体

「いやあああああああっ! グリフェえええええええ!!」


 アンドレアが両手で顔を覆って絶叫する。ミランは呆然として金縛りにあった。目の前に両断されて二つになった死体が地面に転がる。


「いやったあああああ~~~~! 今度こそグリフェが死んだぞ!」


 情報屋ボジェクが悪魔の哄笑をして踊りあがる。


「まさか……強敵たちを薙ぎ倒してきたグリフェ殿が……こんな所で倒されるなんて……」

「グリフェ殿は無罪じゃ! このボジェクという男が真犯人でなのに……」

「そうだぜ、はやとちりすんなって、寝ぼけ眼野郎……」


 木箱の山の背後から、もう一人のグリフェが出現した。一同がギョッとして、そちらを向く。すると、さっきのグリフェの死体は……見返せば、両断されたグリフェの死体が熱っせられた蝋細工のように溶けだし、一つの粘塊になった。それがムクムクと立ち上がり、人の彫像と化し、全身に細波が走り、見覚えのある辻音楽師の姿に変形した――


「ジャジャ~~ン! 不死身のタートル・ピッグの変身術の冴えはどうだい!」

「なんじゃ……脅かすでない、もう!」

「そうですよ……私たちも騙すなんて酷いですよ!」

「おやおや……お呼びでない……お呼びでないときたか……」


 アンドレアとミランが安堵したが、逆に怒りとなって非難を集中させた。しょげ返るタートルに、グリフェがフォローする。


「そういうな……眠り男の死の予言が気になってな……こっそり、タートルに耳打ちしての影武者と入れ替わった……ところでレザーチェ、あんたの主人を殺ったのは、ボジェクだ!」


 無表情に佇む青衣剣士が見回す。しかし、ボジェクの姿はどこにも見えなかった。すでに逃走した後だった。


「ボジェク……貴様はこの俺がトドメを刺す……」


 レザーチェが死の殺害予告をした。その鬼気迫る姿に、一同が凍りついた。そして、青衣の怪人は、倒れたマダム・カリガルチュアの前にひさまずく。ピクリとも動かない小太りの催眠術師。だが、痙攣して動き出した!


「げっ……生きていたのか?」


 驚愕するグリフェ達を余所に、カリガルチュアが急に頭を持ち上げた。そして小刻みに震えながら立ち上がる。そして、体の正中線に切れ目が走った。さらに横にも上から10センチ間隔で切れ目が走る。まるでボンレスハムを切り分けたようだ。切れ目の入ったカリガルチュアの体躯が縦に分離していく。


 さらに、上からの切れ目が次々と段々畑のように開いていった。太った中年婦人の内部から白いドレスを着た少女が出てきた。まるで北域の国のオモチャ、マトリョーシカである。



 その頃、状況を機敏に察したボジェクは夜の町を獣のように疾駆していた。


「くそぉぉぉ……カリガルチュアとレザーチェめ……腕は立つが懸賞首に目がくらまないとは……」


 前方から馬に乗った黒いローブ姿の魔道士がやってくるのが見えた。見覚えのある顔である。


「もし……旦那はもしかして、ベルデンリンク帝国でその名も高き魔道士のヘネンロッター様で?」


 あのあと、魔道士はレザーチェにストーンゴーレムを倒され、形成不利とみて姿を消した。改めて奇襲するべく、レザーチェを探索魔法で追いかけてきたところだ。


「確かに私はヘネンロッターだが……貴様は誰だ?」

「へい、あたくしはミアーチェの暗黒街で情報屋をやっているボジェクっていうケチな野郎でして……実は耳寄りな話を……」

「うるさい! 私はレザーチェを倒し、カリガルチュアを捕えて本国に戻らねばならんのだ。そこをどけ!」

「なんとまあ、レザーチェ達を倒すためにはるばるゼニュフラットまで足をお運びに……そいつはちょうどいい。あっしもレザーチェ達には遺恨がありましてね……どうです、土産替わりにいい儲け話があるんでがす……」

「くだらん! 私はいずれ、任務を遂げ、宮廷魔道士になる身だ。はした金では動かん!」

「そうですかい……残念だなあ……グリフェという奴をついでに片付けるだけで5千万ゼイン……」


 魔道士ヘネンロッターの眉がピクリとして、目を見張る。さきほど、ガーゴイルを一体倒した男の名だ。


「さらに、タートルという奴を片付けるとプラス3千万ゼイン……」


 ゴクリと唾を飲むヘネンロッターに、ボジェクは蠅のように両手をすりあわせ、もったいぶる。


「むむっ……まだ……あるのか?」

「へい、その二人が誘拐したアンドレアという娘っ子がいるんですが、こいつを無事に保護したら、プラス2億ゼインで……合計2億7千万の儲けでして……はい」

「に……に……2億7千万ゼイン……だと」


 ヘネンロッターが目を剥いてボジェクを凝視した。


「へっへっへっ……宮廷で出世するには、何かと資金がご入り用かと……どうです、大将?」

「こほんっ……うむ、詳しく話せ……」

「へへへへへ……そうこなくっちゃ! いやあ、あんたは良い悪党だ!」


 と、ボジェクがわけのわからない事をいって、ヘネンロッターの両手をつかんでブンブンふる。


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