グリフェ両断!
グリフェは眉を寄せて眼前の猛獣を睨みつけた。
「お前は……タートルだな? なぜ、俺を襲う……」
巨虎姿のタートルはそれに答えず、双眼を金色に光らせて、野獣の雄叫びをあげた。
「どうやら、催眠術にかかっているようだ……厄介な……」
グリフェが右手の魔爪をコートの懐に引っ込めた。そして、牙をむけて襲いかかる猛虎を掻い潜り、腹部へ回る。そして、鳩尾を正確に蹴り上げた。猛獣は動きが緩慢になって地面に倒れ込んだ。静まり返ったテント内に、虎のイビキ声が聞こえてきた。ほっと、息をつくグリフェ。今度は上半身を立ち上げて、背中に膝で喝を入れる。
「やや……ここはどこ? オレっちは誰?」
「寝ぼけんな、タートル、実はな……」
ごにょごにょと事情を耳打ちする。
「つ~~わけで、カクカクシカジカだ」
「なるほど、角ばった鹿が二匹いるんだね……」
「莫迦野郎!」
そこへ、馬車の扉を開けてミランとアンドレアが出てきた。茫洋とした目つきで、二人とも瞳が金色に光った。催眠術で操られている。
「ほほほほほ……寸前で仲間が変身した姿と見破るとは……やるねえ、魔爪のグリフェ」
表舞台と裏舞台をつなぐ通用口から、催眠術師カリガルチュアが踏み段を歩いて降りてきた。その前をミランとアンドレアが移動して、短剣を構えてガードする。
「てめえ……抜け抜けと……見世物興行師じゃなくて、賞金稼ぎか何かか?」
「あいにく、賞金稼ぎは副業だよ。見世物興業だけでは路銀が心許なくてねえ……ところが、副業のはずの賞金稼ぎ業がプラグセンにきた途端、有名になっちまった……」
「あの寝ぼけ眼のレザーチェのせいだな……やたらと腕が立つクセに、おかしな術まで使うときた……まあ、その辺の並の賞金稼ぎや犯罪者が束になっても叶う筈もねえわな。だが、今は魔道士と交戦中でここには来ないよ」
「なんだって、レザーチェが魔道士と?」
「おうとも、スヴェンガルドだかいう奴の刺客だとか言ってたなあ……追われる身はお互い様というわけだねえ」
「ちょいと、あたし等は無実の罪で追われる身さ……侯爵令嬢誘拐犯と一緒にしなでおくれ!」
「ほほう……だが、こっちも濡れ衣で追われる身でねえ……捕まるわけにはいかない」
カリガルチュアが興味を持った様子で、グリフェに事情を促す。グリフェは懸賞金をかけたのが、ユルコヴァー侯爵家ではなく、実はギャリオッツ駐留軍のドラッケン中将であり、愛人として差し出すように圧力をかけたのが発端だったと話した。しかし、第三者の声で中断させられる。
「何をしているカリガルチュア! 余計なことは聞かないで、グリフェを殺っちまえ!」
「貴様……生きていたのか……情報屋のボジェク!」
通用口から出っ歯の情報屋ボジェクが飛び出してくる。
「グリフェめ……ここで会ったが百年目だ。さあ、カリガルチュア! そいつは五千万ゼインの賞金首だぞ!」
「こっちは話し中だよ、ボジェク……アンドレアよ……グリフェの言っていることは本当かい?」
カリガルチュアの瞳が金色に輝き、呼応するようにアンドレアの双眸も輝き返した。
「ええ……グリフェとタートルは……妾とミランを守って……ここまで旅してくれた恩人……ボジェクは悪党……」
「グリフェ一味は凶悪な誘拐犯だと思っていたら、あたしらと同じ、冤罪で追われる身じゃないか……骨身にしみるねえ。」
額を押さえて嘆息する仮面の催眠術師。そして、アンドレアとミランにかけられた催眠を解除した。ガクリと膝をおってしゃがみこむ二人。
「おいおい! なんてことしやがる! 裏切りやがって、チキショウ!」
「ふん、なんだい! あたし等はあんたと違って金に目がくらんで非道な真似をする悪党じゃ……」
マダム・カリガルチュアは言葉を中途でやめた。その腹部にナイフが刺さっている。ボジェクが電光の早業で投じたものだ。女催眠術師はドサリと倒れ込んだ。
「てめえ、ボジェク! なんてことを!」
グリフェがカリガルチュアに駆け寄った。彼女はピクリとも動かない。
「……クレールヒェン…………」
ギョッとして振り向くと、いつの間にか、グリフェの背後に眠り男レザーチェが佇んでいた。
「おおっ、レザーチェの旦那! グリフェの野郎があんたの主人をナイフで殺したぜ!」
ボジェクが厚かましくも、己の罪をグリフェに押しつけた。グリフェは動かないカリガルチュアを抱えている。
「おい……ちょっ、待てよ……」
氷の表情をしたレザーチェから極北の冷気が立ち込める。グレイブの柄を大上段に構え、グリフェを頭頂から股間まで斬り下げる。
レザーチェの予言どおり、グリフェは一刀両断にされたのだ!




