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魔像獣の脅威

 山羊角ガーゴイルの鉤爪がグリフェを襲う。が、グリフェは背面飛びで死の一撃を避け、トンボ返りで背後に移動。生きている魔像は口を開き、咽喉奥から瘴気の吐息を吹きだした。


「なにぃぃぃ、ポイズン・ブレスか!」


 グリフェはコートの裾で口を覆い、紫色の毒煙を避ける。が、裏路地にいて、ゴミ漁りをしていた野良犬が、それをまとも吸ってしまった。


「キャウゥゥ~~~~~~~ン!」


 斑の野良犬は背骨をのけぞらせ、地面にひっくり返った。目が飛びでそうになり、口蓋から舌がダラリと出て痙攣している。即効性の死毒である。その死の紫煙をかいくぐってガーゴイルがグリフェに肉迫。左の鉤爪が銀髪の青年を斬り刻みにかかった。


「そうはいくかっ」


 グリフェの魔爪が直径50センチはある尻尾を大根のように輪切りにした。バームクーヘンのような丸石が散乱する。

 レザーチェもグレイブの一撃が羊角ガーゴイルの右の翼を切断した。巨大な蝙蝠傘の破片のような物体がゴロリと石畳に落下。

しかし、山羊角ガーゴイルは痛がる様子もなく、体躯のバランスを三本肢で立て直した。羊角ガーゴイルも痛痒に感じてない様子だ。


「石製のガーゴイルを刃こぼれせずに切断するとは……さすがレザーチェ。そして、通りすがりの男もやるなあ……だが、ガーゴイルには人間や動物のような神経伝達機構はない、ぐふふふふふ……」

 魔道士ヘネンロッターが勝ち誇ったように屋根上で哄笑する。


「けっ、俺は上から目線の奴は好かん……おい、レザーチェ。ここは一旦停戦して、共同戦線を張ろうじゃねえか」

「ふむ……まあ、しかたあるまい……そっちを倒せ、グリフェ」


 魔像獣が牙の生えた口でグリフェとレザーチェに噛みつきにかかった。

 グリフェは跳躍して石像魔獣の背面、翼の付け根に飛び乗った。瘴気吐息ポイズン・ブレスや鉤爪の死角となる。だが、グリフェの背後にワニのような尻尾が鉄鞭のように襲いかかる。


 しかし、それを驚異の反射神経で掻い潜り、グリフェは空中で精神統一。長く伸びた山羊角ガーゴイルの頸部を六賊爪で薙ぐ。魔像獣の長い首が五ヶ所、直角にずれていき、段々畑を形成する。それが、断面を見せて分解。頭部と短い円筒のオブジェが石畳に四散した。さすがに頭部を失った石像魔獣の動きが止まり、首無しの彫像と化した。


 レザーチェは迫りくる羊角ガーゴイルを開いた口に、グレイブの剣尖を横薙ぎに構えて突き進む。魔像獣の頭部、頸部、胴体、尻尾にいたるまでが真横に裂けていく……駆け抜けた石像魔獣の上半分がずれて地面に落ちていく。下半分は走る態勢のまま凍りついたように彫像と化した。


「なんだとぉぉ! まさか、石製のガーゴイルを……まるで飴細工のように切断するとは……何者なんだ貴様らは!」


 六賊爪とグレイブの鋼鉄の刃の強度もさることながら、両者の刀剣武術の秘儀が、不可能を可能にしたのである。


「魔道士ルヘネンロッター……ここまでのようだな……大人しくベルデンリンクに帰って、スヴェンガルドに報告するがよい……」

「そうはいかんぞ、レザーチェ……」 


 魔道士が呪文を唱えると、左手の指輪の宝石内の魔法円が輝き、地面に大きな魔法円が拡大されて出現。地面から身長5メートルのストーン・ゴーレムが召喚。魔道士の伏兵だ。


「ぐふふふふ……我が魔導の秘術で貴様を倒してやる……」


 魔道士ルヘンエンロッターは黒外套から魔晶製のグラスバイザーを取り出して、双眼を保護した。レザーチェの邪視能力を封じる魔法アイテムだ。古代呪文を詠唱する。


火焔烈矢フレイム・アロー!」


 術者の魔法の杖の先から火の玉が生じ、五本の炎の弓矢と化して地上の二人に連射される。レザーチェは青いレザーコートを翻して身を守る。耐熱性のようで、火矢が小さな火に拡散する。さらに炎塊を越えて、岩石巨人がレザーチェに掴みかかってきた。


「むっ……グリフェは……この隙に逃れたか……」


 眠り男レザーチェは建物の狭い隙間に身を隠しながら、共同戦線がもう破られたことに気がついた。


 当のグリフェは月夜の空を鷲の翼を生やして飛んでいた。目指すは昼間のカーニバルで見世物をやっていた、カリガリチュアの見世物小屋テントだ。


「はん、人様の争いに巻き込まれてたまるか……お互いに潰しあって共倒れしやがれ!」


 静まりかえったマダム・カリガルチュアのテントの裏口に、グリフェは降りたち、鷲の翼を折り畳んで背中に収納する。灯りが点るテント内は木箱や機材がつまれ、奥に馬車が見えた。グリフェは注意深く中に侵入していく。


 その背後に、殺気がした。木箱の壁を崩し、巨大な猛獣が出現した。黄褐色の表皮に黒い櫛歯くしばのような斑紋。東域の密林に生息する巨虎だ。鋭い牙を生やした口を開き、野獣の咆哮をあげ、グリフェに襲いかかった。


 グリフェはロングコートを翻し、テントの舞台裏の階段に飛び乗った。そして、右手の魔爪を閃かせ、巨虎に対峙する。猛獣の双眸が金色こんじきに輝いた。彼は巨虎をガーゴイルのように切り刻む気だ。しかし、この実はこの虎は彼の相棒タートル・ピッグが変身した姿なのだ……


 表舞台と裏舞台をつなぐ通用口の扉の影には、成り行きをみるマダム・カリガルチュアがいる。彼女の魔眼催眠術が虎に化けたタートルを操っているのだ。



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