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対ゴーレム戦


「アンタ達! 危ないから早く離れるんだよ!」



小屋の近くから待避命令を出してきたアピスの声が聞こえてたのだが、ここで下手に引き離すとゴーレムのターゲットがアピスに向く可能性が高い。



アピスは槍を構えて臨戦態勢ではいるものの、既に50発以上の銃弾を浴びせても怯みもしないゴーレムの防御力から推察するにとても生身の人間に打倒出来るような相手とは思えない。



「何やっているんだい、アンタ達! 早くソイツから離れな!」



「ゴーレムの防御力は相当高い! ここは俺達が引き離すからアピスさんはウィスカに向かって逃げてくれ!」



この路面でこの車の足があればゴーレムを楽に引き離す事ができる。 戦車が無い状況で銃弾の攻撃も効かない上、アピスもゴーレムに気付いているのであれば下手に倒そうとせずに逃げて小屋から離れた場所で撒けば問題ない。しかし……



「なに甘っちょろいこと抜かしてんだい! 槍使い(ランサー)を舐めんじゃないよ!」



「っ! シドー、彼女が腕の利くランサーであれば勝機はあるぞ!」



「だが作戦はどうするんだ!? こんな素早く動くのであれば槍を持ったまま攻撃するのは至難の業だぞ!」



お互いの声が聞こえるという事は、それだけ互いの距離が近い事という意味と同じだ。 アピスの槍がゴーレムを一撃で粉砕できる威力があっても当たらなければ意味がないし、そもそも接近するまでにやられてしまっては元も子もない。



すると一本の槍がゴーレムを命中した。どうやらアピスが投げたもので命中した時の音とゴーレムの怯み具合いから見てもP90の攻撃よりも高威力である。 しかし、この攻撃によってヤツのターゲットはアピスに変わってしまった。



俺は再び射撃を行いゴーレムに命中させるが、ゴーレムはアピス目掛けて一直線に突撃して行く。 ゴーレムはアピスに思いっきり殴り掛かってきたが、彼女もフィーナみたいに素早く動いて攻撃を回避したものの、ゴーレムも連続で攻撃を繰り返してきており、このままではアピスの体力が持ちそうにない。



「このままでは彼女の体力がもたない! シドー、私がアイツの攻撃をそらすから車を近づけてくれ!」



「そしたらフィーナがやられてしまうだろ!」



「だが彼女を見捨てる訳にはいかない! それに私とて剣士のはしくれだ、 剣術と素早さには多少なりの自負はある」



「……ヤバイと思ったら直ぐ逃げるんだぞ!」



作戦としては、まず車の窓からフィーナが屋根に登りタイミングを見計らってからヤツの腕、可能なら頭部に攻撃を加えてフィーナにゴーレムの攻撃を移す。 そしてフィーナの身体能力の高さを生かして攻撃を引き付けている間に俺がアピスを車に乗せてからフィーナを回収して離脱するといった感じだ。



アピスはゴーレムのパンチで巻き上げられた土や砂埃を食らいながらも回避行動を取ってはいるものの、表情を見る限りかなり疲弊している。 俺がパワーウィンドウのスイッチを押して助手席の窓を開けるとフィーナは後部座席に置いた剣を持ち、屋根に登る。



「たぁっ!」



そして車がゴーレムの死角に入った所で屋根から飛び上がり、ゴーレムの左腕に斬りかかり、素早さを生かした連続攻撃を繰りだしヤツの体の一部が小石程の大きさとなって砕けて飛び散り、車のフロントガラスやボンネットに当たる。



「すげぇ、火花が飛び散ってる……」



槍を投げて攻撃手段を失ったアピスを攻撃していたゴーレムは武器をもち、自分の体を斬りつけているフィーナへとターゲットを変える。



「お嬢ちゃん、何やってるんだい! そんな武器でコイツが倒せる訳ないだろ!」



「分かってます! ですが今はアピスさんを逃すことが第一です! 今後ろにグレーの鉄の箱車が走ってます、それに乗って下さい! 私も後で合流するので早く!」



「っ! 武器も無いんじゃあ仕方ねいね、頼んだよ!」



アピスが一端待避した俺の車に向かって走ってきた。どうやら陽動は成功したらしい。 俺は助手席のドアを開けてアピス目掛けて一直線に車を走らせて彼女との距離が縮まった所でサイドブレーキを思いっきり引っ張った。



車が180度回り扉が完全に開き、今度は素早くバックギアに入れて全速後退してアピスとの距離が更に縮まった所で車を90度旋回させてアピスの前に停める。 こうした運転が出来ると自分が戦車の操縦士である事を自慢したくなるものだ。



「乗って下さい! このままだとフィーナが危ない!」



アピスは始めてみる、馬が引かない車を見て動揺してはいたが、フィーナが一人でゴーレムと戦っているので直ぐに我に返り、乗り込んできた。 車を見てしばらく固まると思ってはいたがそうではなく、この辺りは長年の冒険者としての経験がモノを言っただろう。



車を再発進させると遠心力でドアが音を立てて閉まり、この車の加速性能の高さが伺える。 俺はそのまま車をフィーナの元まで走らせ、アピスを回収した事を伝える。



助手席にはアピスが既に座っているため、フィーナを座らせる為に後部座席に彼女を移動させたはいいが、問題はフィーナが車に乗るまでの間の時間稼ぎで、何とかヤツの気を逸らす手段が欲しい。



「アピスさん、アイツの弱点は!?」



「アイツは目が弱点よ! 聴覚や嗅覚は殆どないから何とかして視界を奪えれば時間が稼げるさね!」



俺はP90をゴーレムの顔に向けて発射するが、ヤツの目は高い位置にあるうえに細い。 車を走らせている事やP90の発射レートの高さと相まって殆ど当たらずに最後のマガジンを食いつくしてしまった。



しかし、回避行動に専念しているフィーナは殆ど攻撃出来ておらず、頭を撃たれたゴーレムのターゲットは再び俺達の乗った車へと向いた。 俺はチャンスだと思いフィーナを一度小屋の近くまで待避するように指示をだす。



「よし、今がチャンスだ! フィーナ、小屋の近くまで後退しろ! 一度ヤツを離してから拾う!」



「分かった!」



フィーナが小屋に向かって走り出したので俺は彼女とは逆方向に車を走らせる。 そしてゴーレムがフィーナと充分に離れた事を確認してアクセルを踏み込む。 ゴーレムも必死に追撃しようとするが、平な道でアクセルべた踏みのスポーツカーに追い付ける筈もなく距離は開く一方だ。



「このくらい離せば問題ないな」



俺は車を再び180度旋回させてフィーナを迎えに行く。 ゴーレムと再びすれ違い、ヤツも旋回して追撃してきたが、フィーナがドアを開けてから乗り込むまでの時間は充分にあり、小屋まで近付くとフィーナはすかさず車に乗り込んで、3人を乗せたパルサーは再び走り出す。



ゴーレムに小屋を破壊されてはいけないので今度は小屋と逆方向に走って再び距離を開ける。 道中でアピスの投げた槍をフィーナに拾って貰い、一度態勢を立て直す為にゴーレムを一気に突き放す。



「アンタ達一体何者なんだい? あんなに速く走る箱車なんて今まで見たことがないよ」



「自分の居た国独特の発明品ですよ、今はそんな事よりアイツの打倒が先決です。 二人の武器はまだ使えるのか?」



「私の剣は刃先が欠けてもう使い物にならない。 シドーはどうなのだ?」



「俺も弾が全て底を着いた。 もう囮をするのが精一杯だ」



「アタシの槍はまだ使えるけど、半端な攻撃ではヤツを倒すことは出来ないわ。 この際上から垂直に頭目掛けて槍を突き刺すのが確実よ。 問題はヤツはすばしっこいから命中するかが解らないのと着地の衝撃で周りを巻き込んでしまうことね」



「何とかその場に留まらせればいいのか」



「ああ。 何らかの方法で視界が奪えればヤツの足は停まるだろう。 そして動きが止まった所でアピスさんがヤツに一撃加えるのが理想的な流れだ。 シドーは何か視界を奪う道具とか持ってないのか?」



「戦車には発煙筒が付いているのだが……。 いや、待てよ、何とかなるかも知れん」



俺はある作戦を実行すべく、車を加速させて距離を取ってから停止する。 首に掛けた双眼鏡で見るとゴーレムは未だにこちらに向かって来ているので、俺は召喚メニューを開いて作戦に使う道具を召喚した。



「こんなのが役に立つのかい?」



「ええ。 フィーナ、すまないがそっち側の(サイドミラー)にもこれを使ってコイツを固定してくれ」



「あ、ああ」



俺とフィーナはガムテープで車のサイドミラーにあるものを固定してから アピスの座っている座席を畳んでトランクを開ける。 これは槍を持った彼女が素早く降りれる様にするためだ。



「シドー! ヤツが追い付いて来たぞ!」



「よし、アピスさん、準備は出来てますか?」



「何時でもいけるわ。 しかしこんな作戦を考えるとわねぇ」



カチンっ……



「よし、フィーナ! コイツをそっち側にくっ付けた筒の線に当ててくれ!」



俺は車に備え付けられたシガーライターに熱を入れてサイドミラーにくくり付けた二つの筒の導火線に火を着ける。



それが何なのかと言うと、特撮映画の撮影等に使われるカラースモークの発煙筒で2分ほど効力の続く強力なやつだ。 車のサイドミラーから真っ赤な煙が煙幕となり、ゴーレムは目の前の車から急に視界を奪われ動揺する。



「今だ! アピスさん、頼みました!」



「任せな!」



勢いよくアピスが車から飛び降りて轢かれない様に一度離れる。 俺はそのまま車をスライドさせながらゴーレムの周りを回って煙幕を更に掛け、ゴーレムは完全に視界を失った。



「コイツもオマケだ」



俺はダメ元で車に備え付けられた緊急用の発煙筒を追加で投げ、スモークが切れると今度は車をアピスがジャンプする際の飛距離を稼ぐ為に使う踏み台にするべく彼女の元に走らせる。



アピスも事前の打ち合わせでジャンプ時の高度を稼がせる為に車を踏み台として使わせる事を伝えたのでゴーレムとの距離を詰めて轢かれる手前まで来た所でジャンプし、車のボンネットを踏み台にして一気に跳躍した。


バキっ!


「くっ! なんかヤバイ音したな……」



アピス曰く着地の衝撃で巻き込まれると言っていたので俺はそのまま車を加速させて距離をとる。 彼女は空中で体勢を整えて一気に急降下して、槍から音速を超えた時に発生するソニックブームの様な衝撃波と音を発し、垂直に向けられた彼女の槍はゴーレムの頭部を貫いた。 その様子は正に蝶の様に舞い、蜂のように刺すといった感じである。



「でぇぇりゃあああ!!」



頭部を貫かれたゴーレムは派手に火花を散らせてから砕けて崩れ落ち、沈黙する。 アピスが着地した衝撃で周囲の地形が割れてクレーターを作り、車内にも地震の様な揺れが伝わって、まるで自走砲の砲撃にさらされたかの様な状態だ。



「アピスさん!」



煙が晴れ、俺達は車から降りて爆心地と化したクレーターの中央に駆け寄る。 アピスは全身泥まみれになっており、ボロボロになった槍の側で横たわっていた。 俺はすかさず彼女の体を起こして声を掛ける。



「大丈夫ですか!?」



「アタシは大丈夫よ。 でもペネトレイトを使ったから歩けないわ。 悪いけど一度小屋まで運んでくれないかしら? 」



ペネトレイトは魔力を使い、身体能力を爆発的に上げてジャンプし、槍を突き刺して周囲の敵を仕留めるという必殺技レベルのスキルらしく、その代償として体に多大な負荷を掛かり、しばらく動けなくなり、更には武器を大破させてしまうそうだ。そんなスキルを使った彼女を俺は抱き上げ、車のトランクへと運ぶ。



「あら、お姫様抱っこなんて、アンタ洒落たことしてくれるじゃあない」



「大工担ぎさせるよりはマシでしょ?」



フィーナはギルドへの打倒報告用の証拠としてゴーレムの残骸を採取してから車へと戻る。



アピスをトランクに詰め込んで俺は彼女が踏んで嫌な音の発信源となった箇所を見ると、この車特有のボンネットに設けられた大型のエアインテークが割れていた。 音の発信源はこれの様だ。 しかしエンジン周りは特に問題なく、一度アピスを連れて小屋まで戻ることにした。



「ありがとうね、しばらくこのままで居させてもらうわ」



俺はアピスを小屋で横にさせてから戦いで損傷したパルサーの修理に取り掛かるべく、必要な工具類とボンネットのエアインテークの部品を召喚して砕け散ったパーツを取り外す。 戦車の基本的な整備の訓練を受けた俺にとっては乗り慣れた車の外装パーツの交換なんざ朝飯前だ。



「急に外に出たと思ったら……、何しているのだ?」



「ああ、戦いで損傷した車の部品交換さ。 早くしないと真っ暗になってしまうからな、ところでアピスさんはどうなんだ?」



「問題ない。 あと一時間もすれば歩けるだろう」



修理を終えた俺は小屋に戻って戦いと修理でかいた汗を流すために小屋に置かれている魔石を使って風呂を沸かす。 宿の風呂の様な大浴場ではないので風呂はすぐに沸いて体を洗い、事前に出したタオルで体を拭いてから上がる。



俺が風呂から上がる頃には周囲は真っ暗になっていた。 当初より大幅に帰還するのが遅れそうだが、同じく戦いで泥まみれになった二人にも風呂に入ってもらうように促す。



「折角昼間に水浴びしたのに、こんなに汚れたらもう一回入るしかないね。 フィーナちゃん、一緒に入らない?」



「いいですよ、アピスさんもまだ完全に回復していないでしょうし、お手伝いします」



アピスとフィーナが風呂に向い、お互いの汗と泥を流す。 そしてやはりと言うか、アピスの掴み所のない乾いた性格なのか、彼女がフィーナの身体を触っていると思えしきやり取りが壁越しに聞こえてきた。




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「フィーナちゃん、綺麗な身体してるわねぇ。 発育の方はどうなのよ?」



「ひゃい! アピスさん、やめて下さい! それに私はアピスさんほど立派な身体ではありませんよ……」



「あら? うれしい事言ってくれるじゃない」



「んんぅ! ど、どこ触ってるんですか!」





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「……修学旅行かよ、ベタなやり取りしやがって」


「ええい! 心頭滅却! メシ作るぞ!メシ!」



俺は必死に煩悩を封じ込め、自衛隊のレーションとして各部隊に配分されている戦闘糧食Ⅱ型(コンバットレーション)のビーフカレーとハンバーグ、白飯を多目に召喚する。 これは以前に宿の食堂にてフィーナとエティが大量のカップ麺を平らげた為、戦いで腹をすかせた二人におかわりを要求されても対応出来る様にするためだ。



風呂から上がったアピスには食事を取ったらすぐに移動する趣旨を伝えたのだが、夜道は殆ど道が見えず、魔物も強力な奴等が出てくる為、移動は控えた方がいいとの事だ。



暗い夜道は車のライトを使えば走れるが、問題は後者である。 俺達は全員武器を失ったも同然な為、下手に動いて車が魔物の攻撃等で大破して動けなくなるという可能性は否定出来ない。 戦車があれば問題ないだろうが、今の装備でそんな状態に陥ったら成す術もなくやられてしまうだろう。



そんなリスクを背負ってまでも移動してウィスカに帰ったとしてもエティやガリアンが余計心配するうえ、帰るのが1日遅れるくらいならば途中で寝泊まりしたと予想を付けれるから逆に明日の昼くらいに帰れば余計な心配をさせなくて済むと言うフィーナのアドバイスもあり、俺達は予定を変更してこの小屋で一夜を明かすことにした。



こうして異世界初の対ゴーレム戦闘は剣と槍と車のロールプレイによって幕を閉じたのである。

小説情報の文字数を見て既にラノベ1冊分の文字数になっているのを見て時間が過ぎるのは速いと感じている作者です。 そろそろ戦車を活躍させて魔法使いを出さなくては……

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