配達日記3
平原の小屋を後にした俺達は目的地のコールマンに向かって再び水平線のようなラティーナ平原を走っている。 だがしばらく走っていると車は草原から徐々に岩が多く点在する荒地へと突入していった。
カチャカチャ ゴトゴト……
草原の緑から荒地の茶色に地面が変わると草原にあった舗装路がなくなり、粗削りに整地された不整地へと変わってサスペンションが路面の石を拾い、車内に揺れやタイヤハウスに石が当たる音が聞こえてくる。
「随分と揺れるな。フィーナ、酔ったりはしないか?」
「大丈夫だ、むしろ馬車より揺れないから快適だぞ。この辺の馬車に乗ると体がおかしくなりそうな程揺れるからな」
「ああ、馬車にはサスペンションが無いからなぁ」
と言ってもサスペンション付の馬車は存在するのだが、この世界の一般的な馬車にはおそらく付いていないのだろう。 そして俺は自分の愛車が四駆のラリーカーとして開発された車であることに幸運を感じだ。
確かに後発のラと比較すると性能面では見劣りするが、それでもこの世界を疾走するには必要十分なモノがある。
「シドー、もうすぐコールマンに到着する。 このまま道に従って走ってくれ」
「分かった。 しかし平原と違ってカーブが多いな」
「この辺りは岩を避ける形で道がひかれてるからな、仕方ない」
「だが結構面白そうなレイアウトだな」
「面白そう?」
「ああ、この車はこんな道を速く走るための車だからな」
「この道をこれ以上に速く走れるのか……」
俺は証拠としてアクセルのスロットルを開いて速度を上げる。 50キロほどで走っていた車は100キロ近くまで加速し、緩やかなカーブを曲がって行き、飛ばす前より車内に伝わる揺れが激しくなる。
「うおっ!」
ガコっ! ビィィィィン!
「そぉい!」
左に緩やかなカーブを曲がったがすぐ先に右回りのヘアピンカーブが表れ、すかさず減速しつつ振りっ返しを決めてから車をスライドさせ、このヘアピンコーナーをパスし、外側のタイヤが路面の小石を弾き飛ばし車は次々とカーブを曲がっていき、フィーナは右に左にと体を振られ、手や足しを張って横Gに抵抗している。
「ひぃ! シドー、速度を落としてくれ!」
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「即落ちするなんて情けない。 改造すればこれより機敏に動くようになるぞ?」
「うぅ……、すまないが停めてくらないか? 外の空気を吸いたい……」
フィーナが軽く酔ったみたいなので彼女の要求通り車を停める。 幸いな事にリバースすることは無く5分程待っていたら顔色を元に戻し、車に乗り込んできた。
そして通常のペースで走っていると遠くに高さ10メートルはありそうな大岩が現れ、徐々に距離を詰めて行くと岩の表面がくり抜かれているのが確認出来るようになった。
「シドー、あれがコールマンの町だ」
大岩の手前に着くと表面が階段みたいに削られた岩肌に穴が開けられており、そこから住人と思えしき人々が出入りしている為、この壁に掘られた穴を住居にしているように見える。
「なんだ、洞穴が住居になっているのか?」
「ああ。 この町は岩が住居になっている珍しい所だ。と言っても壁の内側はウィスカみたいな建築物が多いのだがな」
フィーナはこの町の生い立ちや生活様式について語ってくれた。
コールマンは良質な鉱石や魔石を多く含む岩場が連なった鉱山で、初めてこの地域にやってきた人々が岩肌に穴を掘った穴を住居として使い、生活し始めたのがこの町の生い立ちだそうだ。
そして元々頑丈な岩なので魔物の奇襲にも強く、魔物の脅威のあるこの世界では非常に利にかなった町の造りである。 今では地元の人々は岩場の城壁内部に作られた住居に住んでおり、外壁の住居はギルドや自警団の拠点、旅人用の宿泊施設になっているみたいだ。
俺は車を例の大岩の一番下に掘られた町の入り口に繋ぐトンネルの入り口の横に停められた馬車と道を挟んで向かい合わせるようにして停める。
「うーむ、これは何というか……」
車の隣に停められていた馬車は全身まっ金色のメタリックカラーでその清々っぷりは車輪のボルトに至るまで金色で、前方両サイドにドラゴンの頭をあしらった飾りを着けており、悪趣味以外の言葉が思い浮かばない程であった。
「あの忌々しい紋章の持ち主が来ているとは……」
「知っているのか?」
どうやらこの馬車に書かれている紋章はレズリー家という金持ちのモノらしい。 フィーナ曰くこの家の主はテイマーで魔物を使って旅をする冒険者だったのだが、テイマーは都市伝説クラスのレア職であり、それだけでテイマーの居ないこの辺りで自然と財を築いたそうだ。
そしてこの馬車は財を築いたという人物の息子の物という。 これだけなら趣味の悪い金持ちの息子で済むのだが、この息子というのは究極の差別主義者で人族以外は全て害悪という極端な思考回路の持ち主で金持ちという特性も合間って最も性格の悪いカテゴリの人間で、ウィスカの住人は皆邪険にするそうだ。 なお、元々ウィスカの住人ではないフィーナも彼の事を良く思っていないそうだ。
「私はアイツがここのギルドで話ている所を見たことが一度あるが、私自身が面を合わして話ている立場なら剣を抜いていたかも知れない」
「そんなに酷いのか……」
「ああ、シドーもヤツの話を聞けば分かる。 多分センシャで吹き飛ばしてしまうのではないか?」
フィーナが明らかに嫌いな人間を見る目をしている。 するとトンネルから馬車と同じくらい悪趣味な服装を纏った男が出てきた。 その男は大体20歳手前と思う見た目で顔も悪くなく、恐らく町の関係者と思えしき作り笑顔をした人々と馬車の馬主が一緒についてきている。
「いやぁ、みんな俺の為に尽くしてくれてありがとなぁ」
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「嫌味な言い方するなぁ、何で金持ちは金色に拘る習性って万国共通なんだろうかねぇ……」
そしてその悪趣味な金持ちの息子が馬車に乗り込むと外に出た町の人々が深々と頭を下げた。 そして馬車が見えなくなった途端にコールマンの人々は頭を上げて
「バ金持ちが! ぺっ!」
ザッザッザ
「ぺっ!」
ザッザッザ
町の住人が今までの作り笑顔を崩し、悪態しながら中指を立てたり唾を吐きながら町中へと戻っていった。
「……」
「町の住人の反応を見ただけでも物凄い恨まれてるのが分かるであろう?」
俺とフィーナが車の中で話ていると町の入り口のトンネルから一人の男性が出てきて車の元へ寄ってきた為、俺とフィーナは車から降りてその男性に挨拶をする。
「コールマンへようこそ! 先程はお見苦しい所見せて申し訳ありません」
「いえ、気にしないでください。 ヤツの事は私も少しは知っていますので」
フィーナが町の案内人と今回の荷物配達の件について話を進めてくれた。 すると案内人は一度トンネルへ戻り、 今度は荷物集積所の係員を連れてきて、俺は車のトランクを開けて依頼の品を渡す。
「確かに受け取りました。 ではこの受け取り証を」
「ありがとうございます。 では私達はこれにて」
「もう帰るのですか? 少し休んではどうです?」
「ご厚意は嬉しいのですが、急ぎウィスカに戻らないといけませんので……」
実は宿屋のエティには今朝今日中に戻ると伝えてしまった為、帰りが遅くなると余計な心配をさせてしまうため、今回は帰ることにする。 正直、町中へ入ってみたいという好奇心あるのだが、それは今度の機会だ。
休憩所の道草や不整地によるスピードダウンで予想以上に時間が食われたので既に日がかなり沈んでいる。 俺達はコールマンを後にし、不整地を抜け特に魔物に襲われる事もなく快調に走っている。
舗装路に戻り、綺麗な夕日が見える頃には休憩所として使っていた小屋の近くまで来たのだが、助手席に座っているフィーナが体をモジモジさせていおり、明らかに様子がおかしい。
「おい、大丈夫か? 酔ったなら停めるぞ」
「酔った訳ではない。た、ただ、トイレに行きたいだけだ……」
「まったく、だから飲み過ぎるなと言っただろ。 もう今朝休んだ小屋が見えてきたが着くまで我慢できるか?」
「む、無理だ……」
フィーナの顔が更に事の深刻さを表してきた。 俺は舗装路を外れて森の方へと車を走らせて入り口の手前で停める。
「この際だ、仕方ない。 この先の森でしてこい」
「……」
「こ、今度は何だ?」
「シドーは女にスコップを持たさず用を足させに向かわせるのか……?」
「あーもう! めんどくせぇな! これで穴でも掘っとけ」
俺は自衛隊内で使わせているスコップを渡し、フィーナは車から降りて森へと突入していった。 自衛隊内ではエンピと呼ばれるこの多目的スコップは折り畳み式になっており、折り方を調整すればクワにもなり、シャベルの部分には刃が付いていたりと本来のスコップ以外の用途にも使えるという万能アイテムだ。
俺も訓練で使ったこともあるが、イメージとしてもっぱら仮設トイレのない演習場でトイレに行きたくなった隊員が現地で地雷埋設用の仮設トイレを作る為に使っている印象の方が強い。
「そいや、フィーナは紙持ってるのか?」
ウィーン……カチカチ……
「CD変えるか……」
オーディオユニットからCDを回す音が聞こえて今朝入れたCDが1周回った事に気付いた俺は二枚組になっているもう1つのCDを入れてフィーナが戻ってくるのを待つ。 するとフィーナが森から血相を変えて飛び出て、慌てて車に乗り込んできた。
「は、はやく! 車を出してくれ!」
「おいおい、どうした?」
俺がフィーナが出てきた場所に目を向けると森の草木が揺れ、全長5メートルほどはありそうな岩石男みたいな魔物が出てきた。
「うお! 何だコイツは!?」
「フォレストゴーレム。 ガルトウルフと同様、凶暴な魔物だ! ひぃ! は、早く車を出してくれ!」
フォレストゴーレムと呼ばれる魔物は岩でできた腕を振り上げて俺達の乗っている車目掛けて思いっきり殴ってきた。 俺はヤツが攻撃する素振りを見せてきた時にはエンジンを吹かし、クラッチを繋いで車は急発進させて紙一重でヤツの攻撃を回避する。後で重たい物同士がぶつかる鈍い音がしてミラー越しに後ろを見ると、ゴーレムの殴った地面には大きな穴が開いており、この攻撃は絶体に食らってはならないと本能的に判断できた。 だが俺はゴーレムは攻撃力は高いがその分鈍足と考えていたのだが、俺の目に映ったのは40キロ程の速度には普通についてくるゴーレムの姿だ。
「くそ! 小屋に近いから無闇に逃げると小屋にいるアピスさんが危ない!」
「仕方ねぇ、フィーナ、ここで片付けるぞ!」
俺は後部座席に積んでいるP90を取り出し、窓を開けてからゴーレムに対して射撃を行う。
タタタタタ!
P90の弾はゴーレムに当たりはしたものの、ゴーレムには大してダメージを与える事はできない。 攻撃対象が大き過ぎるのだ。 P90は元々対人用のPDWでこのような魔物を倒すという用途は当然ならがら想定していない。
戦車があれば主砲で一撃粉砕できそうな魔物だが、今俺達にある火力は俺のP90とフィーナの片手剣だけだ。 フィーナの方も対ゴーレム用の大剣を持っていない為、効率的なダメージを与えることが出来ないそうで俺は残りのマガジンを装填してゴーレムに射撃を行う。
「くそ! きかねぇ!」
ゴーレムの体はその辺の土とは違って鋼鉄みたいな固さだ。 俺がゴーレムの攻撃を避けながら反撃を行っていると、 遠くから昼間聞いたことのある声が聞こえてた。
「アンタ達! そんな攻撃ではヤツを倒すことは出来ないよ!」
声の主は小屋で出合い、この小屋で一夜を明かすと言っていたアピス本人であった。 彼女は片手で自分の背丈くらいある巨大な槍を構えており、これから科学文明の利器とファンタジー世界の利器が共にゴーレムという強敵に立ち向かおうとしていた。




