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18【新人侍女】は語り終える。

病という言葉に対して不快に思われる方はご注意を。最終話なのに、このような前書きで申し訳ありません。

久々に嫡子様がお屋敷に帰ってきた。この長期休みを終えて実技と筆記試験に合格すれば、晴れて上級学生の卒業を迎える事となる。実技って何のですかと問うと、実技は実技だとのお言葉


「……エロ系の実技ですか?」

「それなら一発合格だろうな。……って、どんな学校なんだよそれは」

「あはは」


何故か教えてくれないので、ヤバい実技なのだろうなとスルースルー。お休みといっても、侯爵家を継ぐため当主様の秘書としての仕事を始めるので、とても忙しい日々を送っていらっしゃる


お屋敷にはボルドーとネイビーの2種類のお仕着せをまとった侍女が働いている、未婚の娼婦と既婚の元娼婦たちだ。ちなみに私はいまだに男装中である、なんだかここまでいくと当主様は最初から妹の事を知っていて、私を男装させたのではないかと疑っている


ちなみに豊満系侍女さんはまだ入籍していないが、既婚のしるしであるネイビーの服をまとっていた。しかし彼女の場合どこに入籍するのかは謎、なにせ旦那が2人いるのだから


侍女長様のように同じ家の出身(きょうだい)じゃないから。あ、侍女長様は入籍していないけれどね


「妹系、病弱系」


そう、嫡子様は2人に呼びかける


「2人もそろそろお仕着せの色を変えろよ、幸せになれ」

「……嫡子様」

「え~、もうあたしたち、いらないの?」

「馬鹿、そうじゃないだろう?」

「「……はい、嫡子様」」


そう言って最後の試験を受けに学校へと戻った嫡子様。その間に、妹系侍女さんと病弱系侍女さんはネイビーのお仕着せへと衣装を替えた


「う~ん、こうも見た目ではっきりさせられると~。…………ハズカシイネ、うん」

「そうですわね……。でも、嫡子様どうなさるおつもりかしら?」

「政略結婚でもするんじゃないかな。一応そう言う話もあるからね」


照れる妹系侍女さんに、心配する病弱系侍女さん。そして病弱系侍女さんの疑問に答える副執事さん。彼とは学校寮への出張が縁で、侍女控室で話すようになったのでした


それにしても政略結婚かぁ……、正直この侯爵家で政略結婚ってピンとこないです、むしろ未婚上等な感じ。しかし高位貴族は大変ですね。この家だと嫁入る方も、余程の事情アリの事故物件だとおもわれてしまうでしょうね……


そういえば清楚系侍女さんはどこへ行ったのでしょうか、もしかしてスルー物件ですか?






そして嫡子様は見事首席で上級学生をご卒業なされた





それからは淡々とした日々が続く。『専用娼婦を飼っている侯爵家屋敷』と言われていたここは、すでに当主とその弟の専用娼婦が1人と、嫡子専用素人娼婦もどきが1人という状況、侍女長と私ですよ。屋敷はネイビーのお仕着せをまとう臣下の妻である侍女たちが多く働いている


驚くことに私はまだ処女を守っている。誰にもお供を誘われることもなく、普通?の男装侍女を務めている。……誰からも誘われなかったと言えばそうなのだけど、手を出してもいい権利を持つ人たちは、皆さん意中の方がいて大層その方々を愛されているのだ。強いてあげれば料理長さんは独り身なのだが、あの方は一途に病弱系侍女さんを想っていて私の出る幕は無いのだ、出されても困るし


そしてさらに数ヶ月後、豊満系侍女さんと病弱系侍女さんがご懐妊との事。めでたいのだけれど……先代執事長、貴方は枯れているのではなかったのッ!?


家臣団の重鎮が跡継ぎを得ているのに、あいかわらず嫡子様は独り身である。処理の方は経営している高級娼館の方で発散しているらしい、どうして屋敷に呼ばないのだろうか?



さらに月日は過ぎ、妹こと3番目はやっと淑女学校を卒業した。正直、成績ギリギリのへっぽこ淑女だそうだ。卒業式はさすがに見に行ったのだが、凄くぎこちない礼をし、ぎくしゃくと歩き、ひきつった笑いを浮かべていた。……想像以上にへっぽこ淑女。まぁ、生まれてずっと男もどきとして兄弟に囲まれていたのだ、仕方ない……と思う事にした


弟たち小悪魔フォーも学校卒業となった。優秀でももう学費払えませんからと、とっとと1番目には男爵位を継承してもらい、2番目には母の実家に預かってもらっていた事業で、1番目の補佐をする事になるらしい。4番目は騎士となる為仕官、5番目は冒険者になると言ってフラフラ旅に出たらしい……何、冒険者って?


「何の目的もなくふらつく旅人ですよ、姉上。5番目らしいじゃないですか」

「役割の国である《3の国》人として、異端なのだけはわかったわ……」


もういいわ、腕白でもいい。私に迷惑さえかけなければ




そんなこんなでお屋敷に奉公して3年ほどたった頃だろうか、やっと私の男装命令が解除された。しかも結局嫡子様にはばれたのかばれていないのか、よくわからない状況だったりする


初めて袖を通した序列2位侯爵家のお仕着せ、もちろん葡萄酒色のものを。……現在嫡子様の専用娼婦は私だけなので、この色は侍女長様と2人しか着ていないのだ……なんだか偉そうですいません


白いエプロンにヘッドドレスをつける。以前いたお屋敷でも似た様なお仕着せを着ていたのだが、男装に慣れてしまって久々のスカートは気恥ずかしい。しかもこの格好を嫡子様の目にさらすのは……




侯爵家の立派なお庭。侯爵家の造園技術は前にも言ったかもしれないが、恐らくこの国一番の技術を持つ稼ぎ頭。その庭にせり出すように設計されたサンルーム。嫡子様は天気がいいのでドアを開け広げ、床に座って庭の方へ足を投げ出している。ぼんやりと美しく整えられた庭を見ている彼の斜め後ろに、スカートをひるがえしながら立った


嫡子様はこちらを見ないで言う


「いい天気だな」

「はい、そうですね」


日は眩しく、涼しい風が良く通る


「サンルームは見た目は良いが、手入れが大変だ。上級貴族でないとこまめな清掃が出来ないし、そもそも質の高いガラス板を作るのは大変だ。ギフト持ちがいると楽なんだろうけど、この国はギフト持ちが少ない」

「そうですね。掃除とガラス磨きは大変ですよ、特に上部は女ではなかなか手が回りませんし」

「まぁ、うちには庭師団がいるからな。手が行き届いていて自慢になる」


そう話すとやっと私を見た、ボルドーのお仕着せ姿に驚きも見せずに


「ギフト持ちの代わりに、病持ちの者が多い。父もそうだし、……恐らく俺もだろう」

「エロいってことですか?」

「俺は高位貴族、序列2位侯爵家の嫡子だ。家、そして家臣団の家族たちに責任がある。愛情だけでは妻を娶ることは出来ない、それ相応の知識と強かさが重要だ。でも……それだけでも家族に、妻に迎える事は出来なかった」


昔、副執事さんが言っていた、いくつかある政略結婚の相手の事を言っているのだろう。嫡子様は足をぐっと伸ばし、庭に視線を戻し話続ける


「それに、父と侍女長を見ている俺には、夫婦の愛情は理解できなかった。あの二人は仲が良いんだと思うと、損得勘定で動いていたりするし。金で拘束されているのかと思えば、ベタベタしていたりして。はっきり言ってあの関係は謎だった。だから肌の合う女がいて、家に仕えてくれて、子を産んでくれるだけで俺はいいのだと。……いや、矛盾しているな、それなら政略でもいいのか……」

「そうですよ。……でも当主様と侍女長様だけではなく、もれなく弟君もついていますけど」

「あぁ、そう言えばそうだな。やっぱり家はおかしい、それとも家以外がおかしいのか……」

「なんだか哲学的ですね」


「どこがだよ」と笑う嫡子様。もっと3番目も嫡子様とお話をすればよかったのに、そうして普通に愛情を育てていけばよかったのに……。育ちの所為で他人との交流が下手だった妹、私が気が付いてあげていたら、もっと違う結果になっていたのかもしれない


もう、今更だけど


「3番目に期待していたんですね、もっと話し合っていればとか?」

「多少……な。でも駄目だった、俺がただの男だったら彼女を選んでいただろう。でもやはり駄目だった、彼女ではわが家には無理だ。そう思ったら、スッと冷めてしまった……悪いな、お前の妹なのに」


本当にすまなそうな顔をして、謝る嫡子様。私は隣にぺたりと座り込み、同じように足を庭の方へと投げ出した。着たばかりのお仕着せをすぐに汚してしまったが、これはそういう服だから大丈夫


「高位貴族って言うのはそういうものですよ。自分の感情よりも家を優先させたんですよね?それは人間としては微妙ですが、貴族として家臣団の命を預かるものとしては普通だと思います」

「人間としては微妙か……」

「微妙です。だって娼婦を屋敷において、侍女として()働かせていたんですよ。普通、情人は情人、侍女は侍女として雇うものです。まぁ、侍女に手を出すお貴族様もいますけれどね」


愛情の定義がわからず苦しんでいる嫡子様。そんなに難しく考えなければいいのにと思うけど、これは環境が悪い。両親は叔父と3人で閨を共にしているし、近くの女には手を出し放題、複数、年の差、風呂場で致すも何でもアリ。ただし素人さんと人妻には手を出してはいけないという環境……


う~ん、改めて考えると色々酷いな、此処



嫡子様は私の頬に手を滑らせて、すまなそうな顔で言う。さっきからそんな顔ばかり、侍女に向ける顔ではないですよ。何を言うか解ってしまいましたよ、情けなくて可愛いなんて思ってしまったじゃないですか


「新人、お前子供だけ産んでくれないか?」

「愛情は無いんですよね」

「残念ながら無い、でも身内意識はある。もう、お前はわが侯爵家の人間だ」

「嘘でも口説いてくださいよ、一応女なんですから」


嫡子様は私の女発言を大笑いしながら、それは知らなかったなんてとぼけます。私も今までの事を思い返しながら笑います。2人で笑い転げた後、そっと目を閉じると、思ったより柔らかい感触が唇に乗る。専門娼婦となって3年目に、やっと初のお仕事となった私。守っていた貞操も、もうどうでもいいやと思いながら。さすがにお上手な嫡子様でしたが


初めてが『()野外』だった事は、気にしちゃだめだぞ私!!




さらに1年後、嫡子様の嫡子様を産んだ。さらに長い時を経て、ボルドーの服が序列2位侯爵家の伴侶の印となる。子供達が大きくなるまでその色のお仕着せを着ていたのは、嫡子様を産んだ侍女長様と、嫡子様の子を産んだ私だけだったからに他ならない


ちなみに、嫡子様に何時私が女だと気が付いたのかと問うと、学校卒業後、屋敷に戻ってから改めてみると私の尻がデカいなと思った時から、疑いは持っていたらしい


「その割に胸が無かったから、脱がせてみようかと思った矢先にスカートをはいていたからな。あぁそうなのかって……」




どんな確認方法なのよ、エロ嫡子様め!!

これにて序列2位侯爵家のエロ侯爵とその嫡子の話は終了です。主人公である男爵家令嬢侍女は、結局男爵家から追い出された(逃げた)という事で、正式な妻となることはありませんでした。そもそも子供(跡継ぎ)がいれば結婚なんてしなくていいやと、当主達の悪影響?を受けている2人。恋愛かと問われると、親愛。臣下たちの熱烈な愛に比べると、超薄味な2人。でも子供を作ったので、愛はあると思います。恋はないですけれど(笑)。


作中病持ちという表現を使いましたが、大丈夫だったでしょうか。念のため残酷な表現ありのタグをつけてあるので、不快だと思った方は読むのを辞めてしまっても仕方のない事だと思われます。それ以外のわかりやすい表現が思い浮かばなかった、私の未熟さなのでしょう。


最後に、『色事事情』の『色』に、艶事の『色』とお仕着せの『色』をかけています。


読んでくださって、ありがとうございました。

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