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三馬鹿の日常  作者: てり
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三馬鹿と風邪

「あれ。お前、マスクなんかつけてどうしたんだよ。」


 教室に入ってきた友人を見て駆は目を瞬かせる。期末考査も無事終わり夏期休暇までのカウントダウンに入りつつあるのにも関わらず、顔の半分程を白い布で覆っている真幸。誰がどう見たってマスク以外の何物でもない。が。花粉症にしては時期が少々、いやかなりおかしくないか?そう思い首を傾げる駆の隣で彼と同じ様に吹雪もまた首を傾げた。花粉症じゃないとしたら他の理由は何なのか、吹雪にも見当がつかなかったのである。何でだろうなー、と思考を停止させた状態のまま黙っている二人を見て、真幸は小さく息を吐き出した。そして何処か気だるそうに言う。


「あー、なんか風邪ひいたみたいでさー……」


「……え?」

「は!?」


 たっぷり三拍程沈黙してから二人同時に声を上げた。大きく目を見開いて尚且つ口まで開けている彼らの様子を見て真幸は「おい何でそこで2人して驚くんだよ」と言って小さく睨みつける。どうやら自分の友人達の反応が不満だったらしい。ひでぇや、と愚痴を零す彼に対して、吹雪が驚いた表情のまま言葉を紡いだ。


「や、だって風邪でしょ?いつも不思議なくらい元気が有り余っててしかも成績の悪い奴が?よりにもよって風邪?あり得ないし信じられないっての。」

「そうそう。」


 流れる様に紡がれたその内容に、駆も軽く頷いて同意を示す。未だ数ヶ月の付き合いでしかないが、目の前のこの友人が簡単に体調を崩す事はまずないだろう、と言える程度に元気な事は分かっていた。いつも明るいムードメーカー的な存在であり、休憩時間にはそこかしこを動き回っている。他の友人に誘われてサッカーやらバスケやらバレーやら何やらと、色々な球技に参加している姿もしばしば見かけるくらいだ。まあ流石に運動部の助っ人に入る程スポーツ万能という訳ではない様だが、それでも平均よりはスポーツを得意としている部類に入るだろう。そんな人間が早々に体調を崩すとは思えない。それに。


「馬鹿は風邪ひかないって言うくらいなんだからさ。どう考えたって真幸がひいたら駄目だろー。」


 冗談半分、本気半分で駆は紡ぐ。成績云々以前に日頃の行動が明らかにそうとしか言えないのが真幸なのだ。今し方自分と口にした内容が単なる迷信である事は分かっているが。こいつならそれを実現してくれるんじゃないかと密かに期待していたのである。それなのに見事に期待を裏切るだなんて、ひどいじゃないか。心の中で文句を言う駆と同意見なのか吹雪も「そうだそうだ!」と声を上げていた。流石、親友。良く分かってるじゃないか。脳内でサムズアップすれば、マスク姿の友人が大きく肩を落とした。


「いやお前らふざけんのもいい加減にしろよ。俺だって人間なんだから風邪くらいひくわ。」


「えー、ないわーそれ。」

 一拍の沈黙の(のち)、ブーイング。駆の心からの否定を耳にして真幸は「ないわー、じゃねえよっ」と再び盛大なツッコミを入れた。しかしやはり体力が無いのか、常日頃と違って少しばかりキレが無い。眠いのか睨んでいるのか判別のつき難い目をした真幸の、その覇気の無い様子に、どうやら本当に彼が体調を崩しているらしい事を悟った。いや、正確に言うならば、自分達は彼が風邪をひいた事自体を信じていなかった訳ではない。ただ軽いものを引っ掛けて来ただけで、体力や会話に関してはいつもと変わらないだろうと思っていたのだ。だからこそこうして弄りに行った訳で。だというのに実際はどうだ。普段よりも僅かながらに赤みを帯びた顔と、潤んだ瞳。少なめの口数。そして咳きこもうとして呑みこむ仕草。完っ全に重い部類のあれである。


 流石にこれは、これ以上からかうのはまずいかな。ほんの少しだけ同情やら心配が湧いてきた駆は、自分の隣に座る相方へと視線を向けた。ちらりと一瞬だけ互いの視線がかち合う。うん、やっぱり向こうも同じ事を考えていたみたいだ。真幸に気付かれないくらい小さく頷きあうと、再びできるだけ自然に視線を元に戻す。そして最後のオチをつける為に、吹雪が口を開いた。


「……いや待てよ。そうだよな、悪い俺が間違ってた。」

 はっ、と何かに気づいた様な表情を作り、謝罪の言葉を述べる。真剣に謝る彼を見て、漸く分かったか、とでも言うかの様に、真幸は安堵からかその大きな目を緩ませる。が。直後、「馬鹿は風邪をひかないんじゃなくて夏風邪をひくんだったな、そういえば。」と続けた吹雪の言葉を聞いて、思いっきり脱力した。まさかそうくるとは思っていなかったらしい。「何でそんなぶれねぇんだよお前ら」と最早呆れ顔の彼に、駆が更に追い打ちを掛ける。


「あ、成る程。それなら確かに納得だわ。なにせ誰がどう見たって夏だもんな、今!」

 ぐっ、と親指に力を込めて立ててみせれば、「そんな笑顔で頷かれても困るから!」という裏手ツッコミが返された。よしよし、その体力があれば一先ずは安心だ。後は午後の授業を乗り切ったら真っ直ぐ家に帰って休むんだぞ?



・ストック切れたので次回から不定期更新になります。ごめんなさい。

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