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三馬鹿の日常  作者: てり
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三馬鹿と料理

・読んでくださってる皆様方、ありがとうございます。今回の話は前2話と比べてちょっと長いですが、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

・内容はいつも通りぐだぐだです。

 的場(まとば)真幸(まさき)という名の彼が所属するこの学校は、兎に角ベントが多い。どれくらい多いのかというとほぼ毎月何かしらの行事が押し込まれているくらいに多い。他のどの学校でも行われている様な体育祭や文化祭に球技大会、修学旅行などは勿論の事、新入生歓迎会(やたらと生徒会が力と金を掛けている上に、各専門学科まで本気を出してくるのでかなり豪華だったりする)や観桜会(グラウンドで行われる、世間一般で言う所の花見の事である。因みに一体どうしてわざわざ学校で、しかも生徒会主催でやろうと思ったのかは謎だ)、夏の肝試し大会、秋に開かれる芸能発表会(正直、まだ入学したばかりの真幸からしてみれば文化祭と何が違うのか全くもって分からない)雪が積もりに積もったところで催される雪合戦大会等々。他にも当然の様にハロウィンやクリスマス、バレンタインにひな祭りといったカレンダーにあるイベントも順次押さえていたりするので流石としか言い様が無い。いくら私立だからって限度があるだろう。というのが真幸の級友の言葉であるが、お祭り騒ぎが好物な真幸からしてみれば、素晴らしいもっとやれと大絶賛したいところである。


 さて。今さっき述べた様にやたらと催し物の多いこの学校では、期末試験明けの今日この日も、例によって例の如く恒例行事が行われていた。その名も野外研修。私立の大学付属校と言うだけあって無駄に広い敷地の、その三割程を占める森で一泊二日のキャンプをするというたったそれだけの、真幸からしてみればあまり面白みの無いイベントである。主催する生徒会が掲げる名目はクラスメイトとの親睦を深める為という事だったが。中等部から持ち上がって来た級友達曰く、試験の採点と成績処理の為の教師陣による時間稼ぎが大きな理由らしい。つまり中等部でもこの野外研修が行われていた訳だな。成程。そう口に出して納得する真幸を見て、その話を教えてくれた友人はその通りだと楽しそうに笑っていた。


 理由が理由なだけあって座学を受け持つ教師のほぼ全員がこの行事に対して完全にスルーを決めており、その研修内容は生徒の自由意志で決定できる仕様になっている。そのお蔭でクラス内の友情を深めるという名目の割に、クラスの垣根を越えた班決めをする事までもが可能となっていた。外部入学で未だ友人の少ない真幸としては有り難い限りであるが、それでいいのか教師陣よ、と内心呆れてもいる。最早単なるお泊まり会じゃないか。全く、放置プレイにも程があるだろう。まあ楽しいからいいのだけれど。


 結局、真幸は級友一名といつもの友人二名の計四人で研修班を組む事になり、見事に三クラス混合班が出来上がる事となった。聞いた話だと班員全員が違うクラスのところも幾つかあるそうだから、未だ自分達はマシな部類だと思いたいところである。


***


 班の友人達と共に森を堪能する事数時間。大学のキャンパスに足を踏み入れてみたり広すぎて迷子になりかけたりしつつも、何とか無事に学年の集合場所に辿り着き昼食の支度を始めた時にそれは起こった。というか、目に入った。


「うっわ駆、それ何?」

 何とも言えない濁った色をした液体が鍋の中にあるのを見て、思わず真幸は後退りながら顔をしかめた。少し前に友人の作業風景を視界に入れた時には、至って普通の食材を切っていた筈なのだが。何故鍋に投入した途端に食べ物としてありえない代物に変換されるんだ。決定的な瞬間は見ていないものの、駆が一体何をどうやったのかが激しく気になる。何でだ。何でそうなるんだ。そんな疑問を繰り返し脳内に浮かべつつ目の前の鍋を凝視したまま固まっている真幸を見て、駆は不思議そうに首を傾げながらこう答えた。


「何って……カレーの成り損ない?」

「カレー!?ないわ、マジあり得ない。ちょっと全力で食材に謝ってこい。てかお前、カフェでバイトしときながら料理が欠片もできないとかどーいう事なの。」


 ほぼ反射的に否定と文句を叫べば、駆から「単なるお茶くみ要員なんだからしょーがねぇだろ!」とほんの少しだけ悔しさを混ぜた声が返ってきた。だからと言ってここまでスキルが低いのも如何なものかと思うが。そう口に出す前に「いや駆の場合、客寄せパンダの方がメインでしょ」と横から声を掛けられた。見れば、吹雪が真幸の左隣から鍋をガン見している。片手を腰に当てた体勢のまま数秒ほど沈黙。のち、盛大な溜め息。疲れと呆れの混ざったそれに、真幸は何だか同情したくなった。そうだよな。こんな物が自分の昼食になるなんて、やってらんないよな。マジどんまいすぎるわ。心の中でそう頷く真幸だが、その不審物を自分も食べなければならないという事実は綺麗さっぱり忘れられている。三人集まって鍋を覗き込んでいる姿が気になったのか残りの班員である友人もやって来たが、予想外の事態だったらしく、うわ、と声を上げて固まっていた。え、これ食えるのいや食えないだろってか昼飯どうしよう。口元を押さえながらそう小さく呟くのが耳に入る。本当、どうしようか。今にも鳴りそうな腹を意識しながら考える。うん、何も思いつかない。


「取り敢えず何とかするから早くそれ寄越して。」

 完全に思考停止している真幸達を気にする事なく、疲れた様な声で吹雪がそう告げる。それと同時に投げやりに右腕を鍋へと伸ばした彼に、駆は「へいへい」と軽く答えるとすぐさま場所を明け渡した。まるでいつもの事だと言うかの様にすんなりと行われたそのやり取りを見て、真幸は目を瞬かせた。慣れてるな。っていうかそれよりも。


「え、この悪魔の鍋ってリカバリーきくもんなの?」

「馬っ鹿おめー天下の吹雪さん舐めたらあかんよ?こいつの料理マジ神がかってるからな?」

 真幸の疑問に対して何故か顔を輝かせる駆。確かにその話が本当なら凄いとは思うが。凄いのは駆ではなくて吹雪だろう。同じ事を思ったのか級友が、だから何でお前がどや顔するんだよ、と呆れた様なツッコミを入れていた。全くもって彼の言う通りですよね。うんうん、と真幸は大きく頷くが、駆は彼ら二人の言葉を綺麗にスルーした。


「というか単に付き合いが長いお蔭で駆の生物兵器処理すんのに慣れてるだけなんだけどね。本当、小学校から何回やらされた事か。」

「そんな昔から酷いのかよ。」


 鍋をかき混ぜながら言われた内容に、思わず真幸は顔を引き攣らせる。小学校からという事はつまり、大概の人間が初めて調理と出会ったであろうその時からずっとって事じゃないか!真幸は自分の経験を思い返し、そう結論に達した。しかも高校に入るまではクラスが違うなんて事態に遭遇した事が無かった、と以前吹雪に聞いた覚えがあるから、確実に彼らのその関係──今現在目の前で行われている様な、駆が調理に失敗して吹雪がそれをリメイクするという関係──は年季が入っている筈。嗚呼、道理でさっきのやり取りがやたらとスムーズだった訳だ。成る程ね、と真幸は納得する。そんな彼の隣では、のんびりと腕を伸ばした駆が「あー、まあねー」と間延びした声で吹雪の言葉に頷いていた。


「家庭科が始まってからというもの、教科書見ながらやってる筈なのに毎回怪しいブツが出来上がるくらいには?作成しておりますが?」

「調理実習でブラックリスト入りしてたよなーそういえば。」


「どんなだよ、それ!ってか其処まで酷いのが分かってんだったら料理するなよな!?」


 びしぃっ、と裏手でツッコミを入れながら叫ぶ。真幸だけでなく級友も叫んだお蔭で見事なユニゾンが完成してしまった。それにしても、だ。のほほんと思い出話をしている目の前の二人は気づいてない様だが、普通に考えて、調理実習はブラックリストなど作成されない科目の筈だ。小中学生に作れる料理なんてたかが知れてるのだから当然だろう。だというのにブラックリスト入り?つーかレシピ見ながら作っても駄目だとか何処のファンタジーだよ。あり得ないだろう。と、言いたい事はたくさんあるが。多すぎて纏まらない為、真幸はその殆どをぐっと呑み込んだ。


「その意見には俺も激しく賛成。」

 調理の手を止める事なく吹雪が頷く。先程まで近寄りがたい空気を醸し出していた鍋は段々とその雰囲気が薄れ、変わりに香辛料の効いたいい匂いを出し始めていた。離れた位置からでも分かる吹雪のその手際の良さに、真幸の隣に立っていた級友がふらふらと彼の手の見える場所まで移動していた。そして、すげぇ、と小さく驚きの声を上げる。次いで、はー成程そうやるのね、と感心した様子で頷いていた。


 興味津々といった様子の班員を気にする事なく、再度吹雪は口を開く。

「毎っ回毎回マイナスから調理(スタート)させられるのってかなり面倒なんだからな?少しは懲りてくれよ頼むからさぁ。」


「えー、だってチャレンジしなきゃ直るもんも直らないじゃん?」


「いやこれ誰がどう見ても直すって次元じゃねーぞ?いーから此処は素直に隠しとけって。」

「真幸の言う通りだね。駆のそれは直る様な可愛いモンじゃないんだからいー加減諦めなって。そんでもって早く俺に楽させろ。」


 小首を傾げて告げられた内容を二人揃って完全否定する。口には出さなかったもののもう一人の友人も大きく頷いていたので、多数決的には三対一で否定派の勝利だ。その事実が悔しかったのか駆は「えー三人ともそりゃないぜ」と口を尖らせて不満そうな表情を作っていた。しかし最早呪われているのか疑うレベルで料理が出来ないのだ、どう考えたって封印してしまった方が世の為人の為というヤツだろう。ちぇー、と呟く駆に対し、当たり前だ馬鹿、と真幸と吹雪の罵声が同時に響いた。


「……つー訳で、はい、出来上がりっと。」

 軽い言葉と共にテーブルへと置かれた鍋を見て男三人の歓声が上がる。其処にはきちんと食べれそうな、寧ろかなり美味しそうな煮込み料理が入っていた。濁った汚い色の謎の液体ではなく、使用されている食材一つ一つの色や形まで確認できる様になっている。成程、これは中身を見て思わず感嘆の声を上げる訳だ。真幸は先程の級友の行動に納得した。


「……ってかマジで食えそうなモンにしやがったよコイツ。本当、こんな事なら(はな)っから吹雪に頼んどくんだった。」


 思わず心の声が外へと零れ落ちる。いやまさかこんな魔法みたいな腕を持つ奴が仲間内に居たとは。思いもしなかったぜ。ふふん、と得意気に鼻を鳴らす友人を見てしみじみと真幸は思う。そして誓った。もう二度と駆には料理させねえぞ、と。

今回のまとめと要らない補足

駆→料理の才能が壊滅的

吹雪→異常なほど料理上手

真幸→料理の腕は人並みレベル

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