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盲目乃者  作者: 結城貴美
第20章 TOMORROW NEVER KNOWS
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209 警戒

 避難訓練の後、しばらくは穏やかな日常が続いた。


 両親と通信石(タルカイト)でいつでも話せるようになったので、リューナは暇なときにはずっと実家と繋いでいるらしい。暇も潰せるし、両親も愛娘の顔を見ながら話せるしで良いことずくめである。


 リューナの顔越しに神衛兵(かのえへい)の訓練の様子を映すこともあると聞いて、フォスターはとても嫌がった。しかしリューナが両親に訓練で何をしているか様子を教えてもらえると嬉しそうに話すのでやめろとは言えない。


 フォスターはその神衛兵の訓練を必死にこなしていた。


 普段は飛翔神神衛兵の剣ではなく訓練用の軟質石(トフサイト)が張り付けられている剣を使って訓練をしている。

 しかし自分の剣は訓練用の剣と勝手が違うので実戦で戸惑うことになってしまう。そのため頼み込んで居残りをし、自分の剣で熟練の神衛兵との対人訓練を行っている。


 飛翔神の剣での戦い方はビスタークの過去を見たことである程度はわかっている。剣圧で相手を飛ばし、後ろにある壁などの障害物に激突させてうずくまったところを制圧する、という戦法が基本だ。しかしそのためには間合いを保たねばならず、上手くよけられ相手に接近されると危機が訪れる。接近されないようにフェイントを織り交ぜることと、接近された場合の戦い方を実践で教えてもらった。厄介な剣を落としにくる攻撃を想定し、その防御から転じてこちらが反撃する方法である。


 加えて訓練だけではなく色々な神衛兵に話しかけ、命の都(ライヴェロス)が攻撃されたときの様子を聞き当時の状況を学んだ。と言っても当時神衛兵だった者は引退しているので直接聞けたわけではない。当時のことを記録した本があるのでその内容を教えられた。そして本を直接読むことを勧められた。


 フォスターはあまり本を進んで読まないので憂鬱になった。しかしそれを聞いたリューナが図書館に行けると喜んだのをきっかけに、カイルも一緒に次の機会で行くこととなった。


 そのカイルの体調は良さそうだ。食事の後たまに具合が悪くなる程度だった。何かの食材が良くないのかも、ということで食べたものを書いてセレインやテレクエルに提出していた。


 セレインは医者の研修で忙しそうだった。フォスターとは食事のときにしか会わないので、リューナが神の子だと知ってからしっかり話をしていない。何か言いたそうにはしているが、周りに人がいる状況でそんな話は出来なかった。


 ファイスールとテレクエルの双子も大神官になるための勉強を再開し、忙しそうにしていた。やはり食事とその前後くらいしか会わないが、二人とも話好きなこともあり会話は結構弾む。



 ある日、神衛兵の訓練が終わり昼食を食べた後、仕事を休んでフォスター、リューナ、カイルの三人で図書館へと向かった。途中まで双子もついてきた。


「あー、大神官だー」


 そう言ったファイスールの視線の先を見ると、離れた廊下の先に命の大神官ウィタムがいた。護衛のツィスパと他に神官と神衛兵が二人ずつ、合計六人の集団が歩いている。


「次の大神官候補二人も連れて何の仕事だろうね」

「候補二人いるのか? もう次は決まってるって言ってなかったか?」


 テレクエルの言葉にフォスターが疑問を呈した。


「決まってるよー。第一位と第二位が決まってるんだよー」

「何かあったときのためにね。まあそう言いながら今の大神官は長く勤めてるみたいだけど」

「歳なんだからもう引退してもいいと思うけどねー」

「第一位のディノリオさんも六十歳超えてるし、みんな若くないんだよね。第三位も近々決まるようなこと言ってたかな」

「うちの都にはそーいうのないけどねー」

「まあ、あったほうが良いとは思うけど。病気でってこともあるからね」

「マフティロ伯父さんがいたらなってたんじゃないかなー」

「……うちの町に来たから第二位がいなくなったのか」

「そういうことー」


 マフティロは本当に多大な迷惑をリジェンダやマイヤーフにかけていたのでは、と自分とは関係ないのにフォスターは何だか申し訳なくなった。求婚された当時ニアタが頭を抱えていたのもわかる。


 双子とはその後すぐに図書館の前で別れた。


「私、図書館来たことなかったから嬉しいな」


 リューナに笑顔でそう言われてフォスターは初めて気がついた。水の都(シーウァテレス)ではリューナが直接行くことはなく、ティリューダに代行してもらって間接的に本を借りていたのだ。狙われていたから仕方なかったとはいえ、申し訳なく思った。


「俺は二回目」

「入院してたのにいつ行ったの?」


 カイルの言葉にリューナが首を傾げる。


「最近だよ。家に帰ってこっちに戻ってきてから」

「カイル好みの本ありそうだもんな」

「うん! たくさんあった! 入院してたときに本の貸し借り頼めばよかったよ」

「工作楽しそうだったから必要ないかと思ってた」

「それはそれで楽しんでたし、図書館とか馴染みなさすぎて考えなかったからなあ」

「うちの神殿のは図書室ってほどですら無いもんな」


 ここの図書館は神殿の本部と医療部との間にある。水の都(シーウァテレス)の図書館の三倍の広さがあった。中では神官見習いと医学生たちが真剣に勉強しているのが見える。出来るだけ静かに空いている場所を探して席に着いた。


 リューナに読みたい本の希望を聞き、まずカイルが本を探しに行った。フォスターは護衛のためリューナと共に残る。鎧姿で図書館にいる者などいないので目立つ格好ではあるが、見習いたちは自分たちの勉強に必死で誰も気にしていない。リューナを狙う刺客はいないようだと少し安心はしたが、気を緩めてはいけないと姿勢を正した。


 カイルが自分用とリューナ用の本を見つけて戻ってくるとフォスターは命の都(ライヴェロス)の過去の防衛戦について書かれた本を探しに向かった。いくつかある中で一番読みやすそうな本を手に取り、席へと戻る。カイルは工学系の本を夢中になって読みふけっていた。リューナは物語の本に言文石(リーサイト)を滑らせて笑みを浮かべながら内容を聞いていた。どうやら楽しい話のようだ。


 フォスターも持ってきた本をめくった。


 まず書かれていたのは、船から錨石(エンカイト)を投げられて山のような斜面の岩壁を破壊され、錨神が命の大神の怒りをかうことになったという有名な事件。それ自体は知っていたが、その後のことまでは知らなかった。


 錨石(エンカイト)をぶつけて岩壁を壊され、神衛兵たちが動揺しているところへ船に乗っていた傭兵たちが上陸し、中の都へ入るための通路であるトンネル全てに攻め入った。体制を整えなおした中の神衛兵たちがトンネルから出てくる傭兵を待ち構え全て取り押さえたため大事には至らなかった。攻めてきた船には普段の海での訓練で行っているように攻め込んで制圧したという。


 他にも船上から矢を射掛けられたり、手斧を投げられたり、香辛料の粉が詰まった樽をぶつけられ大変なことになったこともあるらしい。想像するだけで目が痛くなって涙が出そうだった。その時は洗浄石(クレアイト)が大活躍したらしい。


 命の都(ライヴェロス)内部でも反乱のようなことが起きていた。かなり古い話で神話の戦争の少し後くらいである。


 大事な家族を亡くした神官や神衛兵が複数人共謀してその事件は起こった。神殿内で行われた犯行なので住民に混乱が生じることもなく、とても静かに実行されたらしい。


 当時の大神官を人質にとり、蘇生石(ライヴェイト)を要求したという。勿論、その石は存在しないため、その要求は突っぱねられた。すると、人質に剣を当てて脅していた神衛兵が激昂し、当時の大神官を殺害。生き返らせるためには蘇生石(ライヴェイト)が必要だと脅したが、無いものは無い。大神官は自分の命をもって蘇生石(ライヴェイト)が無いという証明をしたということだった。


 その後は蘇生石(ライヴェイト)が無いことに絶望した犯人たちが大人しくなり、投降したという。


 また、そのことがあってから、大神官を継ぐ後継者が常に複数人いるようになったのだという。いつ殺されても何の問題も無いように。


 その記録を読んで、フォスターは嫌な予感がした。

旅行中なので危うく更新日を忘れるところでした……。




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作者Xfolio
今まで描いてきた「盲目乃者」のイラストや漫画を置いています。

作者タイッツー
日々のつぶやき。執筆の進捗状況がわかるかもしれない。
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