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最終話 聖涙天使は止められない

この大陸の便器は例外なく和式形状です。

 衆人環視の中の、羞恥プレイのような逃亡劇の末、アリアはようやく迎賓館まで辿り着いた。

 それほど高くない外壁を駆け上がり、ふわりと内側に着地する。


「うあああぁっっ!!?」


 着地の衝撃が膀胱に伝わり、羞恥で押し込められていた尿意が、脳天まで突き抜ける。

 アリアが忘れていた間も、括約筋は、膀胱からの要求に抗い続けていたのだ。


(でっ、ででっ、出るっ! だめよっ! だめっ! あと……あと、少しなんだからっ!)


 逃走劇で膀胱は揺らされ続け、押しとどめる括約筋は、もう陥落寸前だ。

 迎賓館の壁がもう少し高ければ、着地の時点で、アリアの我慢は崩壊していただろう。


 レガルタの迎賓館の壁は、要人を迎えることを考えれば、かなり低い。

 目に見える壁は牽制用で、本命は庭の魔力感知網と、自動展開される物理防壁だからだ。


 そして正式な客人であるアリアは、魔力感知に引っかかっても、防衛システムは起動しない。

 本当にあと少し、人目を忍んで自室に辿り着くだけなのだ。


(我慢っ、我慢するのよっ! あぁぁっ……で、出口が……っ……震えて……っ! くぅぅぅっ! が、ま、んんっ!)


 正面玄関は使えない。


 館のスタッフとは、既に面識があるのだ。

 今の姿を見られるなど、想像するだけで、羞恥で蹲りそうになる。


 ならば、壁を伝って窓から滑り込むしかない。


(メロネの、部屋はっ、あ、あ、明かりぃ、ついてるぅ……うぅぅうぅっ!?)


 窓から侵入するのであれば、施錠された自室には入れない。

 メロネの部屋を選んだのは、限界間近の尿意に取り乱すアリアに、最後に残された冷静さだ。


 メロネの部屋は3階。

 普段なら、シャイニーティアを纏っていれば、問題なく駆け上がれる高さだ。


 だが、今のアリアは、もう我慢の限界。

 ほんの少し、膀胱に刺激を与えるだけで、この場を水浸しにしてしまうだろう。

 3階までの壁を登るなど、自殺行為に等しい。


「くぅぅっ!? あっ、も、もうっ、漏れっ、あ、ああぁぁっ!?」


(もう、だめぇぇっ! や、やるしかないっ!)


 押し寄せる水圧。

 痙攣を始めた括約筋に、アリアは『最後の手段』を使うことを決めた。




「くぅっ……フェ、フェアリィ、フォーム……!」



 再び、アリアの体が光に包まれ、シャイニーティアがその姿を変える。


 レオタードの前面が開き、ヘソから胸元までの肌が露出。


 背中も大きく開き、小さな光の羽が2対現れた。


 左のニーソックスは消え去り、曝け出された素足に、レースがあしらわれたガーターリングが装着される。


 この惜しげもなく肌を晒す姿こそ、シャイニーティアの奥の手『フェアリィフォーム』だ。


 増大した露出度に反して防御力は上がり、身体能力の強化レベルも向上する。

 だが今、最も重要なのは、この形態でのみ付与される、手足の摩擦制御と全身の空力制御だ。


 摩擦制御は壁を使った立体的な移動を可能とし、空力制御は落下時の衝撃を抑える。

 パンパンに膨らんだ膀胱を抱えた今のアリアが壁を上り切るには、この2つは必要不可欠な能力だった。


(くっ、あぁぁぁっ!? で、出るっ! い、急がなきゃっ、急いでっ、あぁぁぁっ……お願いっ! もう少しだから、出ないでぇっ!)


 聖涙紋が不規則に明滅を始める。

 『もうこれ以上広がらない』という、膀胱からのサインだ。


 アリアは、意を決して壁を上り始める。

 垂直の壁を登る負荷は、如何にフェアリーフォームと言えど完全には殺しきれず、アリアの膀胱に小さな、だが致命的な刺激を与え続ける。


「ううぅっ! ああっ!? あ、あっ、んんっ! くぅぅっっ!!?」


 揺れる膀胱からの最後通告を死ぬ思いで押さえつけ、アリアはとうとうメロネの部屋な窓に取り付いた。


 窓から中を伺うと、部屋の中にはメロネ一人。

 今は机に座ったまま、険しい表情をしている。



「メロネっ! 開けてぇっ! メロネぇっっ!!」


 今のアリアに、メロネを気遣う余裕はない。

 全身を震わせながら、ガンガンとガラス窓を破らん勢いで叩く。


「ふぁ?」


 メロネの声が裏返った。


「お願い早くっ! あぁっ!? 早く開けてぇぇぇっっ!!」


 当然だ。

 ランドハウゼン皇国第二皇女、アリア・リアナ・ランドハウゼンは、現在行方不明で、目下捜索中となっている。


「お願いぃぃっ!『ジョッ!』あああぁぁっ!? 早くっ! 早くぅぅぅっっ!!」


 しかも先程、商業区に噂の『ランダールの魍魎』が現れたと情報も入った。

 今やアリアは、その生死すら危ぶまれているのだ。


「はや、くぅぅ……っ『ジョッジョッ!』んんっ!? んんんっっ! めろねぇぇ……っ……おねっ……がいぃぃ……っ!」


 その第二皇女が自室の窓に張り付き、狂った様に窓を叩いている。

 メロネが数秒フリーズしたとしても、誰が責めることができようか。


 だが――




 ジョロロロッ!ジョロロロッ!

「あ゛あ゛ぁああぁぁぁっ!?」



 その数秒で、アリアの尿道は開き始めてしまった。

 目から、そして『下』からも涙が溢れ、全身がブルブルと震える。



「ダメぇぇぇっ! もうっ! もう出てるのぉぉっ!」


 ジョォォォッ!


「あ゛はあぁぁっ!? 止められないっっ!! は、早くぅぅぅぅぅっっっ!!!」



「ひ、姫様っ!? 今すぐにっ!」


 慌ててメロネが窓を開けると、アリアはすぐさま部屋の中に飛び込んだ。


 ジョォォォォォォッ!

「ん゛ぅぅぁっ!?」


 フェアリーフォームのアリアにとって、窓枠から床への着地など、歩く程度の衝撃にしかならない。

 だがその小さな、日常では意識することもないような刺激すら、今のアリアには耐えられないのだ。


「殿下っ!? 一体どうされたのですっ!? シャイニーティアまで使われて……」


 ジョッ!ジョッ!

「んっ! んんっ!? 話はっ、ああ後でぇ……っ」


 ジョォォッ!

「ああぁっ!?」



 断続的に漏れる小水は、もう完全には止められない。

 アリアは死力を尽くして立ち上がり、一目散にトイレを目指した。


 レオタードの給水限界はとうに超え、太ももはもう、失禁したかの様にびしょ濡れだ。


(漏れるっ! あぁぁっっ!? もうっ、もれるぅぅっっ!!)


 括約筋は完全に機能を停止した。

 一歩足を進めるたびに、必死で押さえた両手の隙間から、ジョロッ、ジョロッと小水が溢れる。



(も、もうっ、だめぇ……っ! ぜんぶ、でちゃうっっ!! んんんっ! だめよっ! あとぉ……っ……すこ、しぃぃ……っ!)



 それでもアリアは、脚とニーソックスを濡らしながら、なんとか床に零すことなくトイレに辿り着いた。



 ジョジョッ!ジョッ!ジョロロッッ!!ジョォォォォッッ!!

「あ゛あ゛ぁぁあ゛ぁっっ!!?」



 トイレに入って気が緩んだのだろう。

 かなりの量の小水が吹き出し、パタパタとトイレの床に落ちる。



「まだよっ! まだっ! まだっ! 待ってっ! 待って待って待ってっ!」


 ジョォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!

「嫌ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」



 必死の叫びも虚しく、便器まであと一歩というところで、アリアの堤防は決壊した。

 迸る小水はレオタードをものともせず、押さえた手を、脚を、ニーソックスを水浸しにしていく。



「ああぁぁぁぁぁああぁああはああぁぁぁぁっっっっ!!!!」


 バシャッ!バシャバシャッ!バシャバシャバシャバシャッッ!!


 トイレの床に小水をぶち撒けながら、アリアは無我夢中で便器に向かいしゃがみ込んだ。



 ジョォォォォォォォッッ!!ジョボボボボボボボボボボボッッ!!ジョォォォォォォォォォォッッッ!!!

「んんああああぁぁぁっっ!! きゃ、きゃすとっ、おふ……っ!!」


 レオタードを気にする余裕はなかった。

 かなり漏らしてしまったところで、ようやく解除の言葉を口にすると、アリアは生まれたままの姿を晒す。



 物理的にも精神的にも、放尿を遮る布が消え去った。




 ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!

 ブジィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッッッ!!!!!

 シュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!


「はあぁああぁぁあぁあぁああぁぁぁああぁっっっ!!! くぃぃいいいいぃぃいいいぃぃいいっっっ!!!」



 尿道からの、気が狂いそうになる程の快感が脳を直撃し、湿り気を帯びた声が零れてしまう。



(あぁぁぁぁぁ……っ……間に合った……っ! もうっ、ダメかと思った……っ!)



 下半身は足の先までぐっしょり。

 トイレの床は水浸し。

 果たしてこの惨状を『間に合った』と言っていいかは疑問だ。


 だが、今のアリアは――




(な、なにも……かんがえっ……られ、ない……っ! あああぁあぁっ、きもちいいぃぃっ! おかしくなるぅぅぅぅぅぅっっっ!!!)



 およそ1分半程、アリアは半開きの口の端から涎をたらしながら、脳が蕩ける程の快感に浸り続けた。


 やがて正気に戻ったアリアは、トイレの惨状に顔を青ざめさせ、直後にドアを開けっぱなしにしていたことに気付き泣き崩れることになる。

 その後に待っているのは、メロネからの容赦ないお説教と事情聴取だ。



 アリアの夜は、まだ終わらない。

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