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第2話 ホーリーライズ!

 地下道で動けるようになったアリアは、周囲から見えづらい場所を探し、小水で濡れた衣服に目をやった。


 この黄ばんだ服を持ち帰って、お漏らしを誤魔化す術をアリアは知らない。

 ブラウスは無事だが、それだけ持ち帰るのも不自然だ。まとめて処分するしか無い。


 誰が来るともわからない場所で裸身を晒すことに羞恥が込み上げてくるが、アリアには他の選択肢がなかった。


 衣服を脱ぎ捨て、火の魔術で焼却する。



「ごめんなさい…っ」


 服は催事費という名目で与えられたお小遣い、つまり民の血税で買ったものだ。

 小水塗れにし、挙句灰燼に帰すことに、強い罪悪感を感じた。


 実際のところ、アリアに回される催事費はかなり少ない。

 本人の性格と、学園にいたことが原因で、使われることがほぼ無いからだ。


 そのため、支給額は少ないのに、他の兄弟に比べてもかなり溜め込むという、歪な状態になっている。

 長兄アルトからは、『使って国の経済に還元しろ』と、事あるごとにお小言をもらっている。


 アリアは、母国で新しい物を買うことを心に決め、全て焼き尽くした。



 服の処分が終わり、次は汚れた下半身に意識を向ける。



「……すぅ……はぁ……ふっ!」


 緊張の面持ちで、普段は使わない水属性魔術を発動させた。


 アリアの水属性魔術は他の属性と比べ、威力、精度共に一つ抜けて優れているのだが、ある致命的な欠点のせいで使用を控えているのだ。

 それは体内で暴発し、重篤な体調不良を引き起こすという非常に恐ろしいもの……ということになっている。



「っ!? き、きた……っ! もうっ! こんなに早く……っ!」



 嘘は言っていない。

 ただ暴発の箇所と体調不良の内容は、年頃の少女にとって非常にデリケートな内容であるため、

 事実を確認した学園の保険医ノーラ女史と、アリアが信頼する2人の親友以外には伏せられている。


「大丈夫……まだ、これくらいなら……っ」


 手が無意識に下腹を温めるようにさする。


 アリアの水魔術は、膀胱で暴発するのだ。

 しかもただの水ではなく、かなり色の濃い尿として。


「んんっ!」


 暴発によって膨らんだ膀胱が、その存在を主張する。

 体は洗えたが、アリアの膀胱は、既に7割近く水分で埋まっている。


 漏らしてから余り時間が経っていなかったため、強く意識してしまったせいだ。


 急がなければならない。が、全裸のまま外に出るわけにはいかない。



「……ホーリーライズ!」



 掛け声に反応し、アリアの全身に、色とりどりの光の帯が巻き付いた。

 光はやがて明確な形を帯び、アリアの体を、新たな衣装で包んでいく。



『聖涙布シャイニーティア』


 アリアを装者に選んだ、先史文明時代の超高性能魔導具だ。

 『ホーリーライズ』の掛け声に反応し、勇者の神聖武具に匹敵する防御性能と強化性能を持つ、脅威的な戦闘服を生み出す。


 だが、アリアはこれを使うことを、極力避けていた。

 それこそ、全裸を晒すことと天秤にかけても、一瞬使用を躊躇うほどに。


 やがて光が止み、アリアの『変身』が完了した。


 見に纏うは、白いノースリーブレオタード。

 アリアの適正より若干小さいそれは、彼女の大人顔負けのボディをギチギチに締め上げる。


 首周りには、一部男性にカルト的人気を博したセーラーカラー。

 胸元の赤いリボンと共に、未成熟さを演出する。


 惜しげもなく晒された手足は、レオタードと同色の長手袋とニーソックスに覆われ、レオタードとニーソックスに挟まれた太ももが神秘的な輝きを放つ。


 何故か靴は装着されず、彼女のピンと伸びた美しい足先が堪能できる。


 恥ずかしげもなく名前を付けるなら、『聖涙天使シャイニーアリア』とでも言うべきだろうか。

 アリアはこの、どこか如何わしさを感じさせる戦闘服を、兎に角敬遠していた。


 問題は、露出度や装飾だけではない。

 レオタードのヘソの下――膀胱の辺りで金色の光を放つ、羽の付いた雫の紋章。


 その名も『聖涙紋』。


 知っている者はいないが、この紋章は、アリアの膀胱の状態と連動している。

 小水が溜まっている程光量が増し、膀胱が膨らむほどサイズが大きくなる。


 知っていれば、アリアがどれだけ我慢しているか丸わかりなのだ。



「~~っ!」


(……やっぱり、恥ずかしい……っ! こんなの、誰かに見られたら……っ!)


 想像するだけで顔が赤くなり、誰も見ているはずがないのに、本能的に胸元と股を隠すポーズを取ってしまう。


 ここから迎賓館の自室に戻るまで、誰の目に止まることも許されない。

 慎重に慎重を重ねた、針の穴を通すような行動が求められる。


 が――



「んん……っ!」


 下腹部が放つ重たい存在感は、急げ急げとアリアを責め立てる。


 括約筋は、2度の激闘で疲弊しきっている。

 アリアに残された時間は、想像以上に少ないだろう。



 慎重に、でも尿意が限界を超えてしまう前に。

 聖涙天使シャイニーアリアの、SSSクラスのミッションが始まった。

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