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少年、罪過を喰む -弐ノ章-  作者: 藤崎湊
FILE1 青の鋼
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乞うケモノ





「ボス……っ、僕はもう、ダメです……早く、はや…く、僕を……殺して、殺してください……!」




 燃え盛る倉庫内。

 APOC同士の戦闘は衝撃が大きく、倉庫内に放置されていた油の入ったドラム缶が爆発し、辺りは火の海になった。

 これにまずいと目黒たちは既に姿を消してしまった。

 煙で視界も見えづらく呼吸も苦しい中、亜紀は半狂魔状態の剣崎と対峙していた。

 狂蟲の暴走で身体が変形を続ける。

 剣を握る剣崎はもがき苦しみながら切に望みを告げた。



「ふざけるな! そんなこと……できるわけがないだろう!」

「い、ま……こうし、て、自分をたも……て……の、は……ぐっ、時間のもんだ……でス……! 僕がァ……ぼく、でいられるあい、だに……早ァくゥゥ……!」


 凶暴さを抑え込みながら歯噛みする剣崎。必死のあまり口の端を噛み切ったのか、赤と緑混じりの血が顎を伝う。

 それが人でなくなり始めている現実を痛いくらいに突きつけた。

 双方から迫る板挟み状態に、亜紀は息が苦しかった。

 APOCとしてこの国を守ることが亜紀の使命。


 それでも――あの煩わしいと思っても、何処か充実していた日々を思うと、銃の引き金に指を掛けられなかった。



「お、ねが……で、す……ボス……っ、僕を人として……死なせて、ください……!!」



 ――化け物としてなんて、死にたくない……!



 それは剣崎の心からの叫び、願いだった。

 慕っているボスにのって殺されるのであれば、『人』でありたい。

 これ以上亜紀の前でみっともない姿でいたくない。

 名も忘れた狂魔としてではなく、『APOCの剣崎千草』として死にたい。



 亜紀は覚悟を既に決めている剣崎に愕然とした。

 そして悔しそうに拳を握り締め、一度伏せた顔を上げ、銃を構え直した。

 その双眸には涙が溜まり、今にも零れ落ちそう。

 今まで、冷たい表情しか見たことがなかった。

 剣崎は一瞬目を見張り、目尻に涙を浮かべ破願した。



 ――例え灰になってしまっても、あなたの別の一面を最期に見ることができて、僕は幸せでしたよ、ボス。



 己を奮い立たせるように上げる亜紀の悲鳴にも似た叫び声とともに、銃口は火を噴いた。

 笑みを浮かべ、望み虚しく灰となって消えていく剣崎を最期まで見届けた。


「あ……あ、ぁ……っ」


 誰もいなくなった倉庫内。

 亜紀は充満する煙の中、両膝をつき、拳を地面に叩きつけた。

 燃え盛る炎の中、瀬戸が周りの制止を振り切って飛び込んでくるまで雄たけびを上げ続けた。




   ◆




 あの時を、また繰り返すのか?

 結局、誰も救えないのか?


 ――亜紀の一太刀が甘く、柄部分で受けられた。


 しまったと息を呑むも既に遅く、逃さなかった花園は眼光鋭く、薙刀を手足のように回して剣を弾くと、間髪入れず亜紀の腹部に突きを入れた。

 まともに入った突きは狂魔化もあった威力も絶大。

 埠頭に積まれたコンテナに背中から叩きつけられた。


 ――勝負、あった。



「ザマァねぇな、東崎。流石のテメェもこれまでか?」


 立っているだけがやっとに追い詰められた亜紀。

 左手で痛みが響く箇所に触れる。――肋骨を、やられたか。

 部下に傘を差され、葉巻を吸う目黒は無様だなと嗤う。

 亜紀に、彼の言葉に反論する力はなかった。それでも、決して倒れまいとなけなしの力で足に力を入れる。


「テメェが死ねば、APOCは崩壊だ。あの世でガキと再会するんだなぁ」


 銃口が亜紀に集まった。


 最早これまでか。


 ケホッと血を吐き出し、亜紀は鼻で笑った。



 全く、なんて様だろうか。

 皇帝だの、APOC総帥だの……そんな肩書き、何の役にも立たない。

 このまま無様に嬲り殺しにされ、最悪ルデラリスの実験体にされて終わるか……どの道、死ぬのだろう。



 これも、千草を一人にして、死なせてしまったことへの罰だろうか。

 

 一人でどうにかできると、思っていた。――そう、思わなければ、己を奮い立たせることができなかった。

 


「最後に言いたいことはあるか? APOCにテメェの首を送りつける時の添え書きにしてやるよ」


 とんだいらぬ気遣いに馬鹿らしいと笑いつつ、亜紀は目を閉じて吐き捨てた。


「くたばりやがれ、このクズ野郎」



 ――ふと、瞼の裏に能天気な顔が浮かんだ。

 何故お前が、と不満がこみ上げてしまった。

 こんな時にまで――。



 ――僕は、亜紀さんの相棒ですから!



 しつこくて、しぶとくて、諦めが悪い奴。


 蒼斗にも悪いことをしてしまった。

 足止めのためとはいえ、あの力は強力だった。

 苦しめるつもりはなかった。けれど、蒼斗を止めるためには、ああするしかなかった。

 やっと御影――死神の使命から解放され自由になったというのに、余計なことに巻き込みたくなかったのだ。

 これ以上、自分と関わったためにその人生を狂わせたり、終わらせたりしたくなかった。





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