scene22 初仕事②
「お疲れ様。気をつけてね」
サラッとした明るめの髪をひとひらなびかせて、来たときとは少し親しげに帰っていった。
ユウは小さく頭を下げて、美人記者が帰る後ろ姿を見送った。
ユウは、ああいうキレイな感じの女の人の方が好きなのだろうか。
「コンテストの取材か?」
「そうだ」
ヤマトが興味津々に聞く。
「次は事務所で岐部さんと打ち合わせだ」
時計は19:05を指す。
取材は1時間ぐらいだった。
ひたすら美人記者が質問して、淡々とユウが応えていた。
「さすがモデル様は忙しいな」
「ここから新宿まで15分ぐらいで、事務所まで歩くとギリギリだな」
涼しい顔して応えるユウ。
ギリギリと言いながら、全く焦っていない。
「事務所は関係者以外は入れないから、悪いが一緒に連れていけないぞ」
「そうか。じゃあ仕方ないな」
「でもユウ君の初仕事が見られて良かった!」
アキちゃんはやや興奮気味に言った。
ユウを見る目が、芸能人でも見るかのような羨望の眼差しに、少し変わっていた。
「私達はついて行けないけど、頑張ってね」
「ああ」
短く応えたユウは、会計を済ませるために立ち上がった。
美人記者が、自分の分だと置いていった千円札と、私達の分のレシートも持って行った。
「奢ってくれるなんてわりぃな」
「待たせたからな」
そう一言言って、会計を済ませるユウ。
横顔がどこか少し大人びていた。
『楓』を後にした私達は、銀座の駅に着いた。
銀座の街でもまだ通勤客が多く、帰る方向に迷いなく急ぐ人々。
いつか大人になったら、こういう群衆の中の一人になるのかと、さっきのユウの少し大人びた横顔から連想させた。
「じゃあ気をつけてな」
静かに呟くユウ。
「俺のことじゃねーけど、なんかワクワクするな!頑張れよ」
「ヤマトもまだ終わったわけじゃないから、諦めるなよ」
「おいおい、誰が諦めたなんて言ったんだ?また次受けてすぐに追いついてやるからな!」
何か戦友のような友情が湧いたのか、熱く言葉を交わしている。
ヤマトだってイケメンだし、まだまだチャンスはいっぱいあるよ。
ヤマトはヤマトなりにいいところがたくさんあるんだから。
「頑張ってね!」
ユウを見送った三人は、それぞれの帰路に着いた。
途中でヤマトが下車し、アキちゃんと二人きりになった。
銀座から、アキちゃんの家が一番遠かった。
「私、いつまでもユウくんのこと、応援する」
急に何を言い出すんだ、アキちゃん。
「ヤマトくんのことも、リュウジくんのことも」
…そういうことか。
ふぅ。
「そうだね、クラスメイトだもんね」
「うん、それもあるけど、なんか勇気もらっちゃって」
少し照れながら、アキちゃんは言う。
「私は何も取り得はないけど、身近に芸能人になれるような人がいると、誰でも頑張れば、そういう特別な何かになれるんだなって」
確かに、そうかもしれない。
ユウはちょっと人並み外れてるけどね。
まあ、いいか。
「サオリちゃんは、何か夢ある?」
夢…?
そういえば、ないかも…。
「うーん…、特にないかなぁ」
何か急に恥ずかしくなった。
みんな夢を語っているのに、私だけ夢がないと、今の今まで気付かなかった。
正直言って、将来のことなんて、具体的に考えたこともない。
何をしたいのか、何になりたいのか…そもそも、世の中には何があるのかすら分からない。
「私も、特にないよ」
あ…。そうなの?
ちょっと安心している自分がいる。
「でも、私にはきっと無理なんだって、届く夢があるのに、やる前に諦めてたことってあると思う。そういうこと、探したいな」
それはあるかもしれない。
たとえば、宇宙旅行とか、億万長者とか…ちょっとぶっ飛び過ぎてるかな。
「人生は一度きりだからねぇ」
はぁ、急に辛気臭くなってきた。
「ふふ…そうだね」
アキちゃんが笑った。
私もなんだかおかしくて、笑った。
でも本当は私には、夢らしい夢は、別にあった。
好きな人とずっと一緒になりたい。
ただそれだけ…。
好きな人と家庭を作り、奥さんになり、一生を共にする。
この人だ!って決めた人
と、一緒になりたい。
大きな夢ではないけれど、譲れない夢。
でもなんか一般的に言われている夢っぽくなくて、言うのが恥ずかしかった。
アキちゃんもきっと、言わないけれど心に秘めている夢があるはずだ。
そういえば、アキちゃんのユウを見る羨望に見えた眼差しは、夢に一歩近づいた人に対しての、憧れの眼差しだったのかもしれなかった。




