表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/23

scene22 初仕事②

挿絵(By みてみん)


「お疲れ様。気をつけてね」


サラッとした明るめの髪をひとひらなびかせて、来たときとは少し親しげに帰っていった。


ユウは小さく頭を下げて、美人記者が帰る後ろ姿を見送った。


ユウは、ああいうキレイな感じの女の人の方が好きなのだろうか。


「コンテストの取材か?」


「そうだ」


ヤマトが興味津々に聞く。


「次は事務所で岐部さんと打ち合わせだ」


時計は19:05を指す。

取材は1時間ぐらいだった。

ひたすら美人記者が質問して、淡々とユウが応えていた。


「さすがモデル様は忙しいな」


「ここから新宿まで15分ぐらいで、事務所まで歩くとギリギリだな」


涼しい顔して応えるユウ。

ギリギリと言いながら、全く焦っていない。


「事務所は関係者以外は入れないから、悪いが一緒に連れていけないぞ」


「そうか。じゃあ仕方ないな」


「でもユウ君の初仕事が見られて良かった!」


アキちゃんはやや興奮気味に言った。

ユウを見る目が、芸能人でも見るかのような羨望の眼差しに、少し変わっていた。


「私達はついて行けないけど、頑張ってね」


「ああ」


短く応えたユウは、会計を済ませるために立ち上がった。

美人記者が、自分の分だと置いていった千円札と、私達の分のレシートも持って行った。


「奢ってくれるなんてわりぃな」


「待たせたからな」


そう一言言って、会計を済ませるユウ。

横顔がどこか少し大人びていた。


『楓』を後にした私達は、銀座の駅に着いた。

銀座の街でもまだ通勤客が多く、帰る方向に迷いなく急ぐ人々。

いつか大人になったら、こういう群衆の中の一人になるのかと、さっきのユウの少し大人びた横顔から連想させた。


「じゃあ気をつけてな」


静かに呟くユウ。


「俺のことじゃねーけど、なんかワクワクするな!頑張れよ」


「ヤマトもまだ終わったわけじゃないから、諦めるなよ」


「おいおい、誰が諦めたなんて言ったんだ?また次受けてすぐに追いついてやるからな!」


何か戦友のような友情が湧いたのか、熱く言葉を交わしている。

ヤマトだってイケメンだし、まだまだチャンスはいっぱいあるよ。

ヤマトはヤマトなりにいいところがたくさんあるんだから。


「頑張ってね!」


ユウを見送った三人は、それぞれの帰路に着いた。


途中でヤマトが下車し、アキちゃんと二人きりになった。

銀座から、アキちゃんの家が一番遠かった。


「私、いつまでもユウくんのこと、応援する」


急に何を言い出すんだ、アキちゃん。


「ヤマトくんのことも、リュウジくんのことも」


…そういうことか。

ふぅ。


「そうだね、クラスメイトだもんね」


「うん、それもあるけど、なんか勇気もらっちゃって」


少し照れながら、アキちゃんは言う。


「私は何も取り得はないけど、身近に芸能人になれるような人がいると、誰でも頑張れば、そういう特別な何かになれるんだなって」


確かに、そうかもしれない。

ユウはちょっと人並み外れてるけどね。

まあ、いいか。


「サオリちゃんは、何か夢ある?」


夢…?

そういえば、ないかも…。


「うーん…、特にないかなぁ」


何か急に恥ずかしくなった。

みんな夢を語っているのに、私だけ夢がないと、今の今まで気付かなかった。

正直言って、将来のことなんて、具体的に考えたこともない。

何をしたいのか、何になりたいのか…そもそも、世の中には何があるのかすら分からない。


「私も、特にないよ」


あ…。そうなの?

ちょっと安心している自分がいる。


「でも、私にはきっと無理なんだって、届く夢があるのに、やる前に諦めてたことってあると思う。そういうこと、探したいな」


それはあるかもしれない。

たとえば、宇宙旅行とか、億万長者とか…ちょっとぶっ飛び過ぎてるかな。


「人生は一度きりだからねぇ」


はぁ、急に辛気臭くなってきた。


「ふふ…そうだね」


アキちゃんが笑った。

私もなんだかおかしくて、笑った。


でも本当は私には、夢らしい夢は、別にあった。


好きな人とずっと一緒になりたい。


ただそれだけ…。


好きな人と家庭を作り、奥さんになり、一生を共にする。


この人だ!って決めた人

と、一緒になりたい。


大きな夢ではないけれど、譲れない夢。


でもなんか一般的に言われている夢っぽくなくて、言うのが恥ずかしかった。


アキちゃんもきっと、言わないけれど心に秘めている夢があるはずだ。


そういえば、アキちゃんのユウを見る羨望に見えた眼差しは、夢に一歩近づいた人に対しての、憧れの眼差しだったのかもしれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ