scene21 初仕事①
「おはよう」
玄関のドアを開けると、いつものようにカレが待っていた。
今日は少し元気そうだった。
よかった。
昨日は早めに帰ってよく休めたみたいだね。
「優勝おめでとう!」
「…ああ、ありがとう」
このテンションの乖離はなんだろう。
ユウ、テンション低いな。
まあ、いつものことだけど。
あまり嬉しくないのかな…?そんなわけないか。本当は嬉しいのかな?
「今日はマネージャーの岐部さんと打合せがあるから、一緒に帰れない」
「うん、いいよ。頑張ってね!リュウジも一緒なの?」
「さあ。一緒かもな」
校門を通り過ぎても、リュウジは昨日のように待ち伏せはしていなかった。
むしろ、今日はリュウジは休みらしい。
どうしたんだろう。
無理し過ぎて、体調でも崩したのだろうか。
あのリュウジがそんなわけないか。
教室に入ると、待ち伏せしていたのはヤマトとアキちゃんだった。
「おう、モデルのユウ様!優勝おめでとう!」
「ユウくん、おめでとう!」
「…ああ、ありがとう」
朝イチに私に返したような同じ低めのテンションで、ユウは2人に返礼した。
教室内の同級生にも、このビッグニュースに気づいている生徒も何人かいるらしく、教室内は少しざわめいた。
「賞金は何に使うんだ?」
「…さあ?貯金」
「つまんねー男だな、お前は」
貯金なんてユウらしいけど、そもそも賞金には関心なさそうだったね。
「今日は授業が終わったらトニー事務所に行くのか?」
「いや、都内の撮影スタジオで撮影、その後マネージャーと打合せだ」
「おおっ、さっそく撮影なのか!俺も見に行っていいか?」
一緒に行ってもいいのかな?中に入れないと思うけど…。
「ああ。スタジオの中に入れるかどうかは知らないけどな」
「いいぜ!入れないなら諦めて帰るから大丈夫!」
「あ、それなら私も行く!」
「私も!」
結局、ヤマトに続いて私とアキちゃんも一緒に行くことになった。
*******
─────都内、銀座。
この大人の街に、似合わない高校生4人が連れ立って歩く。
太陽が沈みかかっており、人の往来もピークになろうとしていた。
「銀座で仕事なんて、芸能人っぽいな!」
銀座にそんなイメージないけど。
ヤマトはいつもイメージだけで物事を発言する癖がある。
「ちょっとドキドキするね」
一方、真面目なアキちゃんは、何に心躍らせているのだろうか。
「ユウ、今日はどういう撮影なの?」
そもそも何のための撮影なのか気になった。
「さあな。コンテストの特集記事か何かだろう」
確かに。仕事をするにはちょっと早過ぎる気がするけれど、読者はユウのコメントや人となりを気にしているはずだ。
ユウの後ろには、投票をした何千人というファンが既にいると思うと、何だか信じられない。
本当に芸能人みたいだね。
「コメント考えてあるの?」
「別に」
…だと思った。単に興味がないのか、いざ本番で出来る自信があるのか。
「応えに困ったら俺が代わりに答えてやるよ!」
ヤマトの方がワクワクしている。
全く関係ないのに。
ユウは『楓』という、ビルのテナントの少しオシャレな喫茶店の前で突然立ち止まった。
「ここだ」
「ここ?撮影スタジオじゃないんだね」
「そう。雑誌の編集者と待ち合わせ。もう向こうは着いているみたいだから入ろう」
何だかよく理解が出来ないけれど、とりあえずユウについて中に入る。
ビルのテナントの店舗っぽく、中は狭い。
しかしお客さんはまばらで、席はいくつか空いていた。
ユウは躊躇なくスタスタと、一番奥の席まで歩いていき、パソコンを打ちながらコーヒーを飲んでいる若い女性の前で立ち止まった。
この人が記者?
派手目なスーツに髪の色も明るい。綺麗な人であるが、なんか全然記者っぽくない。
「お待たせしました」
「いいえ、大丈夫よ。それよりすごい人数ね」
「すみません。お邪魔なら、帰ってもらいます」
「いえ、帰らなくても大丈夫。ただ、席は別にしてほしいわね」
「分かりました。別々に座ります」
落ち着いて坦々と話す美女。
ギャラリーの私達には、全く興味がないらしい。
私達は、気を遣って少し離れた席に座った。
ユウは記者と2人きりでテーブルに座り、何か話している。周りの音でかき消されて、会話の内容までははっきりとは聞き取れない。
「ヤマト、何か聞こえる?」
「さあ。世間話だけ少し…」
「でもあまり邪魔にならないようにしてあげないと」
アキちゃんの言う通り、会話が気になるが、私達はユウの初仕事の邪魔をしに来たのではなく、応援しに来たのだ。
「ちぇっ。俺も一応コンテストに出たんだけどな」
記者はヤマトに一瞥もくれないまま、ユウとの打ち合わせに入った。
コンテスト出場者なんだから、知ってはいるはず。
完全に無視されたヤマト。
ちょっと可哀想かな。
記者はユウと何やら会話をしばらく続けた後、カメラで話している様子を撮影し出した。
カシャッという乾いた小さな機械音が、人の騒音に埋もれた店内に響く。
ユウ、芸能人になったんだね。
何だか急に、ユウとの隔たりが出来ていたのに気付いて、複雑な気持ちになった…。




