scene20 コンテスト⑥ 結果発表
「おはよう。玄関前まで来てる」
いつものモーニングコール。
今日はメイクのノリが抜群。
でもカレはきっとコンテストの事で頭がいっぱいで、私の事なんて一欠片も考えていないに違いない。
ドアを開けると、そこにはいつものカレが立っていた。
「おはよう…」
なんだかちょっと疲れているのかな。
カレはいつも元気はある方ではないけれど、今日はいつも以上に元気がない。
連日のウォーキングの練習、コンテストの緊張、それらが一気に解かれて、気抜けしているのかもしれなかった。
「元気ないね。コンテストの疲れが出たの?」
「さあな。まあ確かに疲れたけどな」
カレはいつも、どんなことがあっても弱味を見せない。
自分の弱さを、他人に見せない事が、一種の美徳のように考えている節がある。
私にぐらいは、愚痴ってもいいのに。
嫌な事も共感して、一緒に愚痴りたいよ。
そういう事で、笑い合ったりした事は一度もない気がする。
でもそれが、恋人同士っていう関係じゃないかな…?
それとも、格好つけてるのかな?
それとも…
家を出て、2人並んで歩く。
家から学校まで、川沿いに道があり、川づたいにいつも登校する。
川上から、涼しい風が2人の間を吹き抜ける。
川の中には、小魚がたくさん泳いでいて、朝から活発に動いている。
いつもと変わらない風景。
しばらく歩くと、いつもと変わらない校門が見えてきたが、いつもとは違った人影が1つ、私達を待ち構えていた。
…リュウジだ。
腕を組んで、私達を待っていたというように、遠くから見ていた。
「岐部さんから連絡来たか?」
いきなりの話題。
この人には挨拶という習慣はないのか。
「いや、あれ以降は何もない」
あれ以降とは、火曜日に打合せをする事に違いなかった。
「どうやら最初の仕事が待っていそうだな。コンテストの結果がどうあれ、これからが本当の勝負だ。お前と同期っていうのがなんとなく気に入らないが、最初はきっと誰でも苦労する。有用な情報は交換した方がいいもな」
リュウジは自慢の長髪をかき上げながら言った。
ユウに対して、ライバル意識と少しの仲間意識があるみたいだ。
一方のユウは、表情1つ変えず、リュウジの話を聞いていた。
「ああ。そうだな」
少し面倒くさそうに応える。
リュウジはきっと、芸能界を上手く立ち回って世に名前を出したいとは思っているに違いなかった。
ユウはその逆で、純粋に、モデルの仕事がやりたいと思っているだけのように見えた。
「とりあえず、コンテストの結果は楽しみだな。ちなみに、輪廻─ロンド─のメンバーは投票対象外だそうだ。つまり、会場の盛り上がりからいって、俺とお前のどちらかだな!」
「ネット投票が含まれるから、それは分からない」
「いや、会場を盛り上げられない奴に、ネットだけを見ている人を盛り上げられるとは思えないね」
「それは正論だけど、世の中そんなに杓子定規みたいにはいかないだろう」
なんかヒートアップしてきた。
校門をすれ違う同級生達が、2人を横目に校舎へ入っていく。
そこへもう1人、新たなメンバーが加わった。
ヤマトだ。
これは火に油だな…。
「よう、モデルのお2人さん!朝から打合せかい?」
「お前、朝練は?」
「休んだ!もう疲れちゃってさ」
ヤマトもリュウジも、少しおつかれ気味だった。
本当に、お疲れ様。
「落選した奴に話す話題などない」
「なんだと…!」
ヤマトがリュウジを睨みつける。
あーあ、やっぱりこの展開…。
「とりあえず教室に入ろうよ!授業始まっちゃうよ!」
さらにヒートアップする前に、なんとかしないと。
「ふん、明日が楽しみだな!」
そう言うと、リュウジは1人で校内へ歩いていった。
「あいつ、事務所に入れたからって鼻にかけやがって」
ヤマトはかなり腹を立てたらしかった。
一方のユウは、関心なさそうに、黙っていた。
その日一日は、それ以降、何事もなく過ぎた。
さすがのユウも、やっぱり疲れているようで、帰りも一緒に、どこも寄り道せずにそのまま帰宅した。
そして、コンテスト結果発表当日。
朝イチでホームページをチェック!
優勝は、
ユウだった─────!!
凄い!!
奇跡が起こったように、信じられない!
2位は、リュウジだった。
5万票集まり、1位のユウと2位のリュウジとは2千票程の差があった。
「おはよう。玄関前まで来てる」
いつものカレのLINEが入った。
あれ?普通だ。
まさか優勝したって気づいてないのかな?
それとも直接顔合わせたときに話すのかな?
ユウへどんな言葉をかけてあげようか考えながら、いつもの登校の準備をした。