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雨の終わる場所

「音々っ!靴箱にこんなの入ってたよ~!どおしよう?」

朝、いつもの靴箱で出会った茉実が、4つに折りたたまれたメモを見せながらこっちに駆け寄ってきた。




「お手紙~?誰から~?」

「…泉原くん。」

茉実が、私だけに聞こえるように小さな声で囁いた。

「どひゃー!!」

びっくりした。今時手紙ですかっ?!て、そこじゃなくて。

「で、何て書いてあるの?」

私も小さな声で囁く。ま、どんなに小さな声でも朔には聞こえてるんだろうけどね。

「うん。お昼休みになったらすぐ、屋上に通じる階段に来てって書いてあった。」

「ふむふむ。そりゃ行くしかないでしょ。」

「え~?!何の用だろう。思い当たる節もないし…。」

泣きそうな顔をして、茉実が私に縋り付いてきた。や~ん、かわいい!

「じゃあさ、私と朔が見えないところで居てあげるからさ。それなら大丈夫?」

「ん~。それならおっけ。大丈夫。」

「じゃあ、決戦はお昼休みだ!」

「ありがと、音々!今日の数学は目いっぱいフォローしてあげるから!」

にっこり笑顔で茉実は言った。

「…って、その前に算数あるのかぁ…」

上がったテンションがダダ下がりの瞬間だった。




昼休みになってすぐ、私たちは屋上に通じる階段に向かった。


うちの学校は5階建てのコの字になっていて、階段は中央と、コの字のそれぞれ端にある。

屋上に通じる階段は中央のみ。

一年生の教室は4階にあって、1組から6組までが中央階段を挟んでシンメトリーに配置されている。そして5階は特別教室になっている。


泉原くんは屋上に出る扉に背をもたせ掛けて、俯き加減で立っていた。

扉についている窓からの逆光で表情がよく見えないけど、それすらも絵になっているというか。

私と朔は、階段の折り返しの手前の手すりの下に潜んでいた。

ちょっぴり覗き込みすぎて顔がはみ出てしまってるのはご愛嬌。


「突然呼び出してごめんね?なんとなく用事何て思い当たるだろうけど。」

泉原くんが口を開いた。

思い当たるも何も、告白しかないでしょっ!!と、思わず身悶えてしまう私。朔に「落ち着け。」と耳元で囁かれる。

「うーん?いまいちわかってないんだけど?」

茉実が首を傾げながら答える。

ちょっと困り顔が、またかわいくてキュンなのよねー。私が思うくらいなんだから、泉原くんにとってはましてよね。

「用件は二つあるんだ。最初に…ごめん。謝りたくて。」

泉原くんはそういうと深々と頭を下げた。

「どうして泉原くんが私に謝るの?」

茉実が怪訝な顔をして、彼を見上げて言う。

茉実は傘を隠した張本人を知らないんだものね。

「傘、隠したのオレなんだ。…気づいてた?」

「ううん。全然。でも、なんで?」

「そりゃ、一緒に帰りたかったから。そっか、気付いてなかったのかぁ。」

「…すっごく落ち込んだんだよ?そんないたずらされる覚えもないし…」

ちょっと茉実が涙声になってる。むきーーーっ!茉実を泣かしたらただじゃおかねぇ!!拳を握ってわなわなふるえてると、また朔に宥められる。

茉実の潤んだ瞳を見て、それまで余裕っぽく振舞っていた彼が慌てだした。

「うわっ、泣かないで!!ごめん、ほんとにごめんて!!悪意じゃないのはわかってほしんだ!」

おろおろしながら、ハンカチを取り出して茉実の眼もとに当てた。

「…わかった。」

ぐすっと鼻をすすってから、茉実は顔を上げた。

「よかった…。クラスも違うし接点も何もないからどうやったらオレを認識してもらえるかって、必死に考えたんだ。迷惑かけてごめんね?でもさ、入学式の時からずっと見てたんだ。初めはかわいいなって感じだったんだけど、見ているうちにいろんな堂川さんが見えてきて、ますます好きになっていった。よかったら、オレと付き合ってほしんだけど…だめかなぁ?」

見上げる茉実の目をまっすぐに見つめながらの泉原くんの告白。あーもう、聞いてるこっちが照れちゃうよ。耳塞ごうかしら。いやむしろ耳ダンボになってるけど。

「私は何にも知らないもの。泉原くんのこと。カッコよくて、バスケが上手いってくらいしか。」

また困り顔で茉実が応える。

「それでもいいから、これから知ってよ?」

必死にすがる彼を見ながら、茉実はまだ戸惑う。

「う~ん。でも、モテるから、みんなに怒られちゃうわ。私なんかと付き合ったりしたら。」

「絶対誰も何も言わないって!言わないし、言わせないから!」

さらに必死さが増す泉原くん。

「…とりあえず、友達からにしてもらっていい?」

やっと茉実が決心した。少し彼を上目づかいに見上げて。

すると途端に彼は顔を輝かせた。

「ほんと?ほんとに?!やった!友達でも何でも、めちゃうれしい!ありがと!」

とびきりスマイルで茉実の手を握ってぶんぶん上下させる彼。子供みたいだぞー。

でもとびきりスマイルはかっこよかった!…あ、朔と目が合った。やばっ。学習したはずなのに、とほほな私…。




それから毎日、泉原くんは茉実の元へやってくる。

放課後は部活が忙しいからなかなか一緒にいられないっていうのもあって、休み時間や昼休み、特に昼休みなんてランチに必ずさらっていこうとする。


そうそう。泉原くんが茉実に告ったということは瞬く間に知れ渡った。

でも「泉原くんが茉実に落とされた」というよりはむしろ「堂川さんが泉原に落とされた」という感じ。

そんなんだから、誰も文句なんかあるはずもなく、泉原くんの努力をみんなが応援してるみたい。

今日もお昼休みになった途端に彼は現れた。

「茉実!学食行こう!」

満面の笑みで誘う。

「あ、うん。じゃあね、音々。」

まだ戸惑いがちながらも、茉実は嬉しそうに言う。

「いってらっしゃ~い!」

と、私も満面の笑みで送り出す。でも、

「音々。笑顔が黒いぞ。」

朔に言われる。

「ふふふ。尾行するわよ。」

さらにわっる~い笑顔で朔に囁く。

「邪魔すんなよ…趣味悪いぞ。」

朔が苦笑いをする。

でも結局尾行なんてすぐにばれて、4人でランチするのもほぼ日課なんだけどね。

それはそのまま「邪魔してる」ことになってるんだけどね。それはご愛嬌。

傘を隠した罰だと思いたまえ。泉原くん。

当分二人きりにはしてやらないんだから。

終了しました!

お付き合いいただきましてありがとうございます。


王道大好きなのです♪


また続編考えてますので、そちらも気が向いたら読みに来てくださいね!

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