飛びたい空
灰色空域ロストケージ。
色のない空。
止まった風。
閉じた翼の世界。
その中心に、黒い翼が広がっていた。
ブラックスワン。
すべての翼を止める存在。
その前に、蒼い翼の少女が跪く。
セイラ。
ロストケージの刃。
「報告」
静かな声。
「主核排除」
セイラが答える。
「……未遂」
沈黙。
空気がさらに冷える。
ブラックスワンの瞳が細くなる。
「再試行」
「……未遂」
再び沈黙。
そして。
黒い声が落ちる。
「出来損ない」
セイラの瞳が止まる。
わずかに。
ほんのわずかに。
翼が揺れる。
「任務不達」
「感情混入」
「直線歪曲」
冷たい断定。
「刃失格」
セイラの胸の奥が凍る。
だが動かない。
「処分」
その言葉と同時に。
灰色空間が歪む。
三つの気配。
現れる。
エンヴィ。
リグレ。
フィア。
ロストケージ幹部。
セイラを囲む。
「……対象確認」
エンヴィが冷笑する。
「落ちた刃」
リグレが静かに言う。
「役割終了」
フィアが囁く。
「一人になるね」
セイラの瞳が揺れる。
ほんの一瞬。
孤独の恐怖。
だが次の瞬間。
蒼翼が開く。
反射。
本能。
生存。
ヒュン!!
一直線に離脱。
ロストケージ空域を裂く。
背後で幹部が追う。
「逃亡確認」
「追跡」
「排除」
三つの影が迫る。
セイラは飛ぶ。
速く。
直線で。
だが。
逃げる速さ。
孤独な速さ。
心が揺れる。
(出来損ない)
言葉が刺さる。
(刃失格)
胸が重い。
(処分)
恐怖が走る。
セイラはさらに加速。
灰色空域を抜ける。
青い空へ。
***
街の上空。
ちゅなは空を見ていた。
「……セイラ」
小さく呟く。
その瞬間。
蒼線が落ちてくる。
一直線。
急降下。
屋上に着地。
セイラ。
呼吸が乱れている。
ちゅなが駆け寄る。
「セイラ!」
セイラが見る。
ちゅな。
クロ。
ハク。
三つの翼。
温かい色。
言葉が出ない。
だが次の瞬間。
空が歪む。
三つの影が降りる。
エンヴィ。
リグレ。
フィア。
幹部。
圧力が空を沈める。
ちゅなが理解する。
「……追われてるの?」
セイラが言えない。
だが瞳が答える。
クロが前へ出る。
「……そういうことか」
ハクも翼を広げる。
守る姿勢。
エンヴィが笑う。
「ほう……出来損ないが出来損ないと群れている」
リグレが言う。
「終わった刃」
フィアが囁く。
「一人に戻ろう」
セイラの胸が凍る。
一歩下がる。
だが。
ちゅなが前へ出る。
セイラの前に立つ。
小さな体。
でも真っ直ぐ。
「ダメ」
幹部が止まる。
エンヴィが首を傾げる。
「敵を守る?」
ちゅなが言う。
「敵じゃない」
フィアが笑う。
「一人だよ」
ちゅなが首を振る。
「違う」
小さく。
「一緒に飛べる」
セイラの瞳が揺れる。
クロが横に並ぶ。
「こいつは」
低く言う。
「速い」
ハクが反対側に立つ。
「強い」
三人で囲む。
守る形。
セイラは初めて。
背中側に翼を感じる。
守られる位置。
理解不能。
心が揺れる。
幹部が動く。
エンヴィの比較圧。
リグレの拘束歪み。
フィアの孤立波。
三方向攻撃。
クロが迎撃。
高速で動く影。
ハクが防御。
白光展開。
ちゅなが共鳴風。
三人連携。
初めての防衛戦。
セイラを守るための戦い。
セイラは呆然と見る。
自分を守る敵。
意味が分からない。
ちゅなが振り返る。
「セイラ!」
手を伸ばす。
温かい光。
「一緒に飛ぼ」
その言葉。
その手。
その光。
セイラの心の檻が揺れる。
孤独。
刃。
任務。
出来損ない。
処分。
だが。
今。
守られている。
必要とされている。
初めて。
居場所の感覚。
翼が震える。
ゆっくり。
蒼翼が開く。
ちゅなの手を取る。
触れる。
温かい。
セイラの瞳に光が戻る。
小さく言う。
「……飛ぶ」
幹部が止まる。
エンヴィが眉を上げる。
「共鳴?」
リグレが計算する。
「戦力増加」
フィアが後退。
「四翼」
幹部が判断する。
状況不利。
任務未優先。
そして。
「撤退」
三影が歪みへ消える。
静寂。
青空。
風。
四人が空に立つ。
ちゅなが笑う。
「ようこそ!」
クロがそっぽを向く。
「……遅い」
ハクが微笑む。
「待ってたよ」
セイラが三人を見る。
温かい色。
並ぶ翼。
孤独じゃない空。
小さく言う。
「……ここが」
ちゅなが頷く。
「うん」
「居場所」
四つの翼が並ぶ。
雀色。
黒。
白。
蒼。
孤独な翼は初めて。
群れを得た。




