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黒き司令

 空の奥に、色のない領域がある。


 風は止まり、光は薄く、

 音さえも檻に閉じ込められた場所。


 灰色空域 ―― ロストケージ。


 無数の格子が重なり合う空間の中心で、

 黒い翼が静かに揺れていた。


 ブラックスワン。


 かつて翼を守護した存在。


 今はすべての翼を止める者。


 その前に、蒼い翼の少女が跪いている。


 セイラ。


 ロストケージの刃。


「確認」


 ブラックスワンの声は静かだった。


「翼リンク個体 三」


「はい」


「逸脱」


「はい」


 沈黙。


 色のない空気が流れる。


 やがてブラックスワンは言った。


「希望の鳥を折りなさい」


 セイラの瞳がわずかに動く。


「……希望」


「結びの翼」


 雀色の光が空間に投影される。


 ちゅな。


 飛ぶ姿。


 笑う姿。


 仲間と並ぶ姿。


「共鳴を広げる翼」


 静かな声。


「最も危険」


 セイラが短く答える。


「排除対象」


 ブラックスワンの黒翼がゆっくり開く。


「迷いは不要」


 その言葉は命令であり、鎖だった。


「任務を遂行しなさい」


「……はい」


 セイラは頭を垂れる。


 蒼い翼が閉じる。


 感情はない。


 ただ直線。


 ただ任務。


 ただ刃。


 ***


 同じ頃。


 街は穏やかだった。


 公園のベンチで、ちゅながパンをちぎっている。


「ほら、みんな」


 雀たちが集まる。


 ちゅんちゅん鳴く。


 ハクが微笑む。


「鳥に好かれるね」


「仲間だから!」


 ちゅなが胸を張る。


 クロが腕を組む。


「そりゃそうだろうな。鳥だし」


「今は人間だもん!」


 言い返す。


 三人が並ぶ。


 平和な時間。


 風がやわらかい。


 その時だった。


 空気が凍る。


 鳥たちが一斉に飛び去る。


 影が落ちる。


 ヒュン――


 蒼い線が公園上空を裂いた。


「……!」


 三人が同時に顔を上げる。


 空中に。


 蒼い翼の少女。


 セイラ。


 直立。


 無表情。


 風の刃。


「……来た」


 クロが低く言う。


 ハクが前へ出る。


 ちゅなが立ち上がる。


「セイラ!」


 セイラは答えない。


 視線はちゅなに固定。


 冷たい。


 測る目。


「排除対象」


 静かな宣言。


「優先 一」


 ちゅなの心臓が跳ねる。


「……え」


「希望の鳥」


 ブラックスワンの言葉が重なる。


「折る」


 蒼翼が開く。


 次の瞬間。


 消える。


 ヒュン!!


 ちゅなへ一直線。


「ちゅな!」


 クロが割り込む。


 影高速。


 蒼と衝突。


 ぎん!!


 完全に押される。


 速度差。


 力差。


 クロが吹き飛ぶ。


「クロ!」


 ハクが結界展開。


「クルル・ダヴ!」


 白光最大防御。


 だが。


 蒼刃が貫通。


 バン!!


 結界破砕。


 衝撃波。


 ハクが後退。


 ちゅなが凍る。


(速い……)


 セイラが再突入。


 最短軌道。


 最速。


 ちゅなの目前。


 刃が振り下ろされる。


「やめて!」


 ちゅなの翼が光る。


 雀色の風。


 だが。


 蒼刃が突き破る。


 距離ゼロ。


 刃先が胸元に届く――


 その瞬間。


 白光が割り込む。


 ハク。


 体を盾に。


「……!」


 刃が止まる。


 セイラの瞳が一瞬だけ揺れる。


 クロが背後から斬撃。


 影軌跡。


 セイラが回避。


 だが距離は開かない。


 三人連携。


 だが。


 圧倒的に足りない。


 セイラが高速連続斬撃。


 空が裂ける。


 影が崩れる。


 白光が歪む。


 雀風が散る。


 三人同時防御でも押される。


 ちゅなが息をのむ。


「……強い……」


 セイラは淡々と言う。


「任務遂行中」


 再突入。


 ちゅなへ。


 クロとハクが同時に止める。


 衝突。


 ドン!!


 空気爆発。


 だが。


 セイラが突破。


 再びちゅな目前。


 刃が迫る。


 ちゅなが目を見開く。


 怖い。


 逃げられない。


 でも。


 胸が熱い。


「……折れない」


 小さく言う。


「わたし、飛ぶ」


 雀色の光が広がる。


 セイラの瞳が止まる。


 その言葉。


 その光。


 ほんのわずか。


 刃が遅れる。


 クロとハクが同時衝突。


 セイラが後退。


 距離が開く。


 空中静止。


 風だけが流れる。


 セイラが三人を見る。


 黒。


 白。


 雀色。


 連携。


 庇い。


 共鳴。


 沈黙。


 解析。


 予測。


 そして。


「……未排除」


 小さく。


「任務継続」


 蒼翼が大きく開く。


 一直線の風路。


「次回」


 静かな宣言。


「折る」


 ヒュン――


 蒼線が空へ消える。


 静寂。


 三人は空に浮いたまま動けない。


 クロが息を吐く。


「……桁が違う」


 ハクがちゅなを見る。


「大丈夫?」


 ちゅなが頷く。


 でも震えている。


「……怖かった」


 小さく言う。


「でも」


 空を見る。


 蒼線が消えた方向。


「……あの子」


 そっと。


「本当は飛びたい翼だと思う」


 風が吹く。


 三つの翼が揺れる。


 そして彼らは知る。


 ロストケージの指令。


 希望を折る刃。


 孤高の蒼翼。


 セイラ。

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