ベラドンナと公爵一家の帰省
―――さて、里帰りをした私・ベラドンナはかわいいイオちゃんと一緒にお父さまたちのお出迎えの準備をしていたのだけど。
何故か毎日夫のルックから“戻ってきてほしい”と手紙がくるのよねぇ。“まだ帰れないから暫くそっとしておいてほしい”って何度も返信をしているのに。まだお父さまたちが帰ってきていないし、それに今は久々にイオちゃんとゆっくりしたいからそっとしておいてほしいのよ。姉弟水入らずで過ごしたい姉心を少しは理解してほしいものだわ。全くしょうがないひとね。
そして、遂にお父さまたちがお帰りになる日がやってきた。イオちゃんはちょっと顔色が悪かったので中で待っていてもらうことにして。私は代官のジェイドや使用人たちと一緒にお父さまたちをお出迎えしたわ。お父さま、お母さま、お兄さま。そして王都の邸で仕えてくれていた使用人や護衛騎士たち。
でも、さすがに王都から全員は連れてこられなくって、一部の使用人には他の勤め先を斡旋したそうなの。それでも、私が幼い頃から知っている執事長やメイド長も一緒に付いて来てくれたようで安心したわ。
けれど。
「あら、お父さま。ソフィは一緒じゃないの?」
ソフィの姿がどこにもなかったのだ。
ひょっとして王都に置き去り?まぁっ!そうならばふれあい合同演習の人質役よりも鬼畜ね。そう思ったのだけど。
「あぁ、実は私たちが王都を引き上げる時に王都に残りたいと暴れてな」
お父さまは困ったように苦笑し、お母さまなんてげんないしていてくらっときてしまって。お兄さまが心配そうに支えている。やっぱり置いてきたの?鬼畜放逐プレイだなんて、お父さまっ!
「王都の屋敷は売りに出したから、自分で職と住む場所を探しなさいと言ったら渋々付いてくることになった」
あら、お父さまったら交換条件も割とまともね。私ったらいけない。かわいい妹には旅をさせよとは言うけれど、ついついドSになってしまったわ。
「だが、道中文句を言うわ、どなるわ、我儘を言うわ。使用人や護衛騎士たちにはソフィの命令は聞く必要はないと伝えても、ソフィは相変わらず彼らに指図をやめない」
あら、まぁ。現状を聞けば聞くほど、私が悠長に考えていた拗らせた反抗期というレベルではやはりなさそうね。
そして甲高い呻き声と共に荷台から護衛騎士たちに降ろされた人影を見て、私はあらあらと呑気に眺めつつも事態は思ったよりも深刻そうな感じがしたわ。
誰よりもその美貌を振りまいていた金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つかわいらしい妹のソフィ。でも今は見る影もない。髪はぼさぼさで肌はガサガサ。所々に泥もついているみたい。以前見た時は新品のキレイなワンピースを身に着けていたはずだけど、旅装としても随分と薄汚れて色褪せたワンピースを着ているのね。
体は縄で縛られ、口には猿轡。あらあら。猿轡まではめられるなんて、一体どうしてこんなことに?ソフィ、お姉さまもさすがにちょっとドン引きよ?
「“それ”は用意させておいた別邸に隔離しておくように」
お父さまが告げると、早速護衛騎士たちと領主邸の騎士たちが合同でソフィをつなぐ縄を引っ張り引きずるように連れて行く。ソフィったら。ちゃんと自分の足で歩かないとみっともないわよ?
それにしてもソフィの連れて行かれた別邸ね。お父さまから手紙があって、別邸の家具や荷物などは全て別の邸に移動させて最低限のものだけ設えたのよね。あそこは別邸と言っても離れのようなもので。ちょっとこじんまりとしている場所。王都の屋敷のソフィのお部屋くらいの大きさだから、ソフィひとりが住むにはちょうどいいかもしれないわね。
「あと、必ず交代で見張りを」
「心得ております、公爵閣下」
騎士がお父さまに騎士の礼を返し、早速とばかりにソフィの隔離に向けて動き出した。ソフィは引きずられていく途中、私のことをキッと睨みつけてきたわ。あの子いつからあんなに目つきが悪くなったのかしら?あぁ、私のことを“大っ嫌い”と言った時からね。
「お父さま、ソフィは」
「あぁ、あのまま隔離させる。これ以上問題を起こされたらかなわないからな」
お母さまだけではなくお父さま、お兄さま、周りのみなさんまげっそりしているわね。
「では、みなさん早速中へ。荷物の運び入れもなるべく領主邸のもので行いますから。長旅だったでしょう?少し休憩してくださいな」
そう言うと、長旅を終えてきた家族や使用人たち、護衛騎士たちがほっと胸をなでおろしたように見えた。
「中でイオも待っておりますわ」
「それはよかった」
「えぇ、久々にイオに会えるわね」
「あぁ、イオ~、イオ~」
まぁまぁ。みんなストレスマックスみたい。お兄さまなんて呪文のようにイオちゃんの名前を連呼しているわ。
早速サロンで待っていたイオちゃんと合流すれば、お互いにほっとした表情を浮かべた。イオちゃんはその場にソフィがいないことには特に何も触れなかったの。ソフィの件については私も代官のジェイドも詳しくは話していないわ。お父さまたちと一緒に帰ってくるとは伝えてあるけれど。やっぱり聡い子ね。そう感心しながらも私と領主邸のメイドたちが長旅を終えたみんなにお茶をお出しして、少し休憩してもらうことにしたわ。




