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第91話・魔王、勉強に励む

投稿が遅れました。

これからもよろしくお願いいたします。



「おーし今日はこれまで。 みんな上がって良いぞ!」


「「お疲れっしたーーー!!」」


棟梁が言うと同時に、作業員達は肩や腰を鳴らして帰り支度を始める。

中には何人かで集まり、飲みに行く算段をする者まで居た。

今日も労働をした―そんな、合っているんだか間違っているんだかの良い汗を流す魔王に、真っ黒に汚れたエルフが声を掛けた。


「シアちゃんも来ないかい? 奢るけど」


「すまないが忙しくてな、これで失礼させてもらう」


同僚エルフの申し出をにべもなく断ると、早々に現場から離れていった。

彼女が現場にやって来て、もう半月以上になる。

前に勝負を挑んで負けたドワーフが、彼女の後姿を見ながら腕組みして悪態をつく。


「最近、付き合いが悪いんじゃねーか? 初めのころは『奢る』っつったら即答で付いて来たってのによ」


「何かを受けるとか言っていましたね、仕事が無い日には図書館に入り浸っているそうですよ?」


「はぁ、図書館!??」


彼にとってすれば時間外に、あんな目が回りそうな場所に行くなど、信じられないことだった。

大人向けのウスい本が在るなら良いが、そんなモノは生憎と、そこには置いていない。

思い付く本の使い道と言えば、ちょっと枕にするとか、焚き火の燃料に使うぐらいでは無かろうか。


「分からねェ、サッパリ分からねぇ・・・・・・」


首を捻るドワーフに苦笑を浮かべ、エルフはエティシアが向かっていった方向を見る。

「頑張って下さい」聞こえていないのは承知で、応援のエールを送った。

その頃、エティシアこと魔王はと言えば、朝の喧騒が抜けきらない中を猛牛の如く突進し、目指す図書館に到達していた。

入り口のすぐ脇にはテーブルが構えてあり、そこに案内役の『図書館シショ』とか言う人物が座っている筈なのだが・・・・・・


「お休みのところ申し訳ないが、自習室を利用したい」


「へあっ・・・・はっはい!?」 


こんな時間から、図書館を利用する人間など普段、居ないのだろう。

机の上で舟を漕いでいたシショは、ビクリと体を起こして魔王の姿を確認して、手元の魔道具を操作する。


「えぇっと・・・・あ、市民証はお持ちですか?」


「あぁ、持ってる」


街の図書館の利用は、市民のみと限定されている。

旅行者なども利用できなくは無いが、その場合は入館料を徴収されるようだ。

手持ちの臨時市民証を懐から出して、テーブルの上に出す。


「えっと・・・・移民の方ですねぇ」


寝ぼけ気味な様子を浮かべる彼女に魔王は、一抹の不安を抱く。

このシショ、大丈夫だろうな?

頼りなさげに再び魔道具に手を伸ばし、暫くして使い込まれた古びた木札を魔王に渡してきた。


「ふーんと・・・・、ご利用は初めてですか?」


「大丈夫だ。 世話を掛けたな、ゆっくり休め」


睡眠魔法を掛けて、シショが夢の世界に旅立ったのを確認し、魔王は目当ての本を探しに行った。

四天王ベライバルと、思い掛けない再会を果たしたのが半月ぐらい前の事になる。

ここに来て彼女は、新たな稼ぎの方法を模索していた。


「本が多いな・・・・・」


いつもの魔物関連の棚を通り過ぎ、今日はその先にある『免許関連』という棚の前で立ち止まった。

免許と一口に言っても様々で、役員免許や会計士免許、建築工事士や警備監督責任者などという免許まで在るとか。

その免許の洪水の中から、一冊を手に取る魔王。


「『狩猟免許はじめ』この辺りから始めてみようか」


類似した本が隣に何冊も在るので、それも含めて自習室へと持っていく。

この街には、元四天王のベライバルと言う魔族が居り、つい数十年ほど前までは冒険者ハンターをしていた経験が在るらしい。

人間関係など、いまだ社会というモノに慣れず、力を豪語する魔王にとって、1人で出来る冒険者稼業は天職と言ってよかった。

だが時代は変わり、申告しての登録制だった冒険者は、名を『狩猟者ハンター』と改め、なる為には組織で定められた試験に合格しなければならなくなった、らしい。

引きこもった上でロクに勉強もして来なかった魔王は、借りた本でようやくソレを理解した。

東方の辺境では確か、こういうのを『井の中の蛙』と言うのだっけか。


「もっと早く調べれば良かったのに、平和ボケして居たのは私のほうだったな」


ブライトで『冒険者ギルドは無くなった』と聞かされ、これまで至ってきたわけだが、それに類する具体的な方法は知る事が出来た。

検定料の4,000ゴールドも、先行投資と考えれば出せなくは無い。

なにより部下も通った道、狩猟や採集の知識なら負けない。

そう、今なら!


「見える、輝かしき未来が見えてきたぞ!!」


「あの~、自習室ではお静かに願います」


「すみません」


先ほどとは別の図書館職員が、意気込む魔王に苦言を呈した。

ちょっと熱くなり過ぎてしまったらしい。

しかし聞いて欲しい、試験は年に二回あるようだが、なんとその1回が僅か、1ヵ月後に迫っている。

試験の申し込み期限ギリギリに願書を出せた、これは勝利の邪神が微笑んでいると言って良い。

魔物の弱点や特性などは知り尽くしているので、ほんの少し新種系の獣類について勉強すれば、試験など楽勝だ。

持ってきた本を見ても、前半はそういった内容で占められている。

後半は小難しいことが書いてあるようだが、恐らく付録みたいなものだろう。


「フ・・・・やはり楽勝だな、既に知っていることばかりだ」


ゴブリンは群れで行動する、ドラゴンのブレスにも『属性』が存在する、野宿の心得や罠の作り方など・・・・・

これなら満点まちがい無しだ。

魔王の中で、自信は確信に変わる。


「イケる・・・・これは、イケるぞーーー!!」


これぞまさしく天佑神助、勝利は我が手の中にあり。

勝どきを上げる魔王に、近くに居た職員が怒りの形相で「お静かに!」と注意しているのが聞こえた気がしたが、ほとんど魔王の耳には届いていない。

邪神が微笑むか、それは1ヵ月後の試験に掛かっている・・・・・



次回は決定しておりません。

よろしくお願いいたします。

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