第88話・魔王、新たな一歩を踏み出す?
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派遣の警備と言う仕事は、言うに簡単で奥深い。
あっちやこっちの工事での交通整理を始め、イベント開催時などの防犯目的など、その役目は現場によって大きく異なる。
『敵には死あるのみ』と考えている魔王には、まだ早い話かもしれないが。
「そんな顔するなよ、お客さんが恐がってるじゃないか」
「ナニを言いますか!? ナメられたら、どうするのです!」
まるで不良高校生のような彼女の発言に、先輩警備員は呆れ返っていた。
魔王が警備のバイトを始めて5日目。
派遣の試用も本日までとなり、追って引導が沙汰される事になっており、彼女の表情はいつにも増して険しい。
その小さな双肩に掛かる重圧の事を考えれば、致し方ないのかもしれない。
だが賑わう会場の中、魔王の要る周辺だけ異様な妖気のようなモノが漂っていた。
「いつも同じ場所を守っている、というワケでは無いのだな」
「あっちの現場は休みだからね、今日は祭りの警備さ」
この日テバスでは、年に1度の収穫祭が執り行われる。
彼の指差す先、町の広場には小さな露店が軒を連ねており、活気に満ち溢れている。
何の収穫を祝うのか、詳しいことを魔王は知らない。
ただ、わざわざ休日にまで群れて、ご苦労様である。
人慣れしていない魔王は、早くも酔ってしまいそうで顔色が悪くなっていく。
「毎年同じ事をやっていて、人間はよく飽きないな・・・・・」
「ははは、シアさんは人が多いところがニガテなんだね」
思わず本音を洩らした彼女に、彼もまた苦笑をもらす。
守銭奴で知られるドワーフに、物怖じもせず山なりのウインナーを奢らせた同一人物とは、到底思えなかった。
祭り自体は3日ほど続くのだが、初夜を迎える今晩と、最終日の晩餐会が大盛り上がりする。
夜の本番にあわせて、多くの商人たちが準備に大あらわとなっていた。
人はニガテだが、店や商品については大いに、彼女の好奇心が揺さぶられる。
「あれだけ露店があって、みな同じと言うことはあるまい?」
「ちょっとぐらい、仕事を抜けても良いよ? 警備は夜がメインなんだし」
彼女が辺境の出身者(魔王城)という事は聞かされている、街で売られている物は目新しいものばかりだろう。
だと言うのに、仕事中はロクに休憩を取っている姿を見たことが無かった。
だがクソ真面目な魔王に、この好意は通じなかった。
「いいや、私に休憩など・・・・!」
そう言いかけた瞬間、クキュ~~ッという可愛らしい音がどこからか鳴った。
2人とも何も言わないが、魔王の頬の部分は赤味を帯びていく。
そういえばここ数日、空腹を回復魔法と感覚操作で誤魔化していた事を思い出す。
「・・・・・あっちの屋台で売ってたボギーサンドって言うの、けっこう美味しかったなー」
「すまんが、ちょっと見巡りをしてくる・・・・」
「そうか、人が多いからブツからないよう気を付けてな」
顔をリンゴのように真っ赤にしながら、魔王は逃げるようにして、その場から離れた。
『腹の虫』というものが実在するなら引きずり出して、滅してしまいたい気分だ。
教えてもらった方に進むと、夜に向けた準備をしている屋台が連なっており、その幾つかは既に販売を開始していた。
美味しそうな匂いが、鼻腔をくすぐってくる。
「魔族の土地でも、特産品とか作ったら祭りが出来るだろうか?」
人が多いのは苦手だが、活気が在るのは嫌いではない。
収穫祭というなら、魔族の間にも成長を早める魔法など、農業系に使える魔法は多い。
あのヤセた土地で何が出来るかは分からないが・・・・。
「・・・・・!」
その時だった、群衆の中からただならぬ気配を感じ取った魔王は、驚きの表情で顔を上げた。
そんなハズは無いと周囲を見渡し、すれ違った群衆を見渡すが。
こう人が多くては、どれが誰なのかが分からない。
「気のせい・・・・?」
そうは言ったものの、魔王はすぐ、頭を横へ振って否定した。
生物が保有する魔力には『質』というモノがあり、これによって得意な属性などが判別されるのだが、それは色と言う形で傍からも一定、見ることが出来る。
たとえば火と闇が得意な魔王なら、マルーンのような暗い赤といった具合に。
そして今の魔力は、夜闇に落ちる森のように真っ黒。
アレは、同族のモノだ!
彼女の脳裏に『まさか』の三文字が頭を過った。
気配察知には自信が在る、400年の間に平和ボケはしたが、更年期障害には早すぎる。
それも、あの美しき漆黒は『闇』属性のモノだ!
「ふむ・・・・すれ違ったとしたら、あっちか」
あれこれと考えるより、実際に足を使って調べた方が早い。
行動派の彼女は空腹も忘れ、来た方向をあっちこっちと見ながら戻っていった。
◇◇◇
「はあぁ・・・・・」
しばらく経って。
魔王は会場の片隅で、大きなため息を付いた。
あれから時間も忘れて探したものの、ついに魔力の持ち主に会う事は叶わなかった。
当然だろう、祭りにあわせて会場には、今も人間は増えていっているのだ。
「なにをやっているのだろう、私は」
魔法の適性をいくつか持っている者は、この世界に少数ながら居る。
魔力の色が混ざり合えば、まるで魔族のように黒く見える事だって在る。
浮き足立っていた自分が、魔王は急に恥かしくなってきた。
「あっ居た、探したぞ!」
「あ」
そこへ先輩警備員がやって来て、ベンチに座って考える人をしていた魔王に駆け寄ってきた。
一時の気分高揚で忘れていたが、彼女はまだ、仕事の真っ最中だ。
「ごめんなさい、つい人に酔って・・・・・」
「そんな事だろうと思ったよ、人が多いと俺だって方向を見失うことが在るんだ。 警備員が迷子じゃ、世話無いぞ!」
まったくその通り。
ドバドバと冷や汗を流す彼女をみて安心したのか、それ以上、なにかを言われる事はなく、彼の表情に笑みが戻った。
「どうだい、祭りを見て回った感想は?」
「なぜ毎年やって飽きないのか、分かった気がしたよ」
「はははは、そうだろう」
多くの種族が入り乱れ、屋台には珍しい物や変わった物が並べられ。
種族のわけ隔てなく、肩を並べて『収穫』とやらを祝う。
だから人間は栄え、魔族は衰退したのだろう。
そう、大事なのは『協調』の精神だったのだ!
「この祭り、きっと成功させよう。 たとえスチールドラゴンの襲撃があっても、我らで守り抜くぞ!」
「・・・・・うん、さすがにそうなったら、祭りどころじゃ無いけどね」
ともかく彼女の気合が十分らしいことは、よくよく伝わってきた。
合流した事だし、警備任務に戻ろうとした2人だったが、またも可愛らしい音が、どこからともなく聞こえてくる。
クキュ~~ッと。
「・・・・・昼、まだだったのか?」
「あう・・・・・・」
顔をリンゴのように真っ赤にして腹の辺りを押さえる彼女を、彼は黙って見ている。
人探しに夢中で、空腹の事など、すっかり忘れていた。
そこへ、彼は一言。
「そういえば・・・さっき、あっちの屋台で売っていた勝手焼きっていうの、美味かったよ?」
「そうか」
とりあえず先ほどの疑惑の事は忘れて、魔王は空腹を満たすことに決めた。
次話は、書き直し中のため決まっておりません。
来週も、よろしくお願いいたします。




