第87話・魔王、就職したってよ(たぶん)
投稿が遅れまして、ご迷惑をお掛けします。
接続エラーとかで、一時的に投稿が出来なくなっていまして・・・・
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「壁の外に住んでいるって? あんな森の中に??」
「ま、まあ・・・・・」
魔王が職業斡旋された翌日。
彼女は市内の工事現場で、紺のロングパーカーを着こんで立っていた。
これが、こちらでの制服らしい。
前の剣士然としていたデザインとは打って変わり、兵士の正装のような出で立ちで、防御力は低そうなフォーマルな出で立ちに、若干ながら不安を覚える。
住所氏名を誤魔化したのは少々後ろめたいが、なかなかの滑り出しではなかろうか。
「本当に、ここで立っていれば良いと?」
「そうだよ、ヒトが通る時に安全を確保するのが仕事だ」
テバス市に引っ越して僅かに1日半、ブライトの時とは違い仕事は、すぐ見つける事が出来た。
内容は派遣の警備員。
ブライトで銀行警備をしていた時とはだいぶ異なるが、これも重要な仕事には違いない。
しかも今は本採用ではなく、一種の『お試し』
一週間ほど試用されたあと、引導が渡されるらしい。
これまでの事も在るし、魔王の胸中は不安で焦がされていく。
「トイレなら行って来なよ、我慢は体に悪いぞ」
「イヤ、そうじゃない!」
傍から見ると、彼女の挙動は相当に不審に映ったらしい。
まさか今からクビになる事を考えてましたとは言えないので、ちょっと話題を変える。
「そ、それよりスゴイ盛況ぶりであるな。 工事も、ここだけでは無い様だし」
こっちでも工事、あっちでも工事。
到着して早々に感じたことではあるが、テバスは何処もかしこも工事だらけだ。
こうも一体、ナニを造っているのか。
疑問符を浮かべる彼女を前に、先輩警備員は腕組みして答えてくれた。
「今はどこも建設ラッシュだからね、引く手あまたで建設業界は潤っていると聞くよ」
「そうなんですか」
どおりで、コンニチワークですんなり仕事が決まったかと思ったが、こんなカラクリがあったとは。
発展していたブライトとは対照的に、テバスは発展途上の都市なのだろう。
魔族の代表として、学べるところは学びたいところ。
「まだ私の採用は決まっていない、頑張るゆえ、よろしく頼む」
「なに、夜間警備は『なり手』が少ないから決まったも同然さ」
今の魔王の立場は『お試し』で、あくまで採用の合否は決まっていない。
本採用は今日の働きぶりなど多角的に評価され、その後となる。
そんな安定しない現状に、魔王の胸中は不安で渦巻いていた。
どうしても人間の常識と言うものに、馴染めない自分があったが、他の人族はどうしているのだろうと、そんな気持ちが沸々と湧いてしまう。
「あなたはいつ頃から、この仕事に?」
「オレ?」
これまで失職すること2回、街を追われたのを含めれば失敗は3回。
これから『人』として生きていくうえで、とても大事なことだった。
「俺はこの街で生まれて育って、何年か前に派遣のこの仕事を見つけた。 ただそれだけだよ。 知っての通りテバスは移民が多い上に、街も小さいから就職難でね」
街は小さいより大きい方が、良いに決まってる。
アタリマエか、人が多いところに物は集まり、仕事が増えるのはごく自然な事だ。
つまり魔族の地をどうにか栄えさえすれば、社会が確立し、困窮も無くなるとも言えなくは無いのではなかろうか。
問題は、その『どうにか』をどうするかという部分なのだが。
「うむ・・・・、大きくしたいモノだな」
「あぁ、街はこれからも、大きくなっていくよ」
魔王が洩らした言葉に呼応して、彼は視線の先にある工事現場を見やった。
街は中心部やメインストリートを除いて、そのほとんどが工事中と言っても過言ではない。
人族だけではない、役所でも見た獣人族やドワーフ族、エルフ族まで泥にまみれて働いている。
だれ彼とも不平不満など言わず、黙々と仕事に勤しみ種族問わず肩を並べているのは、異様にも理想的にも映った。
そんな風に魔王が1人で感動していると、それまで五月蝿かった工事の音がやみ、ひときわ体の大きいオーガのような人間が怒声の様な、大きな声を張り上げる。
「おーい、休憩だ! みんな休めーー!!」
「「「うーす!」」」
「きゅ、きゅうけい?」
突然の事に動揺する彼女に、先輩警備員が軽く説明をする。
「ただの昼休みだよ、親方達はここで休むようだけど、君はどうする? 俺は近くの食堂に行くけど」
仕事の合間に挟まれる休憩のうち、昼休憩は食事を取るためと午後の英気を養うため、少々長めにとって在る。
大抵は現場で持ってきた弁当などを食べるか、近くにある食堂へ行くか。
むろん彼のように、近くの食堂へというのも珍しくはない。
当然ながら彼女もそうだろうと、食事に誘われたわけであるが。
「ありがたいのだが今は胸がいっぱいで、とても食べられそうにない」
「そうか、なら休憩室を使うといいよ」
そう言って彼は、工事現場の一角に建てられた急造の小屋を指差した。
この現場の簡易休憩室のようなモノだが、軽く仮眠を取るぐらいなら十分な設備がある。
今日は天気も良く、空は抜けるような青空。
幸いにも工事作業員達は露天の下に昼食を取っており、休憩室に入った時に居たのは、彼女1人だけだった。
「ふむ、ここは静かだし良い場所だな」
誰も居ないことを確認すると、懐から雑誌を取り出した。
タイトルは『マチワーク』この街の求人雑誌だ。
派遣の仕事は決定ではないため、念のため。
石橋は叩いて渡るのが、魔王のモットーである。
「しかし―、本当に仕事と言うものが少ないのだな。 ロクなものがない」
こちらも仕事が無いのは、コンニチワークと同じらしい。
載っているのは短期間のものや、シフトの穴埋めのような短い勤務時間のものばかりで、魔王の求めている業務内容のモノは全くと言っていいほど無い。
現実は、そう甘くない。
彼女がゲンナリして雑誌を閉じて、付録の履歴書への記入を始めると、休憩室のドアが無造作にガチャリと開いた。
「おっ、エライな勉強している!」
「なにが偉いんだ、俺なんか学校に行かなくても読み書きぐらい出来るぜ」
休憩室に入ってきたのは、人族とドワーフ族の男2人組みだ。
履歴書を書いている姿が、勉強しているように映ったらしい。
顔中がヒゲだらけのドワーフは、ケッと唾でも吐き出すような仕草を見せる。
ヘンに誤解されたくはないので、魔王はその前に机の上に載せていた『マチワーク』を見せた。
「すまないが勉強ではないのだ、仕事を探していてな」
「あぁ・・・・・・警備の仕事は、なぁ?」
ナニか言い方を間違えたのか、全身に土まみれにした男が苦笑いを浮かべる。
魔王は外見だけ言えば、良い所のお嬢様に見えなくも無い。
警備と言う仕事は傍から見ているほど、簡単な仕事ではなく、女の手では余るとでも思われたのだろう。
「いやいや、不採用だった時のためだ。 これは!!!」
「へェ・・・・若いのに、しっかりしてんなー」
「ただ逃げ腰なだけじゃねーか、そんなで警備が勤まるのかよ?」
人族が器用貧乏などと揶揄される中、ドワーフは職人気質の者が多い事で知られる種族。
彼が辛口なのも、種族がら故だろう。
だが弱っちい奴だと思われるのは、魔王を名乗る者としては捨て置けない。
いや、ここでは名乗ってはイケないのだが。
「体力と忍耐に掛けては自信が在る!」
「口では、なんとでも言えるからなァ・・・・」
いつもの如く力こぶを作って見せる彼女を、ドワーフ男は小ばかにしたように腕を組む。
まったく信じていない。
本来は捨て置くべきなのだが、ここで彼女の対抗心に、火がついてしまった。
グッと腕を振り上げ、上腕筋を盛り上げる。
「ならば我が力、とくとご覧に入れようではないか。 ドワーフごときには負けぬぞ!」
「ほう面白れェ、負けたら夜メシを奢るんだぞ?」
守銭奴で知られるドワーフが自ら、こんな事を言うのはかなり珍しい。
それだけ、侮られている証拠だろう。
いつもなら魔王も賭け事などしないのだが、今度ばかりは種族の名誉に掛けて、魔王として勝負を投げることは出来ない。
夜ご飯だと、とくとウインナーソーセージを味わわせて貰おうではないか!
◇◇◇
そして夜。
魔王たちはテバスの一角にある料理屋を訪れた。
「フハハハハ、かように美味なウインナーは久しぶりだ!」
「ラッセルさんに奢らせるとは、恐れ入ったよ」
横に居る先輩警備員は、呆れた様子でウインナーの山を見ていた。
昼間、体力に関する事で衝突したドワーフの男―ラッセルと言うらしい―と賭け事をして、彼女は見事、勝利を手に掴んだ。
これから地中に埋めると言う杭を丸一本、力任せに埋めるなど、フツーは出来ない芸当だ。
「俺の完敗だ、あんな事をする奴は初めて見たぜ・・・・」
「そうだろうな」
ラッセルは魔王に対して、慣れない様子で頭を下げてきた。
魔王城にいる魔族でも、あれほどの事ができる者は少ない。
彼女自身、血がたぎらなければあんな事はしなかっただろう。
おかげでウインナーを食っているのは、確かにその通りなのだが。
食堂には今日の現場に居た作業員全員が来ており、棟梁の男性が手を鳴らして彼女を賞賛する。
「良い食いっぷりだ。 なぁ警備なんかじゃなく、俺たちの現場に来ないか? 悪いようにはしないぞ!
「まーた始まったよ、棟梁のナンパが」
「エティシアさん、話半分も聞かなくていいぜ。 酔ったらいつもコレなんだから」
周りの男達が声をそろえるが、棟梁は「うるせー」と蹴って、そのまま畳み掛けた。
「地味な裏方とよく言われるが、そもそも家は芸術だと俺は思っている。 最初のウチは給料が安いが、それだけやりがいが・・・・」
「せっかくの申し出だが、今は間に合っている」
にべもなく断られた棟梁は、ガックリと肩を落としモソモソと料理を食べた。
魔王は出稼ぎのため、あえて危険を冒して敵地である人間の街へ出稼ぎに来ている。
給料が安いのでは、本末転倒だ。
だが肩を落としている棟梁の横から、エルフが顔を覗かせてくる。
「石工になる夢でもなければ、難しいでしょうね。 しかし腕っぷしは惜しい、棟梁ではありませんが、出来るなら本当に、現場に来て欲しいですよ」
「そ、そうか・・・・・・・・?」
こんな事を言われたのは、出稼ぎを始めてから初めてかもしれない。
力仕事は頭を使わなくても済むし、わりと性分に合っているのだろう。
いや、だからと言って大工にはならないが。
「故郷への仕送りが大変でな、夢を見ているヒマはないんだ」
「へェ偉い、家族を大事にしてるんだな」
「それでこの街に? ご苦労なこったい」
テーブルを囲んでいた彼らは、だれ彼ともなく声をそろえて彼女を賞賛していた。
間違いではない。
あれも家族といえば家族、ちょっと大所帯ではあるが、仕送りが生命線なのはウソではないのだから。
エルフの男性はそれを聞いてなるほど、と理解を示すと、さらに畳み掛けてきた。
「では警備がてら、暇があればこちらの仕事を手伝ってはくれませんか? むろん別に報酬は出します」
「ホウ」
『報酬』という言葉に、魔王はキラリと目を輝かせた。
金なら幾らあっても困ることはない、これは良い話を聞かせてもらった。
もちろん、返事は決まっている。
「こちらこそ!」
まだ警備の正式採用も決まっていない内から、彼女の興奮は最高潮に達しつつあった。
1年に1回の街のイベント、警備員さん頑張って下さい。
そんなとき、魔王は思いもよらぬ事態に出くわすのだった・・・・
次回
第88話「魔王、新たな一歩を踏み出す?」をお楽しみに。
※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。
あらかじめご了承下さい。




