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第85話・魔王、新天地へ

これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。


日常とは、かくも身近で唐突なところから、崩れてゆくのか。

よかれと思って動いたことが、すべてが裏目に出てしまった―


ブライトで街中に指名手配された魔王は、さんざん領兵に追い回された挙句、転移魔法で魔王城へと戻った。

ほかの魔族たちは狂喜乱舞したが、魔王はとてもそんな心境ではない。

あれだけの大魔法を行使したのだ、自分が魔族であると公言したといっても過言ではないだろう。

不幸中の幸い、街から城はかなた向こうにあり、すぐに討伐隊が組織される事はないと思う。(そう願いたい)

しかし魔王は二度と、かの地の土は踏めなくなった。


魔族の窮状はご覧の有様で、誰もが栄養失調ぎみというヒドイ有様は続いている。

出稼ぎを止めるわけにはいかない。

と、言う訳で。


「テバス市役所・・・・・ここか」


魔王が次の出稼ぎ先に選んだのは、テバスという地方都市である。

昔はガルライド連邦という国に属していたが、長い年月のうちにバンドル共和国という小国になったらしい。

通行税(オリハルコン鋼)を払って門を抜けるまでは良かったが、見つけたコンニチワークで、彼女は思いもよらぬ事を知る事となった。


『身分証!??』


『就労されるなら、身分証名をしていただきませんと紹介が出来ません。 外国人の方なら役所で、就労許可を受けて下さい』


どうやらバンドル共和国では、『シューローキョカ』なる手続きを踏まないと、仕事に就けないシステムとなっているらしい。

ブライトにはこんな事、無かったのに!

・・・・などと言っても始まらない、郷に入っては郷に従えという格言を、東方のどこぞで聞いた覚えもある。

そんなワケで魔王は、役所へと足を運んだ。


「いらっしゃいませ、どのようなご用件ですか?」


入るなり黄色のブラウスを着た明るい女性が、高い机越しに声を掛けてきた。

まるでブレアンド商会の入り口のようだ。

さっそくこの女性に、この先どう動けばよいのかを聞いてみる。


「つかぬ事を聞くが、『シューローキョカ』なるものは、どこで受けられる?」


「市民証はお持ちですか?」


またまた新たなる言葉『シミンショー』

恐らくはこの土地で暮らしている事を証明するモノなのだろう、とうぜん城が本拠の魔王は、そんなものは持っていない。


「いや、ついさっき着いたばかりで、何も分からないのだが」


「あぁ、外国の方なのですね。 それなら2階に上がりまして、突き当りを左に曲がった3番目の窓口へおいで下さい」


こんな場所で受付の存在に感謝しつつ、魔王は言われたとおり、階段で2階へ向かう。

昇った先は長い廊下に、いくつものドアが整然と並んでいた。

どれも似ており、入り口に掛かる『税務課』などといったボードがなければ、見分けが付かなかっただろう。

言われたとおりの所へ行くと、そこにも同じようにボードが掛かっていたのだが。


「『未来の復活課』ここで良いの・・・・か?」


教えられた場所は、恐らくここで間違いはない・・・・ハズ。

深く考えるのはヤメてドアをくぐると、中はウソのように人で溢れかえっていた。

その盛況ぶりに人見知りの魔王は、このまま帰りたい衝動に駆られるが、そういうワケにも行かず。

窓口は全て塞がっているので、そのウチの一つへ並んだとたん、奥に居た女の1人が声を掛けてきた。


「本日は、どういったご用件ですか?」


「下で『シューローキョカ』なるものを受けたいと言ったら、ここへ来るように言われたのだが」


ここの職員だろう彼女は、なるほどと首を縦に振ると。


「承知しました。 では4番の窓口の札をお取りになって、掛けてお待ち下さい」


「あぁ、あっちなのか」


どうやら窓口が違っていたらしく、待つのにも手続きが必要らしい。

よく見てみれば、待っている人々も手元に札を持っており、ベンチに座って順番を待っているようだ。

魔王も机に置かれた札を取ると、空いたベンチに掛けて順番を待った。

今は25番の人が呼ばれているっぽいので、自分の番まで6人だ。


「ふう・・・・」


仕事に就くというのは、なんと大変なことだろう。

役所の天井を仰ぎ見ながら、魔王はそんな事を考えていた。

ブライトでもそうだったが、なかなか仕事の口は無い。

魔族が手ヒドく負けた当時なら、ハンターギルドでBランクは下らなかっただろうが、無いものはしょうがない。


「失礼します、あなたもアルバトレスからですか?」


「へ!? いいや、違うが?」


突然の事に驚いた魔王だったが、声を掛けてきたのは男である。

それも頭上には丸い、可愛らしい獣耳がピクピク動いていた。

―獣人か。

魔王の咄嗟の返答に彼は、あからさまに肩を落とした。


「そうですか・・・・、すみません。 人族とは違う雰囲気がしたもので」


「え゛」


人族と比べて感覚に鋭く、身体能力も高いことで知られる獣人。

感覚を惑わす魔法を使っている魔王から、感じる事があったのだろう。

見たところ、耳の形状などから犬人では無かろうか?

ここで魔族などとバレたら、収拾がつかなくなる。

背中をジットリと嫌な汗が流れつつ、魔王は話を逸らす事に。


「い、いや構わない。 それよりアルバトレスとやらで、何かあったのか?」


そのアルバトレスが何処に在るのか、魔王は詳しくは知らない。

亜人種族が多く居る西方諸国の、いずれかだろうか。

獣人は小さくため息をつき、魔王の近くに座りなおし、自己紹介ついでに事のあらましを説明した。


「私はギャムポッチと申します。 アルバトレス公国は西の果てにある小国なのですが、公爵殿下が逝去せいきょされて以降は戦乱が絶えず、私のように国を逃れる者は少なくないのです」


ギャムポッチという獣人につられて、魔王も周囲を見渡した。

よく見れば、順番を待っているのはほぼ全員と言っていいほど、その内訳は獣人族で占められている。

ここはブライトより西方に近い国であるし、難民が流れ着くのだろう。

魔族との戦いは終わったが、未だに種族間の小競り合いは絶えないらしい。


「そうか、余計なことを聞いてしまったようだな」


「いえいえ、命が助かっただけでも運がいいですよ。 それにバンドルは我々のような難民に、厚待遇をしてくれますから」


魔王がテバスに来たのは、どうやら正解だったらしい。

もっと話の続きを聞きたいところではあったが、ここでギャムポッチは順番を呼ばれ、窓口へと行ってしまった。

それにしても、羨ましいかぎりだと魔王は思わずにはおれない。

住む場所を追われたのは同情するが、それでも受け入れてくれる場所があるのは恵まれている。

ひとつ、想像してみよう。


>魔族が難民になりました、どうしますか?

A.速やかに討伐せよ

魔族など害獣だ


・・・・・うん、悲観的な結末しか思い浮かばない。

まず同じ土俵に立つ事が、何においても重要だと魔王は悟った。

簡単なことではないが、それが出来れば『出稼ぎ』の必要も無くなるだろう。


「受付番号31番をお持ちの方、4番の窓口へお越し下さい」


「お、私か」


やっと順番が呼ばれ、魔王はカジュアルな装いの若い男の待つ受付へ。

軽く会釈を交わして番号札を受け取った男性は、魔王を席へと促す。


「お待たせ致しました、本日はどういったご用件ですか?」


「うむ、仕事をしたいと言ったらここへ来るように言われたのだが」


手慣れているのだろう、なるほどと首を縦に振ると、彼は机の下からファイリングされた諸々の書類を取り出して並べた。

どうやらこれら全て、この街で働くに当たって必要なもののようだが。


「ご就労が目的との事ですが、ビザか身分証名ができるモノはお持ちですか?」


むろんだが、そんなモノを持っているはずが無い。

魔王は緊張が最高潮にまで高まりつつあったが、幸い珍しいことでもないのか、それ以上を聞かれる事は無く。

男性は書類の一枚になにやら書き込むと、それを反転させて魔王の前に提示した。


「では、こちらにお名前と出身地を記入して下さい、それまでに私は準備するものがありますので」


そう言って、職員は別の窓口へ行き、顔ぐらいの大きさがある水晶球を持って戻ってきた。

ブライトで見たものと、同じものだ。

身元などが分からない人間の、過去の犯罪歴などを魔力の『色』として見るアレだ。

魔族である事など、何かと秘密の多い魔王は前回同様に、少々の細工を加えてこれに手を触れる。

一拍おいて、水晶球は一瞬だけまばゆく光った後、元の透明に戻った。

ちなみに、なにもせずに触れれば黒くなる。

確認した職員は、慣れた手つきで数枚の紙にサインをして、封筒に入った市民だよりなどと一緒に、赤いポストカードが渡された。


「確認しました、ようこそテバスへ。 こちらは臨時市民証になります、就労や各種契約時にご提示ください。 詳しい事は市民だよりに書いてありますので、のちほど確認を」


「ありがとう」


こうして魔王は、テバス(臨時)市民としての資格を得た。

さあ、今度こそは就職活動だ!

あとがき

時代が変われば、求められるものは変わる。

少なくとも老害とは言われたくない魔王は、どうにか適応する努力を見せるが。

次回

第86話「魔王、仕事を斡旋される」をお楽しみに。


※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。

あらかじめご了承下さい。


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