第82話・魔王の、最後の晩餐(的な?)
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「5番テーブル、店主おまかせコース追加!」
「イッカクジカ定食上がったぞ、誰か持ってけ!」
「誰か、注文聞きに行ってくれない!?」
夜更けの『はぐれ者亭』は、昼の閑古鳥が鳴いていた店の様相とはうって変わり、喧騒に包まれている。
魔王を始めとした従業員達は店主も含めてみな、せわしなく働いている。
特に店の看板メニューの『ビール』は、どれだけ一晩でどれだけの注文が来ることか。
「飲み物の注文たまってるぞ、早くしろ!!」
「はい、ただいま! こら、お前も手を動かさぬか。」
「くぅ・・・・・」
店主の怒声に触発されるように、魔王は横に居る青年に発破を掛けた。
エプロンこそ着ているものの中は私服で、視線は鋭く魔王を捉えている。
青年の名はルザム。
昼ごろに2人の取り巻きを連れて来店したのだが、会計もせずに白昼堂々と店を出ようとしたので見返りに、魔王の監視の下、この店で働かされているのだ。
ちなみにノシた2人は、店の奥で寝かしてある。
「飲食の銅貨12枚分、きっちり働かすからな。 店主の許可は得ている」
「貴様、私をこんな目にあわせて、タダで済むと思っているのか? この落とし前は付けさせて貰うからな!」
とっ捕まえて以来、ずっとこの調子である。
こんな目にあわせてとか、今すぐ謝れば許してやるとか、この青年は自分を王様か何かと勘違いしているのではあるまいか?
同情すら覚えてしまう。
いずれにせよ、人の上に立つ者として『汗水たらして働く』という尊さを、今のうちに教えておくべきだろう。
「憎いなら何人でも連れて来るが良い、いつでも私は相手になってやろう」
「こ、後悔するぞ。 今なら泣いてすがって謝れば、許してやらんでも無いんだぞ!」
まだ言うか、話半分で魔王は適当に受け流す。
彼女にとってすれば人間のチンピラ無勢、相手が何人来ようが問題にはならない。
だがそれ以前に、今は仕事中だ。
「口ではなく手を動かせ。 どれだけ注いでも追いつかんのだぞ!」
「・・・・」
彼女に触発され、食い逃げ男(仮)は無言でドリンクミキサーを動かし始める。
そうそう、素直にやれば早く帰れるのだ。
そのとき近くに居たほかの従業員が、声を掛けてきた。
「ねェシアちゃん、時間は大丈夫なの?」
「おっと、危ない」
『はぐれ者亭』の稼ぎではだけでは少なく、魔王は他に銀行警備の仕事も掛け持ちしている。
人の少ない時間だけの非常勤扱いだが、月に何度か、店の仕事とぶつかる時があるのだ。
予め店主には伝えてあり、こういうときには早退させて貰う事になっている。
「店主殿、悪いが先に抜けさせてもらうぞ!」
「あぁ、お疲れさん」
「ま、待て貴様、逃げる気か!?」
着替えに戻ろうとする魔王の背中に、青年の大きな声が耳につく。
しかし逃げるとは、人聞きの悪い。
「後の事は店主に任せてある。 せいぜい働いて、世のありがたみを知る事だ!」
「忘れないぞ、お前の事は覚えておくからな!!」
まさか一生こき使われることも無いだろう。
魔王は着替えのため店の2階へと戻ると、急いで剣士風の装備に身を包んだ。
ただし、ここで魔法は使わない!
着替えや移動ごときに魔法を使うと、仕事途中で眠くなる事がある。
ちょっと時間は掛かっても、手を使うのが一番。
夜まで『はぐれ者亭』のウェイトレスとして、深夜帯からは銀行の警備員として。
「では各々方、先に失礼する」
「「お疲れ様でしたー」」
店から銀行までは、大通りの十字路を越えた街の反対側にある。
と言ってもそう大きな街でも無いので、大柄のサイクロプスならひとまたぎで着く距離だ。
銀行に辿り着くと、前シフトの警備員が辺りを警戒している姿が映った。
「異常は無いか?」
「やれやれ助かった、交代かね?」
こちらに気が付くと、彼も手を上げて挨拶してくる。
銀行警備は店員とは逆に、神経を張り詰める仕事だ。
四六時中バレぬかと神経をすり減らす魔王はともかく、並の人間なら気疲れしてしまう。
何を言いたいかというと、休みは大事だということ。
「ああ、もう帰って良いぞ」
「じゃあ、これがカギと警棒。 後は頼んだよ」
流れ作業のように仕事の引継ぎを行うと、男の方はさっさと家路に着いて帰っていった。
魔王は周りに人間が居ないのを確認すると、全身から黒いオーラのような魔力を溢れ出し、辺りいっぱいに広げていく。
一見するとおどろおどろしいが、魔王がしているのは銀行の周辺の近づく者を監視するための『気配察知』の魔法の一種だ。
これでアリどころか、スライム一匹たりとも魔王に気取られずの浸入は不可能。
前の強盗事件以来、必要以上に神経質になった魔王は、いつもコレで番をするようにしている。
「今度来たら、まとめて消し飛ばしてくれる!」
「何を消し飛ばすって?」
思ってもみない返答に、すぐに臨戦体勢をとる魔王だったが。
暗闇から現れた人影を見て、すぐに警戒を解いた。
「なんだ・・・、お前か」
出てきたオルザは珍しく、ポロシャツにチノパンというカジュアルな出で立ち。
右の肩にはリュックを掛けるように持っていた。
どうやら彼は魔王とは反対に、仕事が終わったところらしい。
「はかどってるかい?」
ちょっとした挨拶なのだろう。
しかし魔王は『バカじゃないのか』といった風で流し目した。
「銀行警備が、はかどったら困らないか?」
「ははっ、違いない」
皮肉を言ったつもりだったが、オルザは何が可笑しいのか笑う。
これは後で聞いた話だが、どうやら魔王の魔法結界の存在に気付いて、それで笑ったらしい。
現在進行形で使っているのは、王宮の内偵などで使うような人払いの結界。
銀行警備に使うには、少々オーバーキルかもしれない。
「冗談を言うなら分かりやすくしてくれ、そういうのはニガテなんだ」
「いや、十分だと思うよ」
魔王がブライトに来た当時、魔王の辞書に『冗談』などという言葉は無かった。
そのときに比べれば、大した成長ではなかろうか。
まぁ彼女とすれば、対人スキルより時給が上がってくれた方が良いであろうが。
「私よりお前達はどうなんだ、まだ相変わらずなのか?」
「それって・・・・あぁ、この間会ったね」
アクセサリー店でオルザたちが居るのを見かけてから、まだ日は浅く、時もソレほど経っていない。
今まで何の進展も無かったのだから、まだ時間が掛かるだろう。
せめて見届けてやりたいものだと魔王は思っていたが。
フフンと鼻を鳴らし得意げな様子を見せる彼に、魔王は不穏な空気を感じ取った。
「な、なんだ?」
「聞いてくれ、僕たち婚約したんだ!」
「うそだろ!??」
想像の斜め上を行く回答に、魔王の思考は一時的にフリーズした。
あれほどジレったく思っていたのに、いつの間に話が進んだのか。
恐る恐るといた体で、疑問を投げかける。
「こ、婚約したというのは本当なのか・・・・・?」
「近いウチに式を挙げる事になっているんだ」
身内だけの些細なものだけどと卑下するが、式に大きいも小さいも無い。
魔王としても、嬉しい以外の感情は無かった。
「よいではないか、大事なのは中身だ!」
「そこでなんだが・・、セリアとも話したんだが、式を挙げたときは君にも出席してもらいたいんだ。」
「私が?」
恥ずかしいのか赤面して、頬をかくオルザ。
婚約したと言うだけでも驚いたのに、もう式の話とは。
魔王は右の人差し指を立てて、答えた。
「ああ、行くとも。 予定をずらしても出席するさ。」
後にこの日の夜は、魔王の忘れられない想い出となる。
彼女にとって久しぶりの、充実した時間を過ごしていたのだから―
魔族と人間は、種族が違う。
特徴なども異なる。
お互いに尊重し合い、生きることはできぬのだろうか・・・。
次回
第83話「魔王、追われる」をお楽しみに。
※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。
あらかじめご了承下さい。




