第67話・魔王様、おてがら
冬の童話祭2018に、参加します。
よろしければ、どうぞ。
夜も更けたブライトは、暗闇に支配されつつあった。
街ゆく人影はなく、月夜だけが世界を照らす。
「・・・とうとう夜になってしまった。」
警備服に身を包んだ魔王は、疲れた様子で銀行の前を守る。
あれから街を何周も駆けずり回ったものの、残念ながらエグラーは見つけ出す事はかなわなかった。
それどころかエグラーが行方不明ということが、サキュバスを始めとした輩に露見してしまう始末。
「もしや居ないのだろうか・・・。」
もう一つの可能性が浮かぶ。
そもそもエグラーが、この街に居ない可能性があるのでは、あるまいか。
『魔王様を追って城を出た』と聞いて、てっきりブライトに向かったと思ったが、人間の街とはそこかしこに無数に点在している。
魔王を探しにと何のアテもなしに飛び出したエグラーが、まったく別の街に辿り着いたという可能性は十分に考えられた。
「だとすれば、打つ手は無いか。」
人間に偽装した魔族一人を見つけ出すなど、広大な砂漠からゴマを探すようなもの。
土台ムチャな話である。
まァやつも四天王、簡単にヤラれるようなタマではあるまい。
そんな風にため息をついていると、何者かが来る気配があった。
「誰だ!」
近づく人影は、月夜の中にはっきりと映った。
魔王様は持っていた槍先を相手に向け、臨戦体勢をとるが・・・
「わわわ待って、僕だよ。」
「ん、なんだ貴様だったか・・・。」
闇夜から現れたのは、先ほど警備を交代した男であった。
警戒を解き、槍を下ろす魔王。
珍しい事もあるものだ。
「こんな時間に、忘れ物か?」
「えぇ、そうなんです。 あなた一人ですよね?」
どういう意味かと問いただそうと魔王がしたところで、彼女の体に異変が生じた。
急に強烈な眠気に襲われ、立っている事すら困難になる。
「どうして・・・?」
「ゆっくり眠って下さい。 ね?」
男は見たことも無いような邪悪な笑みを浮かべ、崩れ落ちる魔王を見下ろしていた。
忘れ物を取りに来ただけなのに、なぜ眠らす必要があるのかと聞こうとするも、眠気のせいか声がうまく出せない。
何も分からないまま、なす術なく意識を手放すのだった・・・・
◇◇◇
「ぐうぅ・・睡眠魔法の不意打ちとは、卑怯な。」
眠らされてから一時も経たずして。
魔王様は頭を押さえながら立ち上がった。
体に異常は無く、ペンでイタズラ書きなどをされた形跡は無い。
先ほどは不覚を取られて術に掛かってしまったが、そこは落ちぶれても魔族の王。
不意打ちでかけるレベルなら、数分程度で魔力中和されて、術は解除する事が出来た。
まだ少し眠気が残るのは、それだけ強い魔術法かけられた証拠である。
さて、問題なのはなぜ眠らされたか、と言うことである。
「あやつ、どういうつもりだ?」
思い出される、いつもとは全く違った邪悪な笑みが脳裏から離れない。
あれはそう、まるで罠に嵌めた事を嬉しがるようなイタズラに満ちた・・・
いたずら?
まさかアイツはボギーなのか!?
ボギーは好奇心が旺盛なモンスターで知られ、夜ごとに建物に侵入しては机を倒したり、書類を隠したりしてしまう厄介者だ。
城でもタマに出没しては、食料庫の中身を外に出すという意味不明なことをされて、困らされていた。
もし銀行でそんな事をされれば、彼女の責任になる事は間違いなし。
なんて迷惑な奴だろう!
ここからの魔王の行動は矢のように素早かった。
まるで脱兎の如く勢いで建物の中に入ると、周囲に探索魔法を展開する。
だが、既に生物らしい気配は無かった。
おそらく、もう逃げてしまったのだろう。
「おのれぇ~~、この私をコケにするとは!」
魔王は出し抜かれたことに憤慨し、怒りの炎を全身から立ち昇らせた。
不意打ちとはいえ魔法で眠らされたとあっては、沽券にも関わる。
なにより勤務時間中の異常は、自分の責任になるので、まるで背筋が凍るようだった。
ともかく一大事と、探索魔法などを展開して銀行中を巡回する。
何をされたのか、まずはそれが気になる。
すると銀行の奥にある一室んい差し掛かったところで、魔王の目には信じられない光景が飛び込んで来た。
「こ、これは・・・・!」
そこにあったはずの巨大金庫が、空っぽになった状態で置かれていたのである。
何度見ても何も無い、中身は何処へ行ったのか!?
彼女の頭の中は、疑問符で埋め尽くされていった。
考えられた原因は2つ。
1つ目は金庫の中身がミミックで、逃亡した可能性。
もう1つは、先ほどの魔物(?)が中身を落ち去った可能性。
・・・うん、考えるまでも無いな。
「イタズラにも程がある!」
ボギーはイタズラ好きで、何でも隠してしまう習性がある。
なんだか大事そうに仕舞われていた金庫が気になり、ターゲットにしたのだろうと、魔王は見当付けた。
きっと他の警備員であったなら、即に街の警備兵へ通報していた事だろう。
匂いや気配などは確実に消され、彼らがどちらへ向かったかは、到底分かりえなかった。
だが魔王には、まだ追う手段が残されていた。
魔法を使えば、どんな形であれ空気中に『ひずみ』が生じる。
わずかではあるが、そこから相手の魔質を特定して辿っていけば、まだ見つけることは可能だ。
「フム・・・、これじゃな。」
ほんの数刻前の話なので、ソレはすぐに特定できた。
先ほど睡眠の魔法を掛けられたおかげで、相手の魔質の特定が容易になったのだ。
ケガの功名というヤツ。
行った方向さえ分かれば、こっちのものである!
「首を洗って待っていろ、すぐに行く!」
大げさにポーズをとった魔王は、警棒を片手に駆け出す。
魔王として、また1人の警備員として、逃げた奴には相応の罰を与えねばならない。
「・・・と、その前に。」
自分が居なくなっては大変と、魔王は自分の残像を銀行前に残す。
たかが残像と言っても、動きなども少しは模写できる代物だ。
これで誰か来ても、大丈夫。
魔王様、妙なところで律儀だった。
さあ行け魔王、銀行強盗なんか倒してしまえ!
闇夜に潜む、とある集団。
目的どうあれ、魔王に許す気はさらさら無い。
次回
第68話「魔王様、一網打尽にする」をお楽しみに。
※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。
あらかじめご了承下さい。




