第66話・魔王様たち、ちょっと迷走する
これからも、楽しんで書いて行こうと考えています。
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「エグラーが居ないとな?」
久しぶりに城へ帰還した魔王は、驚きの表情を隠しきれなかった。
今は魔族の領を離れ、人間の街へ出稼ぎに行っている魔王。
彼女一人の稼ぎなど微々たる物だが、それでも魔族全体にとって、それは大きな前進。
魔王が自ら出稼ぎにいけたのも、エグラーと言う忠臣に留守を預からせて居たことが大きいわけなのだが・・・
「エグラーが居ないと言うのは、どう言う事だ。 狩りに出かけたということではあるまい?」
「はい、魔王様を探しに行くと出て行ったきり、まったく音信不通でございまして・・・」
困惑げな魔族たちの姿を見て、魔王は頭痛がするようだった。
この数ヶ月、余裕が無くて気を配りきれて居なかったのが悪かったか。
しっかり留守を頼んだのに、どうしてこう、ベルナンデスも含めて行動に出てしまうのだろう。
・・・まあ、それを言ったら魔王自身も他人のことは言えないのだが。
「それでその・・・魔王様、どうか城へお戻り頂けないでしょうか?」
「・・・問題が起きたのか?」
恐縮しながらも、そんな事を言ってきた。
魔王が留守にしている間、実にさまざまな事があったらしい。
ゴブリンが魔王様はどこだと暴れたり、竜人族が限界だと怒鳴り込んできたり、ワーウルフが絶縁状を持ってきたり・・・
重鎮が不在の今、城は無防備にも等しい。
この状況が外部に知れたら、それこそ血の流れるような事態も想像に難くない。
・・・いや、もう手遅れかも分からんがね。
「事情は分かったが、それは出来ない。」
首を横に振り、期待には添えない事を告げる。
スズメの涙ほどとはいえ、彼女の稼ぎが魔族たちの体力回復には一役かっているのも事実。
もし止めてしまえば、また以前の極貧生活に戻ってしまうだろう。
肩を落とす同胞に、魔王は諭すように話しかける。
「苦労を掛けるが400年、なんとか皆でやって来たではないか! 期待しておるぞ。」
「魔王様!」
なまじ魔族は血色が濃いだけあって、心を焚きつける事は容易だ。
同胞たちに苦労を強いるのは心苦しいが、ここで帰るわけにはいかない!
あと勝手に城を抜けたエグラーは、後で殴る。
魔王はかたく決意を胸に、出稼ぎ先のブライトへと戻った。
「ふぅ、誰も居ないな?」
この世界で転移を使える者は少ない。
もし現場を誰かに見られでもしたら、魔王と身バレする危険性すらあった。
そのため転移先は、街壁傍の森にと決めていた。
ここは街道から外れているため、人も滅多には来ず、転移の光なども木陰に隠れるため、まさに絶好の場所なのだ。
森の外に人が居ない事を確かめると、茂みから飛び出して城門へと向かう魔王。
今は昼間なので人の往来は少なく、入り口には警備の兵士以外の人影は無かった。
「はかどっているか?」
「やァ、早い帰りだったね。」
魔の森に面するこの門は、通る者は少ない。
彼女はそんな中で、貴重な『常連さん』であった。
どうせ見ている人は居ないと、軽い会釈をしただけで難なく通過すると、魔王の瞳には活気に満ちた街の様子が飛び込んでくる。
「平和だな、ここは。」
行き交う馬車、大きな声で客寄せをする店の主人、そして買い物に忙しい市民たち。
かつての活気に満ちた魔王城に思いをはせ、魔王はその光景を眺める。
さて、話を元に戻そう。
今日は昼の仕事が休みで、夜の銀行警備の仕事まではフリーなので時間はたっぷりある。
城に残した者たちの話によると、エグラーは一月ほど前に出かけていったと言う。
自分を追ってきたことを考えれば、既にブライトに到着している可能性は高い!
の、だが。
「・・・ベルナンデスたち以外、やはり気配は辿れぬか。」
なんとしても留守を守らせるため、エグラーには城に残っていて欲しいところ。
だが肝心の彼の気配は、影も形も無かった。
だからと言って、居ないとは限らないのが魔族が魔族たる所以である。
魔力が高ければ、認識阻害などは朝飯前。
敵地である人間の街では、一部のバカを除けば、そうするのが常識である。
さすがは魔王が背中を任せていた腹心だけはある、などとジョーダンを言っている場合ではない。
「世話の焼けるやつめ!」
まかり間違って騒ぎが起こる前に、なんとしても探し出さねばならない。
まずは情報収集が先決だ。
といってもブライトは広いので、ガムシャラに探しても時間を浪費するだけ。
勤務先の同僚などに聞き込みを行う事に決め、魔王は街の中を駆け抜ける。
◇◇◇
「エグラーさん、着きましたよ。」
「ふむ、大きな街だな。」
前の街を出立して、半月が過ぎた頃。
やっとエグラーたちを乗せた幌馬車は、次の目的地である街へと到着を果たした。
天高くそびえる壁の向こうには、もしかしたら魔王様が・・・居るかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、エグラーはそびえる城門を仰ぎ見た。
「荷物の税関所を抜けるまで、辛抱して下さい。」
「ああ、分かっている。」
まだまだ、入るまでには順番を待たなくてはならない。
街に入ろうとする馬車の長蛇の列は果てしなく続き、エグラーたちは丁度、真ん中辺りに位置していた。
ここで焦っても意味は無い、ジッと待つ他は無いのだ。
「ここは元は王都だった場所で、今は交通の要所になっているんです。 だから往来が多いんですよ。」
「むぅ・・・。」
人が多い=魔族に危険。
こうしている間にも魔王様の身に何かあるのではないか、などとイヤな予感ばかりが脳裏を過った。
何となくソレを感じ取ったのか、同乗のセルステラは彼へ話しかけ続けた。
「もしマオー様に会ったら、エグラーさんは帰るんですよね?」
「ん、あぁそう・・だな。 あの方が簡単に首を縦に振るとは思えぬが、そのつもりだ。」
だてに400年も付き合いをやってはいない。
コレと決めたらやり抜くまで続けるのが、今期魔王の長所であり、短所でもある。
諦めが悪いから、魔族もここまで生きてこれたのだ。
だが腹心として、エグラーは魔王が人間の街にいることは断じて容認できない。
たとえ不敬罪になろうとも、引きずってでも連れ帰る心づもりだ。
「セルステラ殿の力添えには感謝している、この恩は我が一族、生涯にわたって語り継がれるだろう。」
「なんか、大げさですね。」
エグラーの言ったことを冗談と受け取ったセルステラは、苦笑混じりに微笑み返した。
まさか目の前の男が四天王の一人などとは、1ミリたりとも思わない。
楽しかった旅の終わりを憂いつつ、彼女はエグラーの一途なマオー様とやらを慕う彼に、尊敬の眼差しを送った。
「見つかると良いですね、マオー様。」
「ああ、まったくだ。」
『おいでませ、バンドル共和国テバスへ!!』
遠くに見える門に掲げられた大きな看板が、到着する馬車群を出迎えた。
彼らの放浪記は、まだ始まったばかりである・・。
闇に潜む脅威。
それは近いところから忍び寄る。
次回
第67話「魔王様、おてがら」をお楽しみに。
※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。
あらかじめご了承下さい。




