第63話・魔王様は忙しい その2
これからも、楽しんで書いていこうと考えています。
感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。
『はぐれ者亭』での仕事を終えた魔王は、大急ぎで次なる仕事の場へと向かっていた。
道中にトラブルがあって、到着は約束の時間ギリギリ。
目的地である銀行の前には、すでに彼女の到着を待つ男性の姿があった。
「すまない、遅れてしまって!」
「まだ約束の時間には早いよ。」
彼は首を横へと振り、気にするなと彼女へジェスチャーした。
既に銀行は閉まって明かりは落とされており、入り口付近の豆魔力灯が薄暗く辺りを照らすだけだ。
男性の方も魔王とほぼ同じ服装で、どうやら彼は夕方から警備を任されている口らしい。
「夜分ご苦労じゃ、何か変わったことは無かったか?」
「いいや、この月夜じゃ盗賊も出ないだろうし、魔物も出ないだろうからね。」
はっはっはと笑みを洩らす彼だが、対する彼女は笑えなかった。
何をかくそう、自分がその『魔物』なのだから無理も無い。
盗賊と同じ括りのようだが、もしそうと知れたら、どうなるのか。
「・・・なァ、魔物と会った事があるのか?」
今までどうしても恐くて聞けなかったが、これは良い機会。
それとなく聞ける、今回は絶好のチャンスだ。
街に潜む魔物が多くなった現況を鑑みれば、聞く機会を逃す手は無い。
「俺? 俺は無いけど、別の奴がゴブリンに襲われたとか聞いたことあるな・・・。」
「そ、ソイツはどうなった!?」
イヤな予感しかしなかった。
だが、聞かないワケにもゆかない。
「警備の人なら・・」
「魔物のほう!」
妙に食いついてくる彼女に驚いた様子を見せた男性だったが、まさか目の前の女性が魔物だとは思わず、腕を組んでから返答を返す。
「魔物は発見したら通報さ、後は警備兵の仕事だし。 きっと殺処分じゃ?」
「さっ・・・!」
容赦ない男の言葉に、魔王は目まいがした。
彼女だって一介の魔王、別に保護されるとか野生に帰されるとかは、ハナから期待しちゃ居ない。
でも面と向かって『殺処分』と聞かされると、気分は良いものではなかった。
「心配ないって、さっきも言ったとおり、魔物なんて滅多に出るもんじゃないから!」
「そ、そうか。 心配ないな。」
・・・そう、今なら心配ない。
もし魔物が現れれば、その時は追い帰せば良いのだ。
少なくとも自分が居る間は、決して人・・いや魔の者の道に外れたことはさせないと、魔王は固く決意した。
ほどなくして、仕事の引継ぎが始まる。
「さっきも言ったとおり、今のところ変わった事は無いな。 業務は2時間ごとに建物を見回ること。」
「了解じゃ!」
銀行の各部屋の鍵と手持ち魔力灯を渡されれば、引継ぎは完了だ。
主だった業務は不審者が銀行に近づくのを阻止することで、魔王には簡単な仕事である。
気を付ける事と言えば、うっかり立ったまま寝ないようにする事ぐらい。
程なくして彼が帰ると、辺りはシンと静まり返る。
「来るなら来るが良い、我が前に姿を現した途端に捻り潰してくれるわ!」
警棒を振りかざし、高らかと闇夜をつく。
魔王が守っている以上、ここはゴールデンドラゴンでも通れまい。
人が居ないことを良いことに血をたぎらせ、戦闘意欲を前面に押し出す魔王だったが。
だが今は真夜中、魔王の性格を知っている者なら、何も変化の無い夜の警備が、どういうものかは想像に難くないだろう。
「・・・なんか来ぬものか。」
不謹慎ながら、暇すぎた。
警備という仕事は、『何も起きない』事を前提に防犯を目的として置かれる。
街中で盗賊なんて滅多に出るものではない。
そりゃーね、そんな事をしなくても輸送中の荷馬車を街道で襲えば良いのだし。
街に魔族が居たとしても、銀行なんかは襲わんよね。
アホな期待をした自分を、魔王は1人で恥じた。
「・・・見回るか。」
この仕事の規約として、一定時間ごとに施設内を見回るというのがある。
異常が無いかを見回るという目的もあるが、これは対外的に『見回りをしている』と知らせて襲撃等を未然に予防するという防犯目的もあった。
魔力灯を片手に、魔王は1部屋1部屋を入念にチェックしていく。
変わったことが無ければ、記録用紙に丸を記入して次の部屋を回るのがデフォルトだが、見て周るほかに魔王は、探索魔法も展開していた。
二重チェックをすれば、それだけリスクは減らせるし、魔王としてのプライドもそこに介在していた。
しかし以上の入念な探索にも関わらず、結果は惨敗・・いや異常なし。
どの部屋も特に変わったところは見受けられず、それどころか妖精すら居ないという有様。
肩を落とし、トボトボと魔王は来た道を戻ると再び、銀行の夜の番人となる。
「ふあァ・・・」
朝から『はぐれ者亭』で仕事帰りのはぐれ者をちぎっては投げ、ちぎっては投げ・・
思い返せば魔王は、朝から働き通しである。
外は真っ暗闇で、明かりと言えば薄暗い豆電球と、あとは夜空に輝く満天の星空のみ。
体が疲れを訴えるのは、然るべきであろう。
しかし寝るわけにもゆかず。
魔王はしばらくの間、警棒を片手に『眠気』と戦うこととなった。
◇◇◇
数時間後。
東の空が白み始め、ゆっくりとブライトの街全体が照らされ始める。
彼女にとって長すぎる夜は、ようやっと明けようとしていたが・・
「寒っっ!??」
思いがけない夜明けの冷え込みに、魔王は体を震わせる。
俗に言う『放射冷却』というヤツだ。
今日は天気が良いので、朝になって一気に辺りの温度が冷え込むのである。
防寒着なんて無いし、こんな事で魔法を使っては余計に消耗して眠くなってしまう。
前に公園で寝ていたときは、辺りを動き回って対処したものだが・・・・
仕事終了まで、まだまだ時間はある。
終了まで耐えるしか無いかに思われた・・が。
「おぉ魔王様、やはりここに居られましたか!」
「は?」
声を掛けられた方向へ視線を向けると、そこには四天王ベルナンデスが居た。
どうやら先ほどまで『夢見亭』の掃除をしていたらしい。
淫魔が相手だけに不安だったが、アイツもそこまで、阿呆ではないようだ。
「そうか、上手くやっているようで何より。 それで、こんな朝早くから何してる?」
「そうでした、魔王様にこれをと思いまして。」
そう言ってベルアンデスが差し出したのは、一杯のお茶であった。
緑色の液体はカップの中でモクモクと湯気を上げ、実に暖かそうである。
さァさァどうぞ、とベルナンデスはそれを魔王へと薦めた。
「朝になって急に冷え込んできましたのでな、お外に出ておられる魔王様はさぞ難儀されているだろうと思い至った次第にございます。」
「そうか。」
良い部下を持ったものだとシミジミしながら、渡されたお茶をすする彼女。
それは寒さで冷えた体を、内からポカポカと温めた。
そんな幸せに浸る魔王に気を良くしたようで、尚もベルナンデスは畳み掛けた。
「魔王様のお言葉を伝えればさぞ、リリス殿も喜ぶでしょう。 あの魔物の淹れる茶は美味い!」
「ぶっ!」
思い掛けない人物の名を出され、魔王は盛大にむせた。
てっきり淹れたのは、ベルナンデスかと思っていた。
「だ、大丈夫なのかコレは!?」
「ヘンな味でもしましたか?」
ヘンな味はしないが、ヘンなモノが入っていないかが魔王には気がかりだった。
ちなみに茶は既に、飲み干してしまっており、吐き出すことは適わない。
残り少なくなった茶に、魔王は最大級の探索魔法を掛けて、成分などを調べる。
精力剤とかマンドラゴラとか、発情薬とかが入っていないか・・・
もしもの時は、回復魔法と治癒魔法を掛けることも視野に入れねばなるまい。
「如何されました、魔王様?」
「いや、なんでもない。」
程なくして探索が終わると、魔王は残った茶も飲み干した。
なんて事は無い、中身は本当にフツーの茶だった。
疑って悪かったと内心、魔王は懺悔する。
「美味かったよ、ありがとう。」
「それは、良うございました。」
茶のおかげで体の内から温まり、先ほどまでの肌寒さはどこかへ消し飛んでしまっていた。
あとでリリスには、お礼を兼ねて謝罪しなければなるまい。
そんな事を考えていたら、向こうからリリスが走ってくるのが見えた。
「おぉリリス、ちょうど良かった。」
「魔王様、飲みましたか!?」
返事もそこそこに、彼女はベルナンデスの手の内を覗き込む。
しかしそこには願いに反し、空になったカップしか無かった。
あ~あと落胆するリリスを見て、否が応にも魔王の不安が呼び起こされる。
「まてリリス、貴様あのお茶に何をした!」
「ごご、ごめんなさい魔王様! 実は・・・」
聞いてみると、どうやらヘンなものを入れたという口ではないらしい。
むしろ逆。
リリスは服のポケットから、小さな袋を取り出すと、困った表情を浮かべてみせた。
「お入れしようと調合しましたマンドラゴラを使った薬を入れ忘れてしまいました。 これを飲むと体全体がポカポカ暖かくなるんです、今からでも飲みませんか!?」
「飲むかあああああーーーーーーーーー!!!」
「ぎゃふん!」
コイツはやっぱり、信用できない。
魔王は渾身のアッパー攻撃をリリスに見舞った。
少なくとも今後、コイツの茶は飲めないと魔王は固く決意するのだった・・・・
ウェイトレス仕事が、板についきた魔王。
その折、彼女はトンでもない事態に出くわすのだった・・。
次回
第64話「魔王様は忙しい その3」をお楽しみに。
※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。
あらかじめご了承下さい。




