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第62話・魔王様は忙しい その1

これからも、楽しんで書いていこうと考えています。

感想や気になる点などがありましたら、感想欄にて遠慮なくお寄せ下さい。


「お疲れさん、あさっては寝坊するなよ?」


「安心めされよ店主、私は疲れを知らぬ女だ!」


苦笑を洩らす店主を尻目に、決め台詞(ぜりふ)をはいて2階へと上がる魔王エティシア。

彼女は仕事以外の時間は基本的に、『はぐれ者亭』の2階で寝泊りをしている。

転移はかなりの力を消費するので、魔王城へは月に一度、金を送る以外の用事では帰れない。

そんなワケで魔王は部屋に1人のはず、なのだが・・・・


「なぜ、ここに居る?」


「魔王様へ尽くすようにと、ベルナンデス様に仰せつかって来ました。」


狭い部屋に入ると、既にフレアと言う女魔族の姿があった。

紆余曲折あって四天王とくっついた彼女だったが、その生活は城以上に困窮(こんきゅう)しているようだ。

今日は夫の言いつけで、魔王の仕事の補佐をするように言い付かってきたのだと言う。


魔王に仕官を申し出る魔族といえば聞こえはいいが、今の状況を言えば貧乏ウェイトレスの部屋へ上がりこむ残念な子でしかない。

店の仕事を補佐するのが今の魔王なら、フレアは何をどう補佐するのか。

城でならともかく、人間社会で配下を傍に置けるような余裕は持ち合わせていない。


「いつまで部屋に居るつもりだ?」


悪態をつきながら今まで着ていた服を脱ぐと、魔王は洗浄魔法でそれを清潔にする。

次に部屋にあるボロダンスを開け、中から出した黒っぽい服へと着替え始めた。

デザインはフリルをふんだんにあしらったウィトレスの制服とは打って変わり、黒を基調とした戦闘服のような機能性を重視したものである。

本当は魔法で早替えも出来はするが、魔力が勿体無いのでお蔵入り中。


「私は忙しいんだ、さっさとリリスの店へ帰れ。」


「いいえ、エティシア様は単身でこれまで敵地で戦ってきたのです、その補佐を勤めるは魔族の一員として当然の事!」


「!」


フレアは急に立ち上がると、握り拳を作って魔王へと詰め寄った。

あまりのキャラの変貌(へんぼう)ぶりに魔王は目を剥くが、ソレを見計らったように彼女はすぐに顔を引っ込める。


「―と、ベルナンデス様が仰せになっていました。」


「・・・そう。」


なんやかんやで、案外にフレアとベルナンデスとは、ウマが合っていたのかもしれないと、再認識する。

出鼻をくじかれた感はあるが、だからと言って傍に置けない状況に変わりは無い。

一旦は彼女を無視し、魔王は外出の準備を始めた。


「これよりどちらへ?」


「仕事だ仕事。 時間は有効に使わねばならん。」


着替えが終わった魔王は、華やかだった先ほどの姿から大きく変貌を遂げ。

各所に防具を身に纏った、一昔前のハンターのような姿になった。

これで自慢の『炎獄』を持てば、(見た目は)立派な剣士である。

なんて冗談はさておき。

魔王は明かりの落とされた店を走り抜けると、そのまま大急ぎで街を駆けた。


「魔王様、どちらへ向かわれるのですか。 私もお供します!」


「えぇい付いて来るな、仕事だと言ったろうが!」


向かっているのは、街にある小さな銀行である。

その頭取に気に入られた魔王は、棒に振りかけた時間をここで働く事で、消費することに決めた。

『夜間警備員』として。

勤務時間などはウェイトレス業務があるため応相談だが、夜間の警備に務めると言うことで、話が纏まった。

元々に夜間は人手不足だったようで、これは一発OKだった。

しかもそこはおちても魔王、警備員として世界最強であること間違いなし。

まさに、鉄壁の警備員である。


「では『仕事』の補佐を努めさせて頂きますわ!」


「~~~~!!」


―が、そんな鉄壁の警備員にも弱点はある。

城で魔王しているときは座って指示を出すなど、簡単なものだった。

だが人間社会では、そういうワケには行かない。

フレアを連れて行くことは出来ないのだ。

魔王は小さく顔を横へ振ると、いつもはまっすぐに進むはずの道を右へと曲がった。

走る速度も上げ、街の景色がビュンビュン後ろへ飛んでいく。


「そっちですか?」


「・・。」


帰らない部下は、帰せばいい。

付いて来られるか、ギリギリ程度の速度で先導する。

魔王は速度を緩めると、一つの建物の前に立ち止まった。

その建物を見て、フレアは首を傾げる。


「魔王様、なぜここに?」


やって来たのは『夢見亭』と呼ばれる、ブライトの人気の店。

この店は魔王配下のサキュバス族がやっている、超特殊な店であり、同時にフレアたちを置き去り・・もとい教育するために置いて貰っている場所だ。

フレアの質問には答えず、魔王は大きく息を吸う。


「リリス居るのは分かっている。 私だ、姿を見せよ!」


夜間という事もあり魔王の声は、辺りに大きく響く。

しかし既に道に人影は無く、衆人の注目を浴びる心配は無かった。

程なくして店の中からは、扇情的な服装の魔物が姿を現す。


「これは魔王様、本日は月の光もない小気味よい・・ところでなぜ、そんなダサいお召し物を?」


リリスは魔王の全身を、吟味するように視線を動かした。

今の魔王様は全身を黒を基調とした、件の警備服を着用している。

機能性を重視しているので、彼女のボディラインなどは的確に隠されていた。

リリスはソレが、不満らしい。


「挨拶はいい、それよりベルナンデスの姿が見当たらんようだが?」


口を尖らせ、少しキゲンを損ねたような口ぶりで周囲を見渡す彼女。

探索の魔法を展開するが、この店近辺には彼の姿が映らなかった。

この質問にリリスは合点が言ったように、首を縦に振る。

行く先を知っているようだ。


「彼なら買出しに行かせておりますわ。 殿方は良いですわね、力持ちで頼りがいがあって、そのくせに手玉に取りやすくて・・・」


「おい。」


恍惚(こうこつ)の表情を浮かべた瞬間、魔王は殺すような視線をリリスへと浴びせる。

腐っても魔王、視線だけで人を殺せそうであった。


「や、やだ魔王様、冗談ジャナイデスカ・・・」


「お前は淫魔(サキュバス)だ、信用ならん。」


自慢の角や翼を出し、かなり久しぶりに魔族形態へ戻る魔王。

体中からほとばしる魔力は、近くに居るだけでも相手を圧倒する。

小物には、特に有効だ。

そんな・・と視線をさまよわせるリリスは、ずばり自業自得と言うほかない。


「大丈夫です魔王様、ベルナンデス様は私が見ておりますから・・・。」


「・・・まァ、いい。」


それならばと、矛を収める魔王。

思わぬところからの助け舟で、サキュバスのリリスは命拾いをした。

・・・話が脱線してしまった。

早く警備の仕事に行かないと、さすがに遅刻する。


「ではフレア、ベルナンデスを頼むぞ。 決してリリスには心を許してはならんぞ!」


「はい、魔王様!」


ぶーたれるリリスはさておき、フレアの話題を変えることに成功した魔王。

これで心おきなく、仕事に行ける。

魔王の警備員としての仕事は、既に始まっているのだ。

小さくガッツポーズをとり、別れの挨拶もそこそこに街中へと繰り出す彼女。


当座の目的は、金を稼ぐこと。

ただ、それだけだ。



眠れない夜。

魔王は夜空を見上げる。

次回

第63話「魔王様は忙しい その2」をお楽しみに。


※上記はあくまで予定ですので、急遽変更となる場合があります。

あらかじめご了承下さい。


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