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第35話・魔王様、初給与日

これからも、楽しんで書いていこうと思います。

感想等がありましたら、遠慮なくお寄せください。

一ヶ月間ご苦労様と、人事担当の者に渡される、薄い茶色い封筒。

それと一緒に渡された紙切れには、多くの文字や数字が羅列している。

特に関係なさそうなので、そちらはさっさと燃してしまう。

封筒を掴み、感慨にふける彼女。


「やっと、この時がきた・・・!」


短いようで長かった、この一ヶ月間。

その苦労の甲斐あって、無事に給料日という日を迎えることができた魔王様。

涙が出そうである。

今日は業務も既に終わっており、後は帰宅するだけだ。


「ライザックさん、初給料日だね。 どうだい、これから?」

「あの店で、また話しましょ?」


先輩の数人が、声を掛けて、酒を飲むような素振りを見せてくる。

だが魔王様の耳に、入っては来なかった。

ギュッと封筒を握り締め、小刻みに肩を震わせる彼女。


待ちに待った、初給与。

これで魔族たちが、どれほど救われることか!

『うおおおおお!!!』と奇声を上げながら、彼女は封筒を片手に、街の外れへと走る。

金は稼いだ。

後はこれを、魔王城へ持っていくだけだ。


仕事終わりで疲れており、今からの魔法行使はビミョーなところだが、そこは気合いで乗り切る。

魔王城では、お腹をすかせた同胞はらからが待っているのだから!!


「転移じゃ!!」


ビッと天高く右手を上げる彼女。

行為自体に意味は無いが、こうすることで力がみなぎってくる。(ような気がする。)

まばたきをする間に、景色は街から森の中へと変わった。

今回も、転移は成功のようだ。


「ふぅ・・・ここは静かでいいな。」


どこまでも暗い、漆黒に包まれた魔族の森。

夜という時間は基本的にどの生物も休む時間であり、魔族もその例には漏れない。

聞こえてくるのは、風になびく葉ずれの音だけだ。

先ほどまでの明るく、喧騒に包まれた街が同じ地上に存在しているなど、にわかには信じがたい。


安全のため、離れたところに転移をしたので、魔王城までは少し歩く事になる。

急ぎたいが、疲労のダブルパンチで、今はゆっくりと歩くので精一杯だ。


スーッと深呼吸すれば、森のキレイな空気が、胸いっぱいに広がっていく。

なんと、空気のうまいことか。


「お姉ちゃん、ダレ?」


「うむ?」


森の暗がりから出てきた、年端も行かない幼い女魔族。

木の実でも、探しに来たのだろうか?

暗がりでちゃんとは見えないが、とても血色が良さそうには見えない。

このような幼子にまで苦労を掛けてすまない、だが安心してほしい。

金は稼いできた!


「問題ない、私だ。 この顔を、一度は見たことがあるだろう?」


彼女は若いので、今の姿の魔王を、見たことがないようだ。

残った魔力で、自分に幻惑魔法を掛けて、出発したときの姿を見せる。


「あ、魔王様!」


こんな私を慕ってくれているのか、抱きついてくる彼女。

しかしその力も、どこか弱々しい。


「苦労を掛けて、すまなかった・・・。」


魔族の子を従え、城へ向かう魔王様。

優しさに満ちあふれたその姿からは、同胞を思う、魔王様の深い慈愛が垣間見える。


その後、魔王城へ帰った後の彼らの反応は、様々だった。

急に泣き出す者。

抱きついて来る者。

私の体調などを、しきりに心配する者。

『魔王陛下、万歳!』と歓喜する者。

大人の私が認識できず、ただただ呆然とする者。

などなど・・・。


とりあえず、私が居ない間に誰かが欠けるような事はなかったようで、安心した。

姿の見えないエグラーは、きっとどこかの集落の説得にでも行っているのであろう。

彼には、留守中、苦労を掛けるな。

今の体の疲れより、彼らを早く喜ばせたいという気持ちが勝り、早速に、今日もらったばかりの給与を懐から取り出す。


「魔王様、そのぺラッとした物体は一体?」


「金を稼いできたぞ!! 皆、近う寄れ!」


「「「「おおおおお!!!!!」」」」


高らかに有言実行を果たしたと宣言する魔王様に、歓声をあげる魔族たち。

正直、金というものを見たことすらない者も多い。

半ば好奇心から、囲うようにしてコレを見守る彼ら。

見よ、これが我々の窮状を救う道標となるのだ!!


ビリッと封を切り、封筒を逆さにして中身を出す魔王様。

すると。


ハラリ・・・・



「「「「「・・・・・・・。」」」」」


中から出てきたのは、白い紙キレが一枚だけ。

落ちていく紙を呆然とした眼差しで見つめる彼ら。

信じられないと、封筒の中身を覗き見る魔王様。

だがその紙以外に、入っている物は何も無いらしかった。


「はて、『為替手形かわせてがた』・・??」


「何だ、それは?」


首をかしげる彼から、落ちた紙キレを受け取る魔王様。

給与の代わりに入っていた、この紙。

どうにも重要っぽいが、どうしたら良いか、この場の誰もわからない。


この紙は、そのものズバリ『為替手形』だ。

商会指定のギルド(銀行)にこれを持っていくと、相当金額の金子が受け取れるのである。

そんな仕組みを知ろうはずも無い彼らが、何となくソレに気付くのは、何時間も後になってからのことであった・・・。



◇◇◇




「ウソだ・・・!」


ちょうど同じ頃。

魔王様を探しに人間の街へとやってきたエグラーは、何度目かの驚きの声を上げた。

これまで、幾人もの人間やエルフに、聞き込みを行った。

だが、魔王様の軌跡は、少しとして掴めなかった。

おかしい、魔王様が人間の街へやって来た事は、まず間違いないのに。

まるで、周りがウソをついているようだ。


「なぜようとして、足取りが掴めないのだ? もしや魔王様はまだ、人間の街には来ていないというのか??」


街のど真ん中の広場で、右往左往する彼。

エグラーがたどり着いた街。

ボルト王国の隣国の、とある中規模な都市である。

街も違ければ、そもそも国すら違う。

足取りが掴めないのも、当然といえば当然だ。


「もう少し・・・調べてみるか。」


そんな事とは、露ほども思わない彼。

きっと、まだ調べが足りないのだ。

次の行動を起こすのは、その後だ。


エグラーは再び、街の喧騒の中へ、その姿を消して行くのだった・・・・


お互いに、前途多難のようです。

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