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第33話・魔王様、休む


前話から、時間経過で数日が経っています。

あしからず。



ごーんごーんと、この日最初の鐘の音が、ブライトの街に響きわたる。

朝日が街中を照らし始め、多くの住民達が動き始める。

そんな中、ついに職を手にした魔王様は、ご指定の『宿泊所』にて、優雅に目を覚ました。

目に飛び込んできた眩いばかりの日差しを、右の手で覆う。


「むぅ・・・もう朝なのか。 魔王城とは時間の感覚が、だいぶ違うな・・・」


寝ぼけ目をこすり、ゆっくりと体を起こす。

時間が時間のためまだ地面や空気が温まっていないため、気温は寒く、思わず身震いしてしまう。

吐く息も、心なしか白い。

ブライトは基本的に通年、暖かな気候ではあるが、このように朝や夜はぐっと冷え込む。

もし魔族でなかったら、彼女は低体温で凍死していたかもしれない。


「うう、さむ・・・!」


冷気をしのぐ魔法はあるが、そのために魔力を消費するのは、得策ではない。

贅沢は、大いなる敵だ。

寒さは気掛けで乗り切る事として、すぐに出勤の準備開始だ。

まずは、出した水球で顔と髪を洗う。

自分に上級の回復魔法を掛け、空腹と共に、体の汚れも落とす。

うん、さっぱりした。

仕事関係の荷物は商会に置いていっているので、他に行うのは、自分の

着替えのみだ。


着ていたドレスが光に包まれ、溶けるようにして、その形状を変えていく。

次に現れたのは、商会支給の制服を身にまとった姿。

これは魔法でドレスの形が変わったのではなく、腰の布袋に圧縮収納していた制服と取り替えたのだ。

形を変える魔法は多くの魔力を消費するが、取り替えるだけならば、そうでもない。


「さて・・・と!」


着替えも済んだところで、よっと木の上から飛び降りる。

ストッと小気味いい音が地面を揺らす。

乱れた髪を纏めて束ね、まるで何事もなかったかのように、この場を後にする。


「・・・頑張らねば。」


いざ行かん、戦場へ。

すべては魔族の未来のために!!

決意を新たに、魔王様は喧騒の中に、その姿を消していく。


が、そのまえに。

今日の魔王様には、ある重大な見落としがあった。

商会に着いてから、彼女はそれに気がつく事となる。


「おやライザックさん、今日あなたは公休のはずですが? 何か忘れ物ですか?」


「こ・・・公休?」


ブレアンド商会の在庫管理の部署に到着して10秒。

最初に掛けられた言葉は疑問と、『公休』というあまり聞きなれない単語に魔王様は、弧p首をかしげる。


『公休』

平たく言うと、社会人の休日の事。

連日休みなしの魔王という彼女には、今まで一番親しみがなかった言葉である。

祝日などによる休日とは、少し意味合いが異なる。


「ご自分のシフト表を、見ていなかったのですか? 今日のあなたは、お休みですよ?」


「や、休み・・。 仕事に休みがあったとは。」


魔王城では、皆が年中無休。

前魔王の時代から、休みなどと言う制度はなかった。

休むすなわち、死ぬ事であった。

死ねば、休んでもよいとされていたのだ。

さて、ここで魔王様的には困ったことが起こってしまった!


「休みとは、一体なにをすれば良いのだ?」


「それは・・・人それぞれといいますか。 せっかくの休日なのですから、思い思いに過ごされては?」


これまでの生涯、身を粉にして年中働きづめだった魔王様。

たとえ体調が悪くても、魔族が大戦で負けたときも、ずっと。

端的にいうと、魔王様はその魔生で、休日を経験した事すら無かった。

突然『休め』と言われても、何をしたよいかが、まったく思いつかない。


「する事も、したい事も無い。 せっかく来たのだ、仕事をさせてはくれまいか?」


「そ、それは会社の規約に反します!!」


魔王様の提案に、かぶりを振る上司。

ここで仕事をされると、それは残業扱いとなる。

そもそも国の法律でも、一定期間ごとの休みは義務付けられているので、当人がどう思っていようと、そこは曲げられなかった。


「ではこうだ、我は『思い思い』に休日を過ごす。 やっている事は仕事に近いが、主観的には問題なかろう?」


「それは・・・いえ、しかし!」


彼女らの押し問答は、しばらく続く事となる。


数刻後、魔王様は『自主練習』という形で残され、自動魔道具と向き合うことが許されるのだった。




◇◇◇




里の者が『魔族の森』と呼ぶ、黒い森。

そこは森の木々のせいか日差しは差し込むことは無く、昼だというのに森は、夜のように暗い。

地元の人間ですら近づこうとしない森ではあるが、そこは良質の魔力にあてられた木々や地面など、資材の宝庫であった。

そういった場所に、ゴブリンを始めとした魔物たちが住まっている。

人間の『ハンター』は、主にこういったものを売ることなどで、生計を立てていた。

だが今日は、そうはならなかった。


「貴様らは・・・ここで何をしていた?」


「た・・・助けてくれ・・・・・俺は資材を採集していただけなんだ。」


首を鷲掴まれ、命乞いする人間の男性。

彼の首を掴む初老の男性は、その手に力をこめ、決して離すことはしない。


「エグラー様、申し訳ございません。 助かりました・・・」


肩で息をしながら、初老の男に感謝をする全身を羽毛に包まれた魔物。

彼女はハーピーという種族で、その羽毛は良質の服飾や触媒などに、活用される。

ハンターは、これが目当てだったようだ。

もしエグラーがタマタマ通りかからなければ、このハーピーは殺されていたであろう。


「ハーピーよ、人間の領近くは危険であるから近づくなと、厳命していたであろう。 早急にこの場を離れるのだ、二度と戻って来るでないぞ!」


「は、はい・・・!」


エグラーの鋭い眼光の先に見える怒りの感情。

身の危険を感じ取ったハーピーは、脱兎のごとく森の奥深くへと、その姿を消していった。

それを見送ったエグラーは、視線を目の前の人間へと戻す。


「よく聞け人間よ、ここは魔王、エティシア様が治める我らが土地。 二度とその足を、踏み入れるな!!」


「わ、分かった、いや分かりました! だから命だけは・・・・!!」


怒気をはらんだ声を出し、首を締め付ける。

他の人間は倒してしまったので、この男には特に、恐怖を植え付けておく必要がある。

かなりの殺気をあててやったので、相当の恐怖を感じたはず。

これで、こやつらが森に再び入るような事はあるまい。

首から手を離すと、男はそのまま地面に腰を打ち付ける。


「げほっ、げほっっ!!」


「ほれ水だ。 さっさと呼吸を落ち着けんか!」


空中に水球を作り出して、無理やり男の口へ放りこむ。

考えてみたら、これは好機だ。

人間の街の場所を、こいつに聞くとしよう。

人間達の住まう土地の境界線は、おおよその見当がついているが、彼らの街の位置などの地理情報には、非常にうといのが現状。

何のアテも無く、森の中をさまよい歩いている現況を、どうにか打破するのだ!!


「一つ、貴様に聞きたいことがある。 正直に答えぬと、死ぬことになるぞ?」


エグラーの言葉に、生きた心地がしないハンター。

魔族は、400年前の大戦で絶滅したというのが、定説になってきていた。

だが目の前の男は赤目黒髪で、頭の上には赤黒い角が生えている。

なにより背中から生えている、コウモリのような黒い翼。

あまりにも顕著な、魔族の特徴だ。


「な、何でもいうことは聞く! だから殺さないでくれ!!」


「それは、貴様の答え方しだいだ。」


魔族は、一般的に残忍で好戦的な性質で知られている。

自分ひとりを殺すなど造作もないことであろう。

彼の浮かべている笑みは、まるで獲物を見つけた狼のようだ。


エグラーの魔王様探しは、長期戦になりそうである。



魔族は人間やその他の生物と違って、心臓が二個あるなど、身体的に優れています。

魔法センスも、言わずもがな。

よって、過労死などはなかったようで、それが『休みなし』という環境を作り上げたのだとか・・・。

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