第30話・魔王様、四苦八苦する?
これからも楽しんで、書いていこうと考えています。
感想などがありましたら、どんどんお寄せください。
「やあ、おはよう。」
「えっと・・・・・おは、オハヨウ、ゴザイマス・・・。」
魔王様の矯正から3日目。
指導の甲斐あってか、ギクシャクしながらも魔王様の話し言葉は、少し丁寧になってきていた。
考えながら話すので、返事等が遅くなってしまうのは、今は仕方が無いだろう。
なお同時進行で行う礼(今まではしていなかった)も、上司殿の指導の賜物である。
「は、話しにくい・・・」
ふうぅ・・とため息をつく魔王様。
人と会うたび、神経を使うようになってしまった。
街においても同様。
このまま、われ・・私は神経を使いすぎて死ぬのでは無かろうか?
こんな事を毎日、疲れた様子も無くやってのける他の者たちを、私は尊敬する。
さらに、今日は輪を掛けるように、周りが鬱陶しい。
「おい、あの人・・」
「教えたほうが良いかな?」
「・・・・・・ん~?」
どうにも、おかしい。
ここまで来るまで、観衆が私をジロジロ見てくるのだ。
しかし、好奇の目とは、どうにも違うようだし・・・・
ただの、自意識過剰だろうか?
「おはようございます・・・」
「ああ、おはよう。」
「おはよう・・。」
教えられたとおりに、彼らにも挨拶をする。
特に、変わった様子は無い。
やはり自意識過剰なだけか。
「おはよう、ございます・・・。」
疲れた様子で、挨拶をしながら戸をくぐる彼女。
室内には既に、多くの者たちが仕事の準備を進めているのが目に入ってきた。
それらを傍目に、タイムレコードの登録を行う。
ポワッと淡く光れば、登録は完了だ。
さて今日も一日、頑張るか・・・
「ライザックさん、それは何ですか?」
ツカツカと歩み寄り、睨みつけるような視線を送ってくる上司殿。
疲れから、もしや変身魔法に不備があったか!??
自分の全身を、見回す魔王様。
どうやら角や翼は、生えた様子は無いな・・・。
少しホッとしたが、上司殿の鋭い眼差しは、相変わらずだ。
「これは、何ですか!?」
「え・・・・・?」
ズイッと彼女の頭を指差す、上司殿。
同時に室内に、クスッと笑い声がもれる。
その原因は、彼女の頭の『形状』にあった。
起きてすぐ、ロクに鏡も見ないまま出勤してきた魔王様。
簡単に説明すると、彼女の頭は『爆発』していたのだ。
「あぁ皆が注目するのは、こういうわけだったのか。」
今日も寝坊し掛けて、ドタバタしていた。
鏡なぞを見る暇は無かったので、髪型にまでは気を配っていなかった。
周りも気がついているなら、教えて欲しいところだ。
いや・・・私だけでなく、皆も忙しかったのかもな。
両手を髪の中へ入れ、一度だけ梳かすように、指で髪をなでる。
するとごわごわになっていた髪は、するりと肩へ落ちていった。
髪を下ろすぐらいならば、朝飯前だ。
これで一丁上がり。
・・・とは、ならない。
「いま直せばいいというものではありません! 社会人として、出社前に身だしなみを整えてくるのが、当たり前です!!」
「すみません、ごめんなさい!!」
なぜだ・・・
より上司殿から、怒られてしまった。
仕事は、思っていたよりずっと大変。
覚えることや守らねばならないしきたりが、星の数ほどあるように思う。
我・・いや、ワタシにとっては特に。
「商会の制服を着用している時点で、あなたはブレアンド商会の顔です。 そこのところを十分に、理解して下さい。」
「あい分かりました。」
善処します。
魔王城ではエグラーに『女心』を説いてやったが、自分も大概だったよう。
鏡は無いので、水で擬似的な姿見でも作る事にするか。
「ではライザックさんは、昨日の復習作業を行ってください。 分からない箇所があれば、いつでも呼んで下さい。」
「うむ・・いや、了解です!!」
時おり話し言葉を訂正しながら。
少しずつ、『世の常識』というものを学んでいく魔王様。
今日も彼女は、一刻もはやく仕事を覚えるため、粉骨砕身で頑張る。
◇◇◇
「がふ・・・・っ!」
終業のチャイムが鳴るのと同時に、机に頭を突っ伏す魔王様。
仕事を始めてからは、体が疲れを訴える頻度が各段に増加した気がする。
このごろは特に、それが顕著だ。
体がダルいと言うよりは、頭が重たいのだ。
回復魔法や治癒魔法をかけても、一向に治る気配は無い。
長い魔生で、このようなことは初めてである。
「ライザックさん、今日はお疲れ様でした。 もう帰宅して結構ですので、ゆっくり、体を休めてきて下さい。」
「ああ・・・。」
上司殿から労いの言葉を受け、それを受け流す魔王様。
まもなく商会の建物には鍵が掛けられ、外へは出られなくなる。
早くここを出ないと、見回りの警備に見つかり、メンドーな事になってしまう。
分かってはいるのだが、もうしばらく、こうしていたい。
なんだか、とっても心地よい。
そんな折、背後から女性に、声を掛けられた。
「ねぇライザックさん、今日は空いてる?」
「む・・・・?」
スローモーションな動きで、ゆっくりと机から頭を上げる。
そこに上司殿は、もう居らず、居るのは同じ部署の男女数人だった。
帰り支度は済んでいるようで、皆一様にその手に、大きめのカバンを下げている。
「何か用か・・・じゃない、デスカ?」
知らぬうちに、彼らにも無礼を働いていたかもしれない。
上司殿のように、それを指摘してくれようということか。
一字一句聞き逃さぬよう、眠り掛けていた頭を、たたき起こす。
「私たちに、そんなに畏まらなくても良いわよ。 いつもの口調で良いわ。」
「あのおばさん上司、うるさいだろ? 俺達に対してもいっつも、ガミガミ言うんだ。 いつか耳にタコが出来ちまうよ!」
「んあ・・・えっと・・・・・???」
話の流れ的に、どうやら無礼がどうこいうという話ではないらしい。
では、彼らは一体何を?
全く分からないと、頭上に疑問符を浮かべる魔王様。
この会話を皮切りに、彼らは思い思いに談笑を始めた。
上司がうるさいから始まり、仕事が大変だとか、どこそこにうまい料理屋が出来ただとか。
そうしている内に、話の矛先は再び、魔王様へと向かう。
「ライザックさんはどう? 仕事が思っていたのと違うとか、無い??」
「我は方々の未来のため、ここで働いているのだ。 そのためなら、我はこの身をも差し出す覚悟、決して逃げ出す気は無いのである!」
「「「・・・。」」」
つい胸が高鳴り、熱く語ってしまった。
さすがに対象が『魔族の民』などとは言えないので、そこはお茶を濁して自分の気持ちを話して聞かせたのだが・・・。
たぶん、内容の半分も分からなかったであろうな。
すまん。
だが魔王様の力説は、少し曲がって彼らに伝わっていた。
つまり彼女(魔王様)は、どこかの貧乏な家の生まれなのだろう。
未だに家には病気がちな両親や、学校に通っている小さな兄弟姉妹が・・・
もしかしたら、未就学児なのかもしれないが・・。
そういった家庭への生活保証金の給付はあるが、金はいくらあっても足りない事だろう。
彼女は言った。
『この身であろうとも差し出す』と。
そのような家庭であれば、何かと苦労が絶えないことだろう。
女の幸せどころではない。
なんて、不憫な人なんだ!!
「頑張ってね、ライザックさん! 私たち、応援しているわ!!」
「何か困ったことがあったら、何でも相談してくれよな!?」
「私たち、出来る限り力になるからね!!?」
「ど・・、どうも??」
そんな事とは露と知らない魔王様。
よくあれで分かったものだと、不思議に思う。
本当は彼女は、貧困にあえぐ魔族のため魔王様が単身、人間の街に出稼ぎにやってきたのだ。
あながち彼らの妄想は、近からずとも遠からずであり、的外れではないだろう。
常識外れの世間知らずなので、苦労が絶えないのも、事実ではあるし。
「実はね、これから皆で飲みにいこうと話していたところだったのだけど、ライザックさんも来ない??」
「あなたの新入祝いも兼ねてるんだ。 もちろんヒマがあれば・・、なのだけど。」
我のための、親睦会だと?
なんと言うことだ。
なんだか、とても行ってみたい。
しかし貧困に窮している、魔王城の者達の事を考えるとどうも・・・
い、いや!
これは絶好の、情報収集の機会だ。
彼らから人間の情勢を聞き、なにかの解決の糸口とするのだ!!
そう、なにかの!!!
「もちろん。」
首を縦に振る魔王様。
これで、決定だ。
「おすすめの飲み屋があるの、私が案内するわ。」
先頭を切って、ドアノブに手を掛ける女性。
しかし彼女が開ける前に、戸は自動ドアのように、外側へと開いた。
よろける女性。
「声が聞こえると思ったら・・・まだ帰ってなかったの? 早く帰ってよね、まったく。」
既に終業して、誰も来るはずの無い『在庫管理部』の部屋を訪れたのは、夜間の警備の人だった。
各部屋を点検し、これから鍵を掛けていくのだという。
しまった、外は既に真っ暗です。
「「「・・ご、ごめんなさい。」」」
悪態をつく警備員さんを尻目に、彼らは足早に、商会を後にするのだった・・・
小説の書き方の、二度目の一新を、次回作から取り入れることになりました。
まだまだ作者の技術が発展途上で、お見苦しい箇所が多々あると思いますが、よろしくお願いいたします。




