第18話・魔王様、感涙に浸る
遅ばせながら『冬の女王物語』という童話作品(?)が完結しました。
なろうの『冬の童話祭り2017』提出用作品となっております。 よろしければどうぞ。
ちなみに、『童話』らしくありません・・。
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作者の手違いで、同じ話を重複投稿しておりました。
皆様には、大変ご迷惑をお掛けしました事を、お詫び申し上げます。
「おおおぉ・・・・!!!!」
ゴロゴロと先ほどより、雷の音が大きく、そして近づいてくるのが分かる。
シトシトと雨も降り始め、長く伸びた黒い髪が、少しづつ降り始める雨粒によって、ぬれ始める。
いつもならこんな天気のとき、外へ出ようなどと彼女はしないだろう。
どこぞの南の島の大王のように。
だが今日という日だけは、どうしても『外せない』用事があった。
魔王様は、そのために外に出ていたのだ。
彼女は今、ブライトの東側に居を構えている『ブレアンド商会』の入り口に、直立不動の状態で立っていた。
その彼女の前には、一枚のボードがある。
そこには張り紙がされていた。
『合否発表 以下の番号の者を、採用いたします。 詳しくはお渡しした識別票を受付に渡した上で、中のほうでご説明いたします。
2,3、4,7,9,10,12、13の番号の方。 』
識別票とは、面接を終える際に渡された封書の中に入っていた、木の札である。
そして魔王様の番号は、『12』であった。
つまり。
「う、うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!??????」
彼女の雄たけびに呼応するように、ゴロゴロと雷が鳴り、雨脚も強くなる。
特に関連性は無いのだが、『魔王』というバックボーンも相まって、彼女は『悪の権化』っぽく見えた。
黒い服装も相まって、それはかなり顕著だ。
別に彼女は見るからに『悪』ではなさそうだし、彼女も狙ってしているのでは居ないのだが。
「うぐ・・・うぅぅぅうううぅぅぐぬぬぬ・・・・」
これまで何度、門前払いを食ってきた事か。
それを考えると何となく、涙があふれてきた。
まあ、実際の就職活動期間は、たったの二日なのだが。
永い魔生でここまで何かに苦労をしたのは、初めてのことである。
彼女の喜びは、ひとしおだった。
ゴロロゴロゴロゴロ・・・・・!
ドザザザザーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
「うぐぐぐぐぅぅう・・・」
「・・・・・・・・。」
そんな彼女を、傘のような物をさしながら通りすがりに見やる通行人たち。
事実どうあれ傍目には、彼女の姿は『就職に失敗して悲しみに暮れる女性』にしか見えなかった。
雷鳴る中、雨に打たれながらそれをしていたのだから、それは何十倍にも拡充されて見える。
可哀そう過ぎて、誰一人として、声はかけられなかった。
誰も彼女が『嬉しすぎて感涙を流している』などとは考えもつかない。
シチュエーション的に。
「あ、あの・・大丈夫・・ですか?」
「うぐ?」
スーツを身に纏った赤毛赤目の小柄な女性が、背後から声をかけてきた。
ずぶ濡れのシアに、自らがさしている傘の中へ促す仕草を見せる。
「何ヤツじゃ? おぬしは。」
「す、すみません。 えっと、何といえばよいか・・・」
振り向きざまに、雨に打たれながら疑問を口にする魔王様に対し、臆した態度を取る女性。
その間に、流していた涙が雨へと解けていく。
突然、知らない人間に声をかけられたので、名前を聞いたに過ぎなかった。
だがその眼光が鋭すぎて、傍目にはそれが怒っているように見えたのだ。
声をかけたのは、余計なお世話だったかもしれないと後悔するその女性。
だがその間にも、彼女はぬれ続けていた。
有無を言わさず、傘の中へと入れる女性。
「こ、このままでは風邪を引いてしまいます・・・。」
「カゼ? ああ・・・・。」
ここに来てようやく、彼女が何を言っているのかを理解した。
見た目から、自分を人間と勘違いしているようだ。
魔族は一般的に、雨に打たれたぐらいでは、ヤワな人間と違い体調など崩さない。
「すまぬな、心配はいらぬぞ? 少々、取り乱していただけじゃ。」
就職できた関係で込み上げてきた、三日間の苦労を思い出して。
しかし、言い方が少々悪かった。
傍から聞くとこれは、『就職に失敗して』取り乱したとも取れる。
というか、シチュエーション的には、そうとしか聞こえなかった。
何よりシアは先ほどまで、雨に打たれながら涙まで流していたのだから。
少なくとも目の前の女性は、マイナスな方向の意味でこの言葉を受け取った。
彼女の顔から表情が消え、真っ青になる。
「ん、貴様こそ顔色が悪いぞ、大丈夫か??」
「ご、ごめんなさい! わたしはその・・・えっと・・・・・!!!」
持っていた傘を取り落とし、腰を直角に曲げて魔王様へと謝る女性。
これにより、もともとズブ濡れの魔王はもとより、彼女もその全身を、雨にぬらしていく。
突然の謝罪に、驚きを隠しきれない魔王様。
なぜこの女は、我に謝るのだろうか?
・・・おっと、そういえばそんな事をしている場合ではなかった!
「すまぬが我は、この建物の中に用があるのじゃ。 世話を掛けたな。」
感涙に浸りすぎて、思わず立ち止まってしまっていた。
ボードにもあるように合格者は、『中で説明』を受けるようである。
こんなところで油を売っている場合ではない。
「え・・あなたも中にご用事があるのですか?」
・・・ん?
『あなたも』??
これは一体、どういう事だろうか。
「いや我は、この通りここに用事があってな。 感涙に浸って時間を食ってしまったのじゃ。」
そう言って、この親切な女性に『12』と書かれた木札を見せる魔王様。
これを見て、驚愕の表情を浮かべる女性。
それと共に、おもむろにポケットに手を入れる。
「・・そ、それなら、私も同じものを・・・」
「ん?」
彼女が出したのは、『3』と書かれた自分が持っているのと同じ木札。
どうやら彼女も、魔王様と同じ境遇の人間だったらしい。
スゴイ偶然だな、と思った。
実際には『同じ境遇』なのだから、こうして鉢合わせてもそう、不思議ではないのだが。
「わ、私セリアっていいます! 今後、どうぞよろしくお願いいたします!!」
「・・・ああ、よろしく?」
割れんばかりの笑顔を向け、大きく礼をとってくるセリアという女性。
あまりの展開の急さに、目をむく魔王様。
彼女が思っている事は、唯一つ。
この女、先ほどからコロコロ表情が変わって、おもしろいな。
今までの自分のことは、完全に棚に上げた魔王様だった。
受難は続く・・・?