第13話・魔王様、知らないヒトに奢ってもらう
これからも、頑張って行きます。
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「こ、これは何というのじゃ!??」
「『シチュー』っていうんだよ、魔王様。」
出てくる料理に目を輝かせる魔王様を前に、ニヤニヤと笑みを浮かべるレリアルというエルフ女性。
当のシアは、『魔王様』と呼んで来たことを訂正するのも忘れ、食事前の感謝の言葉もそこそこに料理にかぶりついた。
う、うまい!
こんなうまい料理を食うのは、生まれて初めてだ!!
机に所狭しと並べられた料理に手を伸ばしつつ、感動に打ち震える彼女。
腹の中にモノを入れたのは、いつぶりであったか。
なぜ今、このような状況になっているかなど、至極どうでもよくなった。
「うぐ・・・・むううぅぅ・・・」
「・・・料理を食いながら涙流す奴は、初めて見たよ。」
やれやれと、肩をすくめるレリアル。
ついでに近くを通るウェイトレスに、追加の注文をとっておく。
今の魔王様の食べる勢いでは、どうにも足りない気がしてきたので・・・
それはさておき彼女は、魔王様に聞きたい事があった。
「ところで魔王様はさ、何だってまた『ブライト』なんかに居るんだい?」
「むぐ? おべべばばぼびびばびぼごが・・・」
レリアルさんの質問に、一転真剣な表情に戻り、何やら口をもごもごさせる魔王様。
口の中に、モノを入れてしゃべってはいけない。
魔王よ、行儀が悪いぞ。
見た目年齢も相まって、彼女はただの子供にしか見えない。
レリアルさんもそれは感じているようで、苦笑しきりといった様子だ。
「魔王様が今、口に入れているのは『チーズハンバーグ』っていうのさ。 うまいだろ?」
彼女の説明に、顔をうなずかせる魔王様。
口に入れた途端にじゅわっと広がる肉汁。
程よいうまさをかもし出す、茶色い液体。(ソース)
そして黄色い物体が、それに程よく絡まり、うまさを倍増させている。(チーズ)
これは何の肉だろうか?
まあ、うまいから良いか。
ごくん。
「よっぽど腹が減っていたんだな。 しっかしなんだってまた、人間の街になんか居るんだよ?」
「む・・・それはこちらのセリフじゃ。 貴様は我と前に会ったと言ったな、いつの話じゃ?」
「なんてことは無いさ。 私の爺さんがエルフの族長なんだ、その関係で昔、集落に来た魔王様を見た事があるんだよ。」
何百年か前、エルフと交易していた頃、イロイロなエルフ達の集落を訪れた覚えはある。
そうか、その中に彼女がいたのか。
いちいちその場に居た者の顔など、覚えてはおらなんだな。
「さすがは魔族、人間になっても、見た目はさして変わらないんだな。」
「うるさい。 それよりもなぜ、貴様のようなエルフが人間の街にいるのじゃ?」
関心しきりと言った風のレリアルに、続けざまに質問をぶつける彼女。
ご飯はうまいが、それ以上に聞きたい事が山ほどある。
「おいおい、こっちも聞きたい事があるんだぞ? 少しは聞かせてくれよ。」
「うむ? それもそうか・・・・」
確かにこちら側ばかり、質問をするのはフェアではない。
何よりメシを奢ってくれたのだから、質問の一つや二つ、聞こうではないか。
「なんで魔王様がブライトなんかに居るんだ? 他の魔族はどうした??」
「そ、それは・・・まあ、イロイロあってな?」
コイツ、ピンポイントで聞いて欲しくないことを聞きおってからに・・・
思わず、ドモってしまったではないか!
我ら魔族の残り少ないプライドを守るため、コレに関しては我の口からは、何も話せない。
もし人間に魔族の近況がバレれば、どうなる事か分かったものではないからな。
あとついでに言うが、我を『魔王様』と呼ぶのをやめんか。
「ふーん、それで『シティワーク』なんか持っていたのか。」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、椅子の上であぐらをかいて、雑誌を開くレリアル。
その辺の店先などにいくらでも置いてあるのだが・・・
なんだか雑誌の端のよれ具合などに、見覚えがある。
・・・・・・まさか。
「なっ、それは・・!! ああ無い、返せバカ!!」
彼女が持っているモノが、自分の『シティワーク』である事にすぐ気がついた魔王様は、奪い取るようにレリアルからこれを、取り上げた。
いつの間に彼女の手に渡ったのだ!?
まったく、油断もスキもあったものではない。
「悪い悪い、さっき路地裏に連れ込まれたときに落としたから、拾ったんだよ。 いやホント、悪気は無かったんだって!?」
顔の前で手を合わせ、謝罪するレリアル。
申し訳ないのなら、せめてその、快活な笑顔を振りまくのをやめて欲しいものだ。
けっこう腹が立つ。
手元に『シティワーク』が帰ってきはしたので、これ以上は何も言うつもりは無いが。
「それにしても、ずいぶん使い込まれた感じだな。 就職活動でもしているのか??」
「・・・・貴様には関係なかろう。 我にも何かと切迫した、事情があるのじゃ。」
「ふーん?」
魔族は現在、この上ないほどの貧困にあえいでいる。
ソレをどうにかするためには、食糧を買うための金が必要なのじゃ。
冒険者ハンターになれぬ以上、我は出来る事を探すほかには無い。
この、最後の砦(街の無料求人雑誌)でな!!
「でもその様子じゃ、就職活動は難航しているらしいな?」
魔王様の話から何となく彼女を取り巻く現況を悟ったレリアルは、そんな言葉を彼女にかけた。
事情ははかりかねるが、どうやら彼女は、ここブライトで、就職を目指しているようだ。
だがそれがうまくいっていないのは、一目瞭然。
初めて会ったときに、顔をうつむかせて歩いていたのが、それを顕著に現している。
どうやら図星らしく、彼女は持っていたフォークを握る手を置き、顔色を暗くさせた。
尊大なヒトだなと思っていたが、こうして見ると小さな子供にしか見えない。
何か力になってあげたいと、改めて思った。
「・・・・就職を目指してるなら、取って置きの方法があるぜ?」
彼女から発せられた言葉に、ガタンと椅子から立ち上がる魔王様。
当然、驚きを隠せなかった。
まさか、そんな方法が存在するとは。
我はまだ、人間の生活と言うのが分かってはおらぬからな。
是非、ご教授願いたい。
なんなら、代償として我の命の源である魔石を一欠け、やってもいい。
ちょっとぐらいなら、死にはせぬわ。
貧困にあえぐ魔族たちの未来を考えれば、それぐらいのリスクなぞ、どうと言う事はない。
腹が減っては戦は出来ぬ、背に腹は変えられぬのだ!!
「はっはっは! そう急くなよ、なあに簡単な事さ。 鉄板の方法と言うのはだな・・・」
分かりやすさ重視のため、料理名などは日本のソレとしました。
ええ、手抜きではありません!!
まったくもって。