第1話「本屋で見つけた、もう一人の君」
放課後。
それは、僕たちだけの時間だった。
博多駅の駅ビルにある本屋で偶然出会った、同じクラスの福岡南。
学校ではほとんど話さない。
だけど放課後になると、いつもの本屋へ向かい、屋根付きのIC専用改札前で帰りの列車を待ちながら、本を読んだり、何気ない話をしたりする。
「また明日。」
その一言を交わすために、今日も二人は博多駅へ向かう。
これは、少しずつ距離を縮めていく二人と、放課後の博多駅が紡ぐ青春恋愛物語。
放課後になると、必ず同じ場所へ向かう理由がある。
吉塚柚須は、チャイムと同時に立ち上がった。
教室が一気に騒がしくなる中、荷物をまとめる音だけがやけに静かに響く。
「また明日ー!」
「部活急ご!」
そんな声を背にして、柚須は教室を出た。
向かう場所は決まっている。
博多駅。
この街の駅は、いつも人で溢れているのに、なぜか落ち着く。
柚須にとって、それはもう日常だった。
電車を降り、改札を抜ける。
駅の複合施設へ入り、エスカレーターを上がると、本屋がある。
本の匂い。
静かな空気。
ページをめくる音だけが、時間をゆっくりにしている。
そこにいると、少しだけ現実から離れられる気がした。
新刊コーナーを眺めていると、不意に足が止まる。
「……え?」
文庫棚の前に立っていたのは、同じクラスの福岡南だった。
学校ではいつも友達に囲まれている。
教室の中心にいるような存在。
その彼女が、一人で本を選んでいる。
見たことのない静かな顔だった。
柚須は気づかれないように立ち去ろうとして――
「……吉塚くん?」
目が合った。
「あ、ごめん。偶然。」
「ううん。」
少しだけ気まずい空気が流れる。
柚須は軽く頭をかいた。
「学校では見ないから、ちょっと意外だった。」
南は小さく笑う。
「ここでは、ただ本を探してるだけ。」
「本、好きなんだ。」
「……うん。」
少し間を置いて、南が聞いた。
「吉塚くんは?」
柚須は少し考えてから答える。
「大きい声では言えない趣味なんだけど。」
「え?」
「青春小説。恋愛っていうより、空気感を大事にしてるやつ。」
一瞬、南は驚いた顔をした。
そして、ふっと笑う。
「私も。」
「え?」
「そういう本、一番好き。」
思わず、二人とも笑ってしまった。
さっきまでほとんど話したこともなかったのに、不思議なくらい自然に言葉が出てくる。
気づけば三十分ほど、本の話をしていた。
おすすめの作家。
最近読んだ一冊。
好きな場面。
時間はいつの間にか夕方に変わっていた。
「そろそろ帰ろうか。」
「うん。」
本屋を出て、改札へ向かう。
その途中、南がふと足を止めた。
「今日のこと。」
「うん?」
「学校では……内緒ね。」
柚須は軽く笑う。
「もちろん。」
南も安心したように小さく笑った。
「じゃあ、また。」
「また。」
電車の発車ベルが、駅に響く。
その日から。
学校ではただのクラスメイト。
放課後だけ、少しだけ特別な時間が始まった。
――その“少しだけ特別”が、どれくらい続くのかは、まだ誰にも分からなかった。
初連載うれしい見てくれてありがとう頑張ります




