最終話 守護者ディン・アストレフ
「……。とうとう、具体的な滅びの回避案は思いつかずじまい、ですか……。」
竜神暦一万十三年四月、あと一年と少しで、聖獣の守護者達はやってくる、私の予言の通りなのであれば、滅びまであと一年と少し、という事になってしまうだろう。
結局、未来をヴィジョンこそ薄靄に隠れて視えなくなっていたが、逆に明確に滅びを避けられるという確証も得られず、ここまで来てしまった、という話にもなってくる。
「彼らは……。」
ならば、私に協力してくれていたディーさんやレイン君、美咲さんにテンペシア様、死んでいった者達に対して、示しがつかない、と言えば良いのだろうか、私に助力してくれた者達がいて、その者達は「世界の滅びを防いでくれると信じている」と言って逝ったはずだ、それなのに、私はその具体的な打開案を提案できずにいた。
「……?」
そんな事を考えていると、ふと気配がした。
気配がした、と言うのは、私は屋敷を中心として探知の魔法を発動しており、誰かがこの屋敷に近づいてきた時には、気づく様にしていた。
花見客が来るのにはまだ早い、紅麗山の由来である紅桜はまだ咲いていない、ならば、霊峰とも呼ばれていた、かつては霊峰として立ち入る者を制限していて、今でものその風習が残っているこの山に立ち入った存在は、何者か。
「向かってみましょうか。」
ローブを着て、ハットをかぶって、私は麓から少し入った、四合目辺りに感じる異質な気配の元へ歩いて行く、それが何を意味して、という事に関しては、私は知り得なかった、ただ、意味はあると感じていた。
「やぁ、貴方が外園さんだな?」
「貴方は?ここは何もない山の中腹ですが……。」
「いや、あるだろう?貴方に用事がある者にとっては、この山に立ち入る意味はあるはずだ。」
「私に、用事が?」
山の四合目、桜が途切れる辺りにいたのは、右の袖を風に揺らした隻腕の青年、瞳は翡翠色と琥珀色、額に傷があって、ドラグニー式のパーカーとジーンズを履いている、そんな青年だった。
何の用事か、私に用事がある、と言ったこの青年の言葉は、意味がある気がした、何処かで見た事がある気がするその瞳の雰囲気、何処で見たのか、何処で感じたのか、どこか懐かしい様相だ。
「私に用事とは、いかがなものでしょうか。お名前をうかがっても?」
「ディン、ディン・アストレフ。この世界群の守護者、この世界の守護神がデインなのに対して、俺は世界群に対する守護者だよ、外園さん。貴方の事はテンペシアから聞いていてね、なんでも、世界を守る為に動いているんだって?」
「ディン・アストレフ……。では、ディンさんとお呼びしましょうか。世界群の守護者、とはどういった意味合いでしょうか?デイン様が守護神であり、そして聖獣の守護者がいるのは存じていますが……。」
「そうさな、外園さんは知っているか?この世界以外にも、世界は無数に存在する、年輪の世界と呼ばれているこの世界群、その中央であるセスティア、その裏側であるここディセント、俺は全ての世界の守護者の為に生きている存在でな。だから、この世界に闇による滅びの兆しが現れたから、守る為に行動してる外園さんにコンタクトを取りに来た、ってところだ。」
「闇による、滅び……。しかしそれは、竜神様の管轄なのでは?」
「まあ、そこに関しては追々な。少しの間は言えない、もう少し親睦と信頼を深めてから話をするであろう事だ、そこに関しては、あんまり吹聴されても俺の方が困っちまうから。兎にも角にも、俺は守護者だ。今は、他の世界の連中にも声を掛けてるところでな、外園さんが建てたって言う邸宅を、拠点として使わせてほしい、これに関してはテンペシアにも許可は取ってある。」
「テンペシア様が……。……。貴方は、滅びに対する守護者である、そう言った認識でよろしいので?」
この青年、ディンさんは間違った事を言っていない、そう感じた。
ディンという名は、竜神王しか名乗れない、それはこの世界に限定された話だ、ならば、よその世界からやって来たというこの青年がそうである可能性も、そうではない可能性もある、それを「今は言えない」と暗に言っているのだろう、ただ、私は彼を信じても良いと感じていた、この青年は、真実を言っていると。
「難しい様なら、テンペシアにでも確認を取るか?」
「……。いえ、その時間は残されていないのでしょう。私は、今この瞬間に決断をしなければならない、そう直感しました。」
「それは良い直感だな、俺の事を信じるも信じないも外園さん次第な所があるけど、そうさな。信じてもらえるきっかけとしては、何があるかな。」
「……。信じましょう。ディンさん、貴方の言葉を私は信じましょう。それがどうしてか、と問われたら、世界群の守護者と言う言葉を発した以上は、それを背負うだけの責任と権限がある、という場所に信じるに値する意味を見つけた、という事ですね。」
世界群の守護者、世界群と言う言葉は初めて聞いた、セスティアとこの世界以外にも世界がある、そんな与太話の様な魅力的な話をした存在はいなかった、それを示唆する存在もいなかった、ならば、その言葉を発言したのには、意味があるはずだ、私はそこに、彼を信じる意義を見出した。
ディンと名乗ったこの青年は、もしやするに竜神王の末裔か何かかも知れない、デイン様が何も言っていなかったのは、もしやするに秘匿事項だったのかもしれない、ただ、テンペシア様と繋がっている事を示唆している時点で、この青年はただ者ではない、テンペシア様と繋がっていて、尚且つ呼び捨てに出来る存在、と言うのは、この世界においては同じ竜神様か、それに類する上位存在だけのはずだ、と。
「私の邸宅を拠点にしたい、という事ですね?二十名程度は入れる様に設計はしていますが、何名程度入られるのでしょう?」
「聖獣の守護者達、俺、リリエルさん、ウォルフさん、セレン、後は竜太か。外園さんを含めて十人分の場所があってくれれば大丈夫だよ。」
「その方々は、どういった方々なのでしょうか?」
「そこに関しては、目下の所調査中だ。ただ、理由はある、意味もある、意義もある、彼らにも、この世界にやってきて、成すべき事を成す意味がある、とだけ言っておこうか。そうだ、屋敷の傍に敷地があったりするか?セレンの為に工房をこしらえたいんだ。」
「工房、と申しますと、鍛冶職人か何か、の方がいらっしゃると?」
「そうなるな、察しが良くて助かるよ。俺も今回が初の試みではあるから、まだわからないことだらけでな。と言っても、それぞれの役割程度の認識はある、外園さんには、個の世界に詳しい存在として、手伝ってほしいんだ。」
「……。私に、出来る事があるのでしょうか。この二百年、ずっと世界の滅びに対する抵抗をしようとしてきましたが、結果として、私はヴィジョンが視えなくなっただけでしたが……。」
「そのヴィジョンが視えなくなった理由、は熟考の余地があるんだろうけど、外園さんが世界の崩壊を防ぐ為に動いていたって言うのも、一つの理由だと思うよ。」
「それは……。それは、嬉しい言葉を。」
ディンさんの言葉には不思議な説得力があった、私は、まだ何かを話していない彼を信じていいと感じていた、信じるべきだと感じていた、私には、もうそれしか方法論は残されていなかった。
「じゃあ、協力関係の締結っていう事で良いか?」
「はい、承知しました。」
「ありがとう、それじゃあ、一か月後、一か月後に、指南役と俺が定めた者達をここに呼び出す、そこから一年後か、戦争が起こるまでに、出来る限りの策を講じよう。」
ディンさんは安心した様に笑われて、そして消えてしまった。
転移魔法の類だという事はわかったが、けれどもここまで早業で転移を発動出来る存在、を私は知らなかった。
「……。信じるほか、ないのでしょう。」
私の定め、彼の定め、守護者達の定め、運命、未来、過去、現在、そして。
それを知るのには、もう少しだけ時間がかかりそうだ。




