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第四十話 贈り物

「旅って楽しいね!先生!」

「そうですねぇ、そろそろ言葉の違いにも慣れてきましたからね、私達妖精の言葉が、鉛がある言葉だと認識されているとは思いませんでしたよ。」

「あはは、先生ってば、そんな事を気にしてたの?」

 旅は概ね純情だった、と言うべきか、私達を咎める存在がいなければ、逆に異国の者として歓迎までしてくれる所まであった、ドラグニートと言う国は、中央国家と呼ばれているだけあって、そこの懐が深かった、そんな記憶が今でも残っている、カテストロ様の都市に関しては、闇を司るというだけあってかなくてか、少し薄暗い雰囲気ではあったけれども、しかし基本的には開かれた都市、開かれた国、それがドラグニートと言う国だった、国柄と言うのもあるのだろう、基本的には開かれていて、他国の存在であろうと、人間や竜人種の亜人ではなかろうと、基本的に優しく接してくれる、それがドラグニートの在り方だ、と今でも私は認識している。

「そうだ、先生はこれからほかの国に行くのに、必要な物とかないの?欲しいものは?」

「欲しいもの、と唐突な問いですね。……。昔、父がパイプを吸っていました、煙草と言うのは、キュリエにとっては馴染みがないものかもしれませんね、ただ、私の父はそれを吸っていたのです、パイプ煙草、と言われている、葉を詰める機器に葉を詰めて、火を灯して吸う、というものですよ。」

「わかった!」

 キュリエはそれだけ聞くと、泊っていた宿を飛び出してしまった、私は追いかけようとも考えたのだけれども、しかしキュリエにも、私にも一人の時間は必要だろう、と考えを改め、コーヒーを飲みながらキュリエを待つ事にした、あの頃の私の服装、と言うのは今と変わらない、フェルンで受け取った白いローブの下に、カテストロ様から賜った黒いスーツを着る様になって、ハットを買って私が私だと認識されづらい様にして、という結果、ローブの下にスーツ、土色のハット、という服装になっていた、我ながら今でこそ違和感も感じなくなった、それだけ着こなしている証拠なのだろうが、あの頃は落ち着かなかった、スーツはカテストロ様の「闇に対する防御と光に対する防御」という魔力が込められていたという話で、強い闇や強すぎる光に対する防護服として賜った、キュリエもまた、他者から闇を抱えた存在だっと認識されないように、と言う幻惑の魔力の強くかかった洋服を賜っていた、はた目から見れば、私達は少し毛色の違う親子か何かだ、と認識される事が多くなった。

 ダークエルフとしての素養のうち、長くとがった爪に関しては整えて、ぼさぼさで白い髪の毛も美容室に行って整えてもらって、目の色に関しては仕方がない、と普段はローブを目深にかぶって、紫色の肌は幻惑魔法で誤魔化して、わかる者はダークエルフだと気づく、程度にまでは、キュリエを一般社会に誤魔化して入れられていたとは思っている、だからこそ、私はキュリエに一人での行動を許していた、あの時もそうだった。


「先生!買ってきたよ!」

「おかえりなさい、キュリエ。買ってきた、とは?」

「これ!あたしからのプレゼント!開けてみて?」

 キュリエが小一時間経って帰って来た、と思ったら、何か木箱を抱えていた、金銭に関してはテンペシア様から受け取っていたから、窃盗ではないだろうとすぐにわかったのだけれど、あの時は、キュリエが私に何を買ってきたのか、それがわからなかった。

「これは……。」

「お店の人がね、長生きするのなら木材で作ったのより、こっちのほうが良いだろう、って!」

 陶磁器製のパイプと、それに入れて吸う為の葉っぱ、それをキュリエは買ってきた、今でも使っている物と、今でも吸っている銘柄だ、私はあの頃から百年間、同じ物を使い続けて、同じ銘柄を吸い続けている、店主からしたら、エルフという長寿な存在には丁度良い耐久品だと思われたのだろう、木製のパイプを買ったとしても、生きているうちに壊れてしまう、ならば、人間や竜人が何世代も引き継いでいく、陶磁器の製品の方が良いだろう、と気を使ってくれた、それが私の知っている事柄だ。

「……。ありがとう、キュリエ。私の為に……。」

「良いんだ!だって、あたしが生きてるのも、あたしがこうして旅してるのも、先生が居てくれたからでしょ?先生がどうしてあの時あたしと会ったのか、とか、先生がどういう生き方をしてたのか、って言うのは知らないけど……。でも、あたしと出会ってくれて、ありがとう!」

 神官だと言う事、キュリエを殺める為に派遣された存在である事、未来を視る死神である事、それだけはキュリエに伝えていた、私は、それ以上の情報をキュリエに与えていなかった、どうやって生きて、どうやって村を滅ぼして、という話をした事がなかった。

「……。キュリエ、改めて問いますが、君の未来を視ずとも良いのですね?」

「うん、見なくていい、見えなくたって、あたしは怖くないもん。どんな未来があったって、それが確定事項だって言われたとしたって、あたしはあたしらしく生きていって、そして死んでいくだけ、あたしはそれで良い、あたしは、先生と出会えてよかったんだ。」

「……。君は、強いのですね。」

「そうなのかな?」

 未来を視てくれるな、キュリエはそう言っていた、私に未来を視てほしいと願わなかった、ならば、王家にとって都合がいい存在として活動してきた、私の贖罪はどこにあるのか、と問われたら、それは今なのだろう、友を失い、同胞を失い、キュリエを失い、それでも生き続ける事、世界の終わりを予言しておきながら、死ぬことを許されない事、それが私の罰なのだろう、私にとっての贖罪なのだろう、私にとって、それは罪なのだろう。

 それを恐ろしいとも言わなかった、キュリエは、世界の滅びに対して私が動いている事を知っていて、何も言わずについてきてくれた、黙ってついてきてくれていた、それを覚悟していたからなのか、それとも私と一緒に旅がしたかっただけなのか、少なくとも、私に明確にノーと言ったのは、死の未来に関する事だけだった、私は結果としてキュリエの死を視なかった、それによって回避できた問題だったのか、それとも一度見た未来が変わる事はないのか、それに関しては今でもわかっていない、一度視てしまった未来、死の未来を変える事が出来るのか?と問われると、私はわからないと答えるだろう、それをした事がないのだから、それはわからない。

 ただ、見てほしくない、という意思がある事に関しては、尊重しなければならないと感じていた、私はどこかで、いつか来る未来の別れを拒絶する、そんなキュリエの感情に気づいていた。

「吸ってみて?お味?があうかわからないけど……。」

「はい、吸ってみましょう。」

 父のしていた事、缶から乾燥した葉を出して、パイプの吸入口に入れて、魔法火を点けて、吸ってみる。

 最初はむせるかもしれない、と父には言われていた、いつの日かパイプを吸う日が来たら、最初は煙が馴染まなくてむせてしまうかもしれない、と言われていたそれを、私は吸った。

「これが、父の味わっていた味なのですね。」

「どういうお味?」

「苦く、煙たく、何故これを吸い続けているのかがわからない、そして、懐かしく、誇らしい味です。」

「不思議な表現だね、先生。」

 あの時、初めてパイプを吸ったあの日、私は感動すら覚えた、父が吸っていたもの、父の背中を見て、時に反抗しながら、時に折衷案を出し合いながら、そうして生きてきた私達の、かつてを思い出す、それは今でもそうだ、私が吸っている銘柄は、フェルンの銘柄ではない、厳密に言えば、父の吸っていたものとは違う、ただ、それでも。

 私は、少しだけ父に近づけた気がした、それが誇らしくて、寂しくて、もどかしくて、嬉しくて。

 そんな感情だった、そんな感嘆だった、私にとって、パイプはキュリエからの贈り物であり、そしてかつての父を思い出す一つのきっかけになった。

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