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聖獣達の鎮魂歌外伝~預言者の物語~  作者: 悠介


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第十九話 お茶と別れ

「やれやれ……。」

 船が出て数日、そろそろハオとはお別れになる、ソーラレスを経由してジパングに向かうこの船グランマリア号の関係上、そして私とハオの関係値上、私達が離れ離れになって、また出会う確率と言うの至極小さい事柄だ、というよりは、再会出来る可能性が限りなく低い、という話になってくる、それを知ってかしらずか、ハオは私をよくお茶に誘ってくれる、私に美味しいお茶を飲ませたい、という名目で、私をよく誘い出す、それが意味する所がわからない程、私は鈍感でもなければ馬鹿でもない、つまり「ハオは私を好いてくれている、それを分かっていてわからないふりをしている」が現状だ。

 わかっている、向けられている好意の種類も、ハオが私とどうなっていきたいのかも、分かっていてわからない顔をしている、それは「ハオを傷つけない為」にだ。

 私達妖精と人間では、生きる時間が違いすぎる、私達が最低でも千年は生きていくのに対して、彼女ら人間は百年と生きられない、なんと儚い生き物か、と知った頃は嘆いた事もあった、私がフェルンの外側の世界を知ったのは神官時代、私に勉強を教えていた担当者が、外部の事情にやたらと詳しいタイプだった、今思うとスパイか特派員だったかのどちらかなのだろうが、当時の私は教わった事を覚えるのに精いっぱいだった、様々な事を学んで、それを咀嚼して、覚えてという過程は、私が数日に一度は学校をサボタージュして探検仲間と遊んでいた程度、と言えば、どれだけ厳しい教育だったかが伺えるのだろうかな。

 それもあるが、私はそもそも守護者を求めて旅をしている身、そしてハオは研究者としてソーラレスに行く道中、ハオの両親がそうだったと言っていたが、それに従って言うのであれば「私との関係値は些事」と言い換えても良いのだろう、彼女からしても、私からしても、その感情は些事だ。

「先生、そろそろご飯を食べに行かない?」

「ふむ、そんな時間でしたか、行きましょうかね。」

「お茶は飲んでいく?」

「頂きましょう。」

 それをハオ自身が気付いているのか、それとも、単純に感謝の気持ちとして認識しているのか、それを聞いてしまったら、それを決定づけてしまうと感じた私は、それを聞かずにいた、所謂「勿体ぶり」な態度を取っている、と認識されてしまっても仕方が無いだろう、ただ、私はハオを守るという意味合いでも、深入りをしようとは思わなかった。


「先生、明日にはソーラレスについちゃうから、これ……。」

「これは、茶葉ですか?」

「うん、私のお気に入りなんだ、ノースディアンでも高級だ、って言われてる茶葉で……。だから、先生には助けてもらったし、その……。お礼!」

「……。ありがとうございます、私のような者に感謝をするとは、君も大概変わり者ですね。」

「そう、かな?」

 ハオに渡されたのは、香り高い茶葉だった、こういった品を渡すのは、ノースディアンでは友好の証だとか、そんな事を誰かが言っていた気がする、ノースディアンにおける「贈呈」とは、一定値以上の関係値の人間に渡すものなのだ、と。

 それだけの関係値だとハオは認識している、それはわかった、ただ、私がそれに応える事はない、私にとって、世界の滅びを防ぐこと以外は些事であって、そしてノイズでもある、私にとって、ハオとの関係値は心地良い事柄だった、数日間とはいえ、こういった素直で純真な子供と行動を共にした、それは心安らぐ出来事だった、ただ、今の私には生憎とそれに応えるだけの用意はない、それに応えたとしても、それは悲しみを産むだけだ。

 だから、私は鈍感なふりをする、贈呈品も、交友の証として受け取る、それがお互いの為だからだ。

「それで、この茶の淹れ方のコツはあるのでしょうか?良かったら、ハオの講義を聴きたいのですがね。」

「えっと、うん!これはね?」

 ハオは顔を赤らめながら、私に絶品なお茶の淹れ方を教えてくれる、それがココだけの関係値だったとしても、二度と会う事がない関係なのだとしても、それでも良いのだと、まるでそう言っているかの様に、ハオは饒舌だ。

 顔を赤らめている理由、がわからない程私は鈍感ではない、ただ、それを演じなければならない、ハオとの関係値、ここで終わってしまうであろう、私達にこれから縁はないのであろう、彼女が旅の学者であるのと、私が基本的に外国とのやり取りがない地域に居を構える事が重なって、それこそこれ以上の進展は見込めないであろう関係値、それでも良いのだ、それでも、意味はあるのだとハオが言っている気がした。


「それではハオ、御達者で。」

「うん。……。先生、きっと、頑張ってね。美咲さんから聞いたんだ、先生が旅してる理由。だから、きっと、世界を守ってね。」

「ハオ……。はい、君と私との約定です、きっと、世界を滅びの未来から救って見せると、私に何が出来て、ならば私に何が変えられるのか、その権利があるのか。それに関してはわかりませんが、約定です。」

 ソーラレス南の港、そこで私とハオの関係は終わりになる、はずだった。

 けれどけれども、何処で聞いたのか、はたまた興味本位で私の情報を得ようとしたのか、それとも想い人の動機を知っておきたかったという研究者体質故の判断だったのか、ハオは私の目的を知っていた、私が世界の滅びを予言して、それを何とかする為に、その未来を破却する為に動いていた事を、知っていたらしい。

 ただ、それを伝えるかどうかを悩んでいた、そんな所だろう、私の目的を知っているのは、美咲さんとディーさん、そしてテンペシア様を始めとした竜神様方、そして、私がこれから向かう紅麗山の麓の村の村長はじめ重役、程度だ。

 美咲さんとディーさんには流れで、テンペシア様と麓の村の村長には目的を明確に、私は伝えていた、それを美咲さんが話したという事は、美咲さんはある程度ハオを信頼している、という事になってくるだろう、でなければ、口の堅い彼女が秘め事を漏らすとは思えない、私がグランマリア号で旅を始めてから四十五年、諸々の地を巡って、その度に美咲さんと顔を合わせていたが、その事をフェルン側に密告しなかった、それだけでも美咲さんは信頼に値する、であるからして、美咲さんが信頼したハオ、と言うのは、信頼に値する、と私はあの時感じた。

「……。さようなら、先生。きっと、きっと。」

「はい、おさらばです、ハオ。」

 ハオは、荷物を馬車に乗せて、船を降りる。

 私はその様子を見守って、見送ってから、デッキに出て煙草の一服でもしようか、と考える、ハオがその言葉を伝えてきた意味、私がとぼけているのにも、もしかしたら気づいてたのかもしれない、それでも、私を信じてくれた意味、については熟考を重ねないといけないだろう、安易に結論を出していい問題ではない、私にとっても、ハオにとっても、それはいい結果をもたらさない、私はそう直感していた。

 ならば彼女の未来を視て、道行く場所で合流でもするか、とも考えてたが、私は死神、死を視る未来視の予言者、つまり、彼女の死にざまを予言する事は出来たとしても、彼女の生き様を予言する事は出来ない、彼女が生きた道、彼女が生きるべき道を、私は予言出来ないと感じていた。

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