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イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第四章・上陸、ワンダンズグル大陸編

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91・戦闘開始

なんとかワンダンズグル大陸への上陸を果たした5人に、早くも何者かからの攻撃が始まった――。


 ベルモット。シュルケン。巌流。ユルエ。そして難を乗り切った一二三。無事とはいえずともワンダンズグル大陸への上陸に成功した5人だった。

 いや、――。


「どくっぴ!」


 もう1匹がいた。



「おいテメエ、ユルエ! なんで海に捨ててこなかった!」


 ユルエへと寄り添うように立つ無邪気そうなマスコットモンスターを見て、真っ先にベルモットが飛びのいた。


「どくっぴはね、意外と軽いから。すっごく飛んだよ」

「そういう話じゃねえ! ったく。オッサン、それでここからはどこに向かって――」


 ベルモットが言いかけた瞬間、シュルケンが声を上げた。


「皆々様! 背を向けて円陣を組んでくだされ! なるべく小さく!」


 ひとり慌てるシュルケンに、巌流が睨みを利かせる。


「どうした。海風で揺れる木の枝にでも怯えたか」


 が、シュルケンは冷や汗をかきながら答えた。


「すでに囲まれているでござる。拙者としたことが不覚を取り申した」

「囲まれている? あちらの林に潜んでいるというのなら分かりもするが、背中は断崖の絶壁だぞ」


 5人はすでに警戒態勢に入っていたが、確かに巌流の言う通り、背後には闇に飲まれる波の音しか聞こえない。


「甘く見てはなりませぬ。敵は間違いなく手練(てだ)れの忍びたち。どれだけの絶壁であろうと海の上であろうと、油断はでき申さぬ相手。5‥‥‥いや、6人‥‥‥」


 緊迫したシュルケン言葉に、一二三は注意深く周囲の気配を読もうとした。しかし、暗く渦巻く雲の下では真っ黒に続く林しか見えない。見えない脅威が彼の神経を過敏にしてゆく。


 そこに鋭く、キキンッ! と金属のぶつかる音がした。一瞬だったが、それは複数の響きだった。


「ユルエ殿!」


 見れば、シュルケンはぼんやりと立っていたユルエの前へ立ちふさがり、両手にクナイを握っていた。両膝を軽く曲げて、両の腕を顔の前で組み重ねる。その構えと鋭い目つきは、まさしく戦闘態勢に入った忍者のそれだった。何かの攻撃に即座の対応を見せた訳だ。


「なんだシュルケン! 何が起こった!」


 こちらもやはり身構えるベルモットが、キョロキョロと周囲を見回しながら声を大きくした。右手の炎が消えているのは、格好の標的になるからとシュルケンがきつく口にしていたからだ。


「飛び道具。しかも真っ黒の――。ベル殿、もう遠慮はいりませぬ! ここら一帯に火を放ってはくださらぬか!」

「ここらってどこだ!」

「とにかく、手当たり次第でござる!」

「つって――こんなとこ、燃やすもんなんかねえぞ!」


 言いつつ、ベルモットは腰に下げていた皮袋に素早く手を突っ込んだ。


「くそったれが。こんなとこで使う予定はなかったんだぞ。おい! オッサン!」


 彼女は、巌流に威勢よく声をかけた。呼ばれた巌流は無言で、素早く動く。だが、手にしたのは刀ではなく酒瓶だ。そして、


「ベル、我慢しろ。上陸初戦のあとで一杯やろうと思っていた上等モノだったが――前祝いだ! ユルエ! 受け取れ!」


 なぜかユルエの名前を叫んだ。そして、言うが早いか、その酒瓶を背中へと放り投げた。

 ユルエは振り返りもせず、(ふところ)――かどこかは知らないが、取り出した直径50センチのフライパンを振りかぶると、


挿絵(By みてみん)


「神奈川県、女子フライパン競技・記録保持者(レコード・ホルダー)! 折原(おりはら)友梨絵(ユリエ)、参る! 折原流、『775・(ハンク)本塁打(アーロン)』!! なんちゃってー!!」


 酒瓶を打ち返すように空へと豪快なホームランを放った。当然、酒瓶は粉々に砕けて、中身がすべて上空に舞い散った。次を任されたのはシュルケンだ。


「ケンケン!」


 ユルエが声をかける。


主殿(あるじどの)! (つかまつ)った!」


 謎のやり取りに一歩も動けなかった一二三は立ち尽くすだけだ。その隣で、シュルケンが不思議な形で指先を組む。


寒氷(さむごおり)水遁術(すいとんじゅつ)の奥義、色即是空(しきそくぜくう)――」


 そう静かに唱えただけだったが、粉々に砕け散った酒瓶が舞い落ちる中で、一二三は異様なモノを(おぼろ)に見た。飛び散ったはずの酒が、無数の水滴になって空中でユラユラと浮いているのだ。


(なんだ‥‥‥なんだこれ。何が起こってるんだ)


 一二三にとっては何もかも理解のできない中で、巌流、ユルエ、シュルケンの連携が成されてゆく。


 極めつけがベルモットだった。

 彼女は手にしていた無数の粒を空へ撒いた。その粒と酒の水滴がそれぞれに混じり合い、ビー玉を思わせる紫色の玉となる。


「『包接(クラスレート・)水和(ハイドレート)』!」


 ベルモットが叫ぶと、紫糸のビー玉はぐんと膨れ上がった。


「仕上げに取っておけ! 極大錬金――演舞する炎!『赤竜の(ドラゴンズ・)感悦(プレジャー)』!!」


 掛け声と共に、大きく掲げたベルモットの指先が幾筋もの炎を吹いた。それは紫色の玉へと引火して立ち昇る炎の柱となる。あの河原のほとりで一二三も見惚れた光景だったが、その数が違う。

 真っ直ぐに空を目指す巨大な炎のドラゴンはいくつにも分かれてゆき、赤々とした炎は辺り一帯を照らし出す照明弾となった。燃え盛る巨大な竜の群れは消滅することなく、悠々と空を舞い続ける。


「とっておきで作っていた丸薬(がんやく)を、シュルケンが浮かせた酒に混ぜて調合と調整をした。いつものドラゴン花火よりは長生きするだろうぜ。あとは――」



 気がつけば、周囲では無数の金属音が鳴り響き続けている。飛び掛かるクナイを叩き落としているのは、巌流とシュルケンだ。ユルエは巨大フライパンを盾に身を隠している。



「ヒフミ! テメエだけボサッとしてんじゃねえぞ! 敵の姿は見えたか!」



 ベルモットの声に林を見れば、暗闇に隠れることもできなくなった黒装束たちが走り寄ってくる。その数は3人。


「は、はい! 見えました!」


 我に返った一二三が答える。しかし、どう動くべきかと思案する。相手は攪乱(かくらん)のため、右へ左へと陣形を変えながら突き進んでくる。


「ヒフミ殿! どうやら敵の飛び道具は数が尽きたようでござる! あとは肉弾戦となるでござるよ!」

「ヒフミン! ベルモっちはオッパイ大きくなっておねむの時間だから! ここは男を見せるのです!」


 ユルエの言葉のまま、ベルモットは極大錬金の代償で膝をついて今にも倒れそうだ。確かに自分だけが何もしない訳にもいかないと、一二三は迫りくる敵に向かって、ようやく竹刀を構えた。


 なのに、それを遮る者がいた。巌流だ。


「ヒフミ。お前は残れ。こいつらの相手は俺とシュルケンが引き受ける」

「そんな‥‥‥どうしてですか! 僕だって戦えます!」

「ベルとユルエを守ってやれと言ってるんだ。女を守るのも、剣士の大事な役目だ。分かったな」


(そんな‥‥‥。僕だけ残るなんて‥‥‥)


 困惑する一二三を置き去りにして、巌流は刀を抜いて走り出した。


「どおぉりゃあぁぁっ!!」


 勇猛果敢(ゆうもうかかん)。その雄たけびは戦国時代の勇ましき侍の背中となって遠ざかる。敵の攻撃手段がまだ未確定の中、(かぶと)甲冑(かっちゅう)もなく、雨ざらしの着流しに黒い羽織だけを肩に。自らが標的となり、すべてを引き受ける覚悟を見せた捨て身の戦法だ。一二三にとってはまだ到底たどり着けない憧れを見せながら、師は大刀を振りかざして敵の一人に斬りかかってゆく。


 そこに放たれる、ユルエの声。


「ヒフミン! 上!」


 上――。一二三が見上げるも遅く、すでにひとつの影が上空から刃を握って迫っていた。過敏になっていた意識が咄(とっさ)(かわ)したが、まずはその一撃を肩に受けた。


「ぐぅっ!」


 自分でも容易に分かる不覚を取った。取りはしたが、そこからは剣士の目に青白く闘志が宿った。道着と皮一枚を斬られた痛みも気にせず、ゆらりと立って見せる。


「沢渡一二三、参る!!」


 背を(かが)め、黒い頭巾の下で鋭く目を光らせる相手との距離は3メートル。突き付けた竹刀との距離だけで間合いを詰めて、二メートルほどには縮まる緊迫感。


 敵の獲物は刃物だ。まともに打ち合っていれば竹刀の方がダメになる。一二三に強いられる戦法は、相手の攻撃はすべて交わし、隙を見て渾身の牙突(がとつ)を打ち込むのみ。素早い動きの忍者に対して、勝率は高く見積もっても5%だった。


 だが――、


「ちぇぇい!!」


 一二三は無謀にも、眼前の敵へと詰め寄った。おそらく「間合いを計りつつ攻撃を繰り出そうという思惑」だった相手は、その無計画で単純な攻撃を恐れて後方へ跳ね飛ぶ。そして、一二三に何か策があると勘違いをしたのか、一瞬、次の攻め方を考える素振りを見せた。


 しかし一二三が止まらない。止められないのだ。


 先手必勝――。剣術の試合において長い時間の睨み合いは禁物だ。牽制と連撃を続けて、相手に「先の利」を与えない。「守りへと回る後の手」しか繰り出せない状態へ追い込む。

 部活時代ならば受け身に回ることの多かった消極的な戦法が、今この過酷な暗黒の地で、追い詰められる側から追い詰める側へと変化を遂げているのだ。

 彼に冒険活劇的なスキルが備わっているとすれば、それはただ、『成長』という名のスキルだ。場数を踏むほどに強くなる、それだけのものだった。



(逃げ回っているだけじゃ、ダメだ)



 一二三は攻撃の度に飛び跳ね回る相手へ、バカのように無謀な突進を続けた。左肩に感じる、痺れるような鋭い痛みも忘れていた。


 遠くでは剣を打ち合う音と、巌流の怒声だけが聞こえる。


またしても時間がかかりまして申し訳ありません。

なんだか月刊誌レベルになってますが。。


大陸上陸から先は『第二ステージ』として、作品を改めて開始しようとも思ったのですが。

せっかく読んでくださってる読者さんには不便だと思うので、このまま突っ切ります。


次も間は空くと思いますが、よろしくお願いします。

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