2話 今と前
部屋に戻り、しばらくたった頃。
シアンの魔力を感じたかと思うと、部屋に魔法陣が浮かび上がり、シアンが現れた。
「あれ、シアン、どうしたの?」
「……あの日、帰ってきてから様子がおかしいから、しばらく、待とうと思ってた。でも、そろそろいいだろ。……何があったんだよ。お前のことだから、あいつのことなんだろうけど。」
その言葉に俺は、少し、表情を崩した。
「君も君で、相変わらず察しがいいよね。もう少し、待ってくれてもよかったんじゃない?」
その問いに、シアンは、答えてはくれなかった。
「……アンサローム様。第二王子に加護を与えている、神に会った。」
「ああ、それは聞いた。」
「うん。……その時に、満月は、どこにいるのか教えて、って聞いたの。」
「…………」
シアンは、何も言わない。
私は、声を震わせながら、言葉を紡ぐ。
「……満月は、この世界には、いないんだって。」
自分で言いながら、自分で、声に出してしまうのも、言葉にしてしまうのも、とてつもなく、嫌だった。
認めたく、なかった。
「ずっと、死んで、転生してから、また君に出会ってから、この世界は、前の世界の続きなんだって、ずっと、思ってたんだ。」
言葉が、とめどなく溢れてくる。
「でも、違った。君はいても、満月はいない。」
「……シオン。」
「それでも、私は……」
「……リュシオン!!」
聞いたこともないくらい、鋭い、君の声が、部屋に響いた。
「もう、私を千夜とは、呼んでくれないんだね、惑星。」
君は、すこし、間を置いて、言った。
「お前は……千夜じゃない!俺だって、惑星じゃない!」
「今の俺とお前は、幼なじみじゃなくて、兄弟で、今のお前は、リュシオンは、満月に出会っていない。」
わかってる、わかってる。でも、それでも、俺は……
「あの時、千夜は、死んだんだ!恋人だった、満月を庇って。千夜の人生は、あの時、確かに終わったんだ。」
「それでも……それでも、私たちには、千夜として、惑星として、生きた記憶がある!それを、なかったことになんて、できない。君と、満月と、やり残したことが、いっぱいあるんだ。それを、諦めることなんて、私は……」
私の言葉を遮るように、君は、言った。
「そんなこと、わかってる!俺だって、お前がいきなり死んで、たくさんの日常も、約束もなくなって、諦められないものなんて、死ぬほどあるんだよ!」
「でも、俺たちは、生まれ変わって、新しい人生を生きてる。今の俺たちを、リュシオンとパーシアンという存在を、見ていてくれる人たちがいる。……だから、ちゃんと、前を向こう。前世に、区切りをつけて、一緒に、今を生きよう、シオン。」
……そっか。惑星も、一緒なんだ。
大切な人を失ったのも、大切な時間を、諦めきれないのも。
それでも、君は、前を向こうって、思えたんだね。
周りの、今の俺たちを、愛してくれる人たちに、気づけたんだよね。
顔を上げると、自分の目から、涙が溢れていることと、同時に、君の目にも、涙が浮かんでいることに、気づいた。
「……君は、変わらないな。いつも、俺たちより、周りを見ていて、いろんなことに気づいてる。」
満月に会えないのは、辛いけれど。前の、幸せな時間を、惜しまなくなるのは、怖いけれど。
「君に、シアンに、それだけ言わせたんだ。俺も、ちゃんと前を向かなきゃ。」
千夜の人生は、終わったんだ。
とっくに遅い自覚だけど。
「ちゃんと、リュシオンとして、生きるよ、この人生を。前の続きじゃなくて、今の俺として。」




