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 人魚型地球外生命体に海で溺れていた所を助けられて三日目、僕はマンションホムラの地下駐車場へやってきていた。

 クイーンとホムラしか住民のいないマンションだから地下駐車場もほぼもぬけの殻状態。

 ただ一台自己主張の激しい真っ赤なワンボックスカーが止まっているだけだ。


「おっはよう! リード君!」


 金髪小麦肌の女性が車の窓から身を乗り出してまるで小学生のように大きく手を振っている。

 昨日突然と出現した魔法少女……いや、年齢的はもう少女は使えないから、魔法使いの篠宮瑞希さんだ。

 小さく一礼するとワンボックスカーの方へ駆け寄ってホムラからの預かり物である黒縁眼鏡を彼女に手渡す。


「これが例の眼鏡だね。ふふ~~ん。どうかな、これでうちも賢く見えるかな?」

「………」

「ちょっとちょっと、どうして、そこで黙っちゃうのかな? まあ、うちの美貌の話は置いておいて、はいこれリード君にあげる」


 僕が渡した眼鏡のお礼とばかりに瑞希さんがポケットから取り出したスマホを僕に差し出してきた。


「スマホですか?」

「そうだよ。外侵対管理の携帯だよ。色々機能は制限しているし、お堅いうちの組織を象徴するように、勝手にアプリも落とせないちょー不便な仕様だけど、うちと何の通信手段がないよりはマシでしょう」


 自分のスマホは麒麟組に襲われ海に飛び込んだ時に壊れてしまっている。

 ただ両親には手紙で無事を伝えているし、友達つきあいが殆ど無かった僕にこれ以上連絡を取り合い相手もいない。今すぐにスマホが必要な状況じゃないけど、連絡手段があるに越したことはない。

 僕は瑞希さんに触れないように注意しながらスマホを受け取った。


「それじゃ、出発進行~~!」


 その後、やっぱり小学生みたいなかけ声を上げて、瑞希さんを載せたワンボックスカーはマンションホムラを出て行った。

 僕はすぐさまエレベータに乗り33階へ移動する。


『ご苦労様でした、純平様』


 労いの言葉を掛けてくれるホムラに頷きながら、僕はリビングルームに展開されている巨大スクリーンに目をやる。

 そこに映しだれているは先ほど瑞希さんに渡した眼鏡に仕込まれている小型カメラの映像だった。


「あ~テスト、テスト。どうかなリード君。映像と音声問題ないかな?」

「大丈夫みたいです。しっかり見えていますし、聞こえています。でも、そろそろ今回の目的を教えてくれませんか?」


 外的宇宙侵略者対策チームが何らかの理由で僕を必要としていることは分かっているのだけど、その理由を瑞希さんはまだしっかりと語っていない。

 クイーンもホムラも瑞希さんに関しては絶対の信用をしているようだから、悪い人じゃないのは間違えない。

 でも、性格がちょっと個性的な所があって底が知れない怖さも少しだけ感じている。


「目的ね。まだ認識できるか確証があるわけじゃないから、下手にリード君には言えないんだよね」

「僕に言えないですか?」

「そう、特にキミにはね。ねえ、リード君はさ、その手に他人の死期が読める不思議な力があるんだよね。そんなキミはうちと出会う前に魔法って信じていた?」


 昨夜、マンションホムラのリビングルームに突然と現れた瑞希さんを思い出す。

 あんな場所に突然と現れるなんて特殊能力以外の何者でもないし、その足下には確かに魔方陣が輝いていた。

 あれが魔法と言われれば信じるしかないけど、僕の他人の死期を色で読み取る力はあくまで未来予知のようなモノで既に決まっている先を他人より早く知ることが出来るに過ぎない。

 一方、瑞希さんの力はまるで物理干渉しているかのように、世界の理を変えている力だ。何も変えられない僕の無意味な力とは根底から異なっている。

 そんな力、言葉だけじゃ信じることは出来なかっただろう。


「信じていませんでしたね」

「だよね。だから、これからの事も言葉で教えても多分、信じることが出来ないと思うんだ。それにさ、こんな事態はうちも初めてなの。なんて説明すれば良いか上手い例えの言葉が出てこないんだよね。分かってもらうには直接見てもらうしかないって事なの」


 その後瑞希さんがハンドルを握るワンボックスカーはだんだんと僕の見慣れた道を走り始めていく。

 最初は半信半疑だったけど、この車が向かっている先はやっぱり僕の実家がある方向だ。

 子供の頃からなんども通ってきたた交通量の少ない景色が映し出されているスクリーンを眺めていると、今では少し珍しくなった霊柩車とすれ違った。

「ねえ、気づいた? 今すれ違った霊柩車、黒瀬 夕凜子ちゃんの遺骨が積まれているんだよ」

「え?」


 唐突に現れた幼なじみの名前に惚けた顔をしたのもつかの間、


「ちょっと視界がぶれるから気をつけてね」


 瑞希さんの号令にワンボックスカーは車体の向きを180度回転させると無理矢理反対車線に入り込んだ。


「どうして、瑞希さんが夕凜子の遺骨が入った霊柩車を知っているのですか?」

「それはね、外侵対が夕凜子ちゃんをとある理由で必要としていたからだね。でも、よろしくない事に彼女に目をつけていたのは、うちらだけじゃなかったんだよね」


 夕凜子の遺骨が入っていると言われる霊柩車を追いかけているけど、霊柩車と瑞希さんの運転するワンボックスカーの間には3台の黒いセダンが列を成して走っていた。

 最後尾にいるセダンのナンバープレートが勝手にズームアップされ、『検索完了しました。こちらのセダンは麒麟組が所有している車となります』とホムラからの情報が聞こえてきた。


「麒麟組?」


 夕凜子の死を受け入れずに一人黄昏れていた防波堤の情景が蘇ってくる。彫りの深い顔に、髪はオールバックで固めた男が突然と現れ僕に本物の銃口を向けてきたんだ。

 彼は他人の死期が色で分かる僕の能力を知った上で、僕に近づいてきて、この力を何かに利用しようとしていた。

 クイーンから聞いた話だと彼も麒麟組の一員であるとの事。僕を狙っていた麒麟組が今度は夕凜子の遺骨を狙っている。これは何が繋がっているの?


「お、流石ホムホム、仕事が早いね。そーいう事なの。報告書だとリード君も麒麟組に狙われたみたいだけど、それは多分余興みたいなもので、あいつらの本当の狙いは黒瀬 夕凜子ちゃんだったって訳なんだよ」

「どうして、夕凜子なの! 夕凜子は僕と違って特別な力は何もなかったはずだよ?」

「今はまだね。でも、あの子にはうちと同じような魔法少女になれるような素質があったんだよ。才能が開花するのが早ければ、運命も変わっていたかもしれないね」


 最後に夕凜子の手を握りしめた時に見たブラックホールをさらに塗りつぶしたかのような漆黒が脳裏に蘇ってくる。

 病院食も喉を通らずに、腕に刺さった管から栄養を補給していた幼なじみ。あの夕凜子が瑞希さんのような魔法少女としての素質を持っていた。


「今更、そんなこと言っても、夕凜子は、もう……!」

「そうだよね。みんなそう思っているし、その事実は変わらない。だから、遺骨をあんな奴らに渡すわけにはいかないよね」


 言うが早いか、瑞希さんは、ハンドルから手を離して素早く両手で印のようなものを切っていく。すると霊柩車とそれを追う黒いセダンの間に幅5メールほどの光の壁が現れ、三台の黒セダンは物理法則なんて一切無視して、それまでの走行速度がまるで嘘のように、まるでレコーダーで映像を一時停止させてたかのように急停止させられた。


「それじゃ、ちょっと挨拶してきますか」


 リビングルームの巨大スクリーンの先で瑞希さんが車を降りて、魔法で動きを封じたセダンに向かって歩いて行く。

 一方、一番後方にいた黒セダンからも後部座席ドアが開き、ストラップ柄のスーツを着こなした長身の男性が降りてくる。


「あいつは!?」


 その彫りの深い顔を僕は知っている。『本城 将成』スクリーンに彼の名前が映し出される。三日前に防波堤で僕に銃口を向けてきた張本人だ。


「おやおや、私達は何もしていませんが、外侵対の方が手を出してくるなんて、これはどういうことですかね?」


 本城将成は自らは無害ですと主張するかのように両手を拡げながら、瑞希さんとの距離を詰めていく。


「麒麟組は魔法少女の素質を持つ子を拉致して、良からぬ事をしようと考えてみたみたいだけど、遺骨には何の力もないからね。もう静かにあの子を眠らせてあげてくれないかな?」

「やっぱり、そういう話ですか。遺骨はこの後は燃やされただ無意味な灰になるだけ。これからゴミも当然のもになるのなら、私達が有効活用した方がよいとは思いませんか?」


 あいつは夕凜子の死をなんだって思っているんだ!

 身体の奥底から湧き上がってくるものを押さえ込むことが出来ず、気がついた時にはスクリーンに向かって叫んでいた。


「今の発言、取り消して、夕凜子に謝って!」

「リード君の心意気は素敵だけど、こんな事でキミなにかあったら、それこそ黒瀬夕凜子ちゃんが悲しんじゃうよ。だから、ここはお姉さんに任せて」


 僕の叫びは本城将成には届かなかった。通信機器を兼ねた眼鏡を通じて、瑞希さんの優しい声だけが返ってくる。


「ねえ、麒麟組は黒瀬夕凜子ちゃんから、そろそろ手を引いてくれないかな?」

「外侵対の命令に従ういわれは何処にもない。私達がいやだと言ったら、あたはどうするのですか?」

「うちは何も出来ないけど、夕凜子ちゃんの火葬が無事に終わるまで、麒麟組のみんなが謎の金縛りに襲われるんじゃないのかな~~」


 それは脅しだった。走行中の車ですら簡単に止めてしまう瑞希さんの力を持ってくれば、そこに居る彼ら麒麟組の動きを、魔法の力で封じることなど赤子の手をひねるようなものだろう。

 瑞希さんと対する本城将成もそれはよく分かっているようで、小さく息を吐き肩をすくめると黒塗りのセダンの方へきびすを返していった。


「ふん。今度は病気が完治するのを待つなんて事はせずに、覚醒していようがいまいが死ぬ前に勧誘しなければいけませんね」

「出来れば、ここいらで魔法少女の素質を持った子の拉致や、お水ちゃんの捕獲とか、もろもろ諦めてくれるとうちは嬉しいんだけどね」

「残念ながら、そうはいきませんよ。そういう特別な存在を我が物にしたいと願う強欲者は後を立たない。私達はそんな彼らの願いを叶えるただの仲介人なんですからね。止めて欲しければ、それは我々の顧客へ直接言ってください」

「は~い。だったら、その顧客リストが欲しいで~す」


 授業中に手を上げる小学生のように元気よく瑞希さんは進言したけど、本城将成はそんな彼女を無視してセダン車に乗り込む。

 3台のセダンは夕凜子の遺骨を乗せた霊柩車とは反対方向に走りさっていた。


「うむむむ、やっぱり企業秘密は教えてくれないか」


 残念とばかりに瑞希さんは呟きながら車内へと戻っていく。


「あいつらってどう見ても、悪い奴らですよね。瑞希さんの魔法があったら、なんとでもなるんじゃないですか?」

「いざとなったときに、やろうと思えば出来るよ。でも、相手は宇宙人じゃなくて同じ人間同士、外侵対は警察じゃないから直接的な被害が無い限りは無闇に麒麟組には手を出せないんだよね」


 麒麟組の車が去っていた方向を見ながら、瑞希さんは少し黄昏れているように囁いた。

 昨夜出会った時は殆ど感じられなかったけど、こんな一面を見るとこの人もなんだかんだ言っても29歳の大人なんだなって感じてしまう。


「あ、リード君今、失礼な事考えたでしょう?」

「いや、そんなことないですよ。瑞希さんも29歳の大人なんだなって思っただけです」

「う~~~、女の子の年齢考えるなんて、やっぱり失礼な事考えていたじゃん!」


 スクリーンに映しだされている画面には瑞希さんの顔は見えてこないけど、小麦色の頬をぷくと膨らませている姿が容易に想像ついた。


「さ、ちょっと寄り道しちゃったけど、本来の目的地に行きますか」

「え!? 麒麟組から、夕凜子の遺骨を守るのが目的じゃなかったんですか!?」

「いいや、ここで麒麟組とすれ違ったのは人払いをするためだよ。これから先の事を麒麟組に知られると、それはそれで厄介だからね」


 瑞希さんは無邪気にそう言うと、さも当たり前だとばかりに本来の目的地へ車を走らせた。

 最終目的地は僕にとって消して忘れることが出来ない場所。

 近郊では最も大きな病院で、屋上にはドクターヘリの発着可能なスペースまで有しているその場所で夕凜子が息を引きとめたのだから。


「待って下さい、瑞希さんの目的地って?」

「そうだよ。ユーリーが死んだ病院だよ」

「ユーリー………?」


 初めて出てきた単語を思わずオウム返ししてしまう。


「うん。黒瀬夕凜子ちゃんことだよ。ここまで来たら、もう猫をかぶる必要もないからね。堅苦しい呼び合いっこなんて無しだよ」

「ってことは、瑞希さんは生前に夕凜子と面識があったんですか?」


 僕の問いかけに対して、返ってきた瑞希さんの答えは日本語として不成立だった。


「ううん。うちらが初めて会ったのは、ユーリーが死んだ後だよ」


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