第4話 霧の城
霧の城に着くと、門の前にケルベロスがいた。
目線は俺と変わらないが、馬より一回りほど大きい。
「ゴブリンごときが何の用だ。目障りだ。去れ!」
「ごめんねえ。お兄ちゃん、冒険者に負けて以来、気が立っているの」
「兄貴ぃ、いでえ、いでえよー」
三つある頭がそれぞれしゃべった。兄姉弟だったのか。前に倒したときは、会話どころじゃなかったからな。エリーナが手をかざす。
「私が傷を治します。ヒール! ――どうですか? 痛みは?」
「小娘。ヒールごときで治る痛みではない」
「そんな言い方はやめてあげて。せっかく好意でしてくれたのに。でもね、お嬢ちゃん。ヒールじゃ呪いの痛みは解けないの」
「姉貴ぃ、いでえ、いでえよー」
「そうですか……」
俺は一番話のわかりそうな頭に聞いた。
「ここに配属になった。中に入りたい」
「あら、そうだったの。だったら、そこをずっといって右に曲がると裏口があるわ。魔物なら鍵を使わずに入れるから」
裏口なんてあったのか。前に来たときはケルベロスを倒した後、四天王に会うまでに城の中をずいぶん歩かされた。よくよく考えれば、中で働く魔物からすれば迷宮など不便極まりない。魔物用の通路があるほうが自然だろう。
門番も誰もいない裏口を開け、細い廊下を進んでいくと、部屋から灯りが漏れていた。
中をのぞくと、机が並べられており、スーツに似た制服を着たナーガたちが忙しく働いている。
「まるで冒険者ギルドの事務所みたいですね」
エリーナと言う通りだ。ナーガの下半身が蛇でなければ、ここが魔王軍の城かと疑っただろう。青い火の玉にナーガが話すと、火の玉が飛んでいった。あれは伝令役か?
緑色の巻き髪をしたナーガが書類の束を持ってやってきた。
「アンタ、新入り。いい男ねえ。人間のメスは差し入れかしら。いい心がけね。でもセンスがないわ。アタシたちの好物は美男子なのよ」
「良かったな。不味いらしいぞ。食われる心配は無い」
「不味いなんて言ってないじゃないですか! 安心しましたけど、何か複雑な気持ちです……」
「カールという人間にここへ行けと言われた」
「人間に?」
ナーガが意味深な表情を浮かべる。
「たぶん、極秘案件ね。ボスの部屋まで案内するわ。ついてきなさい」
階段を上りながら、エリーナが不安な目で見つめてくる。
「ボスって、とても恐ろしい方なんでしょうね」
「恐ろしくても今は味方だ。とりあえず嫌なやつでなければいい」
豪華な観音扉をノックをすると、勝手に両扉が開いた。
部屋の奥で、オーク製の大机にひじをついて座っていた魔物が立ち上がる。
「緑の肌がお似合じゃない。カゲト」
カツ、カツとヒールの音を立てながら、魔物が近づいてくる。
フードを被ってはいるが顔には見覚えがあった。こいつは――。
「四天王・メデューサ! お前は俺が倒した――」
メデューサが俺の目の前に立つ。
「ええ。あなたが倒した。メ・デュ・ウ・サ・です! どうぞ、よろしく」