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△△歳のキツネ。流罪になる。  作者: neluasob


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プロローグ

 世界が二つに分割されたことを今初めて知った。

 僕たち妖怪の世界と、人間の世界。

 妖狐の感覚で言うと、つい最近まではお互い仲良くやっていたというのに、一体全体何が起きたのだろう。


 「弁明はあるか?」


 久しぶりに対面した三男は全く変わっていなかった。

 そして他六匹の弟達も同様だ。

 僕は周囲を包囲され、完全に逃げ場を失っていた。

 

 「ひ、久しいな…」


 尻尾の付け根あたりがむず痒くて落ち着かない。

 顔が引きつっているのは自分でもわかる。

 周囲を取り囲んでいる七匹の弟たちは、無言で僕のことを睨んでいた。

 冷汗が止まらなかった。

 

 「あのー。ところで兄さんはどこに?」


 おかしい。

 記憶が正しければ、僕には唯一の兄が存在したはずだ。

 てっきりこの問いも黙殺されるのかと思っていたが、僕は驚愕することになる。

 返事があったから驚いたわけではない、三男の発した内容が問題だった。

 

 「死んだぞ。百年前の全面戦争で」


 僅かな間、僕の思考はフリーズした。 

 

 嘘だ。

 そんなはずはない…。

 兄は武術の天才だ。

 人間を殺すことを生きがいにしているアイツが死んだ…?


 俄かには信じがたい話だ。


 「動揺してるな。まぁそれも当然のことだ。貴様がいたら結果は変わってた。見殺しにしたようなものだな」


 別にアイツのことはどうでもいい。

 兄とは違って僕は人間が好きだ。

 趣味も思想も合わなかった僕たちに親しい感情など何一つとしてない。


 「どうして戦争に参加しなかった!?貴様が来ていれば兄が死ぬことはなかったんだぞッ!!」

 「人間と戦って何になるんだよ」

 「奴らは我々の土地を奪おうとする欲深い種族。だから根絶やしにしてやったんだ。奪われる前に奪い返すんだ」

 「人間にだっていい奴はいるぞ」


 僕の脳裏にとある人物のシルエットが浮かび上がる。

 彼、あるいは彼女はシニカルな笑みを浮かべていた。

 もう何年も前のことだ。

 今となっては顔すら思い出せないが、その人間と僕はとても親しかった。

 

 「正気か!?貴様まさか戦争に参加せずに引きこもっていた理由って…」

 「人間と戦いたくないからだ」

 

 僕の答えに対し弟たちの視線が一層鋭くなったことを肌で感じた。

 周囲が殺気に包まれる。

 僕は自分の失言にようやく気が付いたが、時すでに遅かった。


 「おい。やはりコイツはダメだ。思考が完全に毒されている!」

 「僕から見たらお前たちのほうが人間よりも強欲だけどな」


 空気が凍った。

 しかし、僕の舌は止まらない。


 「戦争は終わったんだろ?戦う準備なんて必要ないじゃないか」

 

 もうやけくそだった。

 今更手遅れなのだし、最後ぐらい言いたいことを言わせてもらおうじゃないか。


 「貴様は大きな勘違いをしている。長男は死んだ。ならば次男である貴様を探し出し、我々の長にする必要がある」 

 「はぁ!?それ僕じゃなくてもいいだろ!僕は権力なんかに興味はないぞ」 

 「我々を汚らわしい人間なんかと一緒にするな!貴様を長にしようとしたのは、それが一番合理的だからだ。貴様がこの中で一番強く、群れをうまくまとめられるからだ」


 そんな風に思われていたとは知りもしなかった。

 確かに、僕はこの中で一番強い。

 しかし、それは僕が特別な存在だからではなく、次男だからだ。

 僕が強いのは、この中で一番年上だから。

 理由はただそれだけだ。


 「誰かを取り仕切るのは得意じゃない」

 「安心しろ。もうそのつもりはない。」

 「え?」

 

 三男が放った一言は僕の思考を凍り付かせた。

 

 「僕を長にするためにここまで連れてきたんじゃないのか?」

 「本来の目的はそうだった。だが、現状を見るに、貴様はこの数約百年で随分と堕落したみたいだ」


 初めて三男と目が合った。

 引き込まれそうなほどの闇が、その瞳には宿っていた。


 「特に、人間の肩を持つような発言は許容できるものじゃない。貴様は人間の傲慢さを理解してない」


 七匹だった妖狐が七人になった。

 僕たちは人と狐、両方の姿になることができる妖怪だ。 

 僕を取り囲む七人の妖狐たちが、じりじりと距離を縮めてきた。


 「な、なんだよ!?僕に何をするつもりなんだッ!?」

 

 空気が震えた。

 地面からエネルギーが立ち込め、紋様が浮かび上がる。

 間違いない、何らかの術が発動している!?

 

 「貴様の堕落したその姿は実に残念だが、半ば予想はしていた。だから事前に我々で話し合っておいた」

 「な、なにをだよ!?」

  

 僕は咄嗟に逃げようとした。

 しかし体がやけに重い。

 数百年間も寝ていた応報だろうか?

 それとも妖術の効力?

 わからない…。でもこれじゃあ逃げられない。


 「なぁに、たかだか百年。その程度の時間なら一瞬だろう?」

 「百年!?そんなに短いのか!?」


 妖狐の寿命は無限。

 百年など寝れば一瞬で終わってしまう。

 これが罰?

 いや。そんなわけがない。

 

 「これから約百年。貴様は人間としての一生を過ごすこととなる」

 「はぁッ!?どういう意味だよッ!?」

 「一族の間で代々伝わる罰。流罪だよ。貴様は」


 は……?

 …なにを言っているんだ…?


 「その間。人間はいかに弱く、いかに愚かな下等種族なのかを存分に体験してくるといい。そうすれば、人間に対しての考えも幾分かマシなものになるだろう。たかだか百年。すぐ終わることさ」

 

 魔方陣が眩く光った。

 次第に意識が遠のいていく。


 「何か最後に言い残すことは?」

 「ふざけんな…ちゃんと説明しろ…」


 えらそうな態度の三男。一言も発さず、達観したような表情で僕の処遇を高みから見物している弟たち。

 そのすべてにイラつき、不満が燻りだす。


 「説明?あぁ…それなら一つ助言をくれてやろう」


 意識を保つのがやっとだった。

 全身が浮遊感に包まれるかのような感覚がした。


 「これから貴様の魂は、人間の稚児の体へと転生することだろう。安心しろ、貴様の肉体は我々が管理しておく。それと自殺しようなどとは考えるなよ?貴様が元の妖狐へと戻れるのは天寿を全うしたときだけだ。せいぜい励むがいい」

 

 その言葉を最後に、僕の意識は完全に途絶えた。

 

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