Part 3
ショップ「グリモアのアトリエ」、アルビオン 2013年1月8日 1:45
「それで、君は彼女をバビロニア王国に紹介しようとして、うっかり秘密取引に巻き込まれて、彼女と君の命を危うく失うところだったんだね」ジェラールは事の顛末を説明した。
「ああ…ありがとう…」カイルはジェラールの要約に同意し、温かいチョコレートドリンクをくれたジェラールに感謝した。
キアは言い返せなかった…いや、今のカイルの窮状など想像もできなかった…結局のところ、彼女は他の王国に戦争を始める口実を与えてしまったのだ。
「大丈夫か? 俺よりひどい顔色だ」カイルは幼馴染を慰めようとした。それがきっかけとなり、この些細な心配がキアをやっと笑顔にさせた。
「でも、まさか君たちがジェイドの住人だとは思わなかったよ…」
「ふむ…?」二人は顔を見合わせて笑い、ジェラールは誇らしげに胸をカイルに見せた。そこには「魔法によって生まれた地」の紋章、「神秘にして神秘の竜 冠月」の刻印があった。 「偉大な剣によって築かれた王国」
カイルは驚きのあまり口を開けるしかなかった。それからキアの胸元に視線を移そうとしたが…そこに見えたのは、左手で胸を覆い隠した彼女の右拳だけだった…
まさか。二人の友人が真夜中の会衆の一員だということだけでも驚きだったが、まさか二人が最強と謳われる王国、アルビオンの住人だとは…と、カイルはなおさら驚いた。
「では、さっきの君の救出は…」
…
カイルはキアに過去の惨劇を思い出させなければならなかった…彼女は再び暗い表情になり始めた。「あれをやっちゃいけなかった」「あれをやっちゃいけなかった」などと、あれこれ考え込んでいるようだった。しかし、エリザが物のように扱われているのが気に入らなかった。
「君は正しいことをした…」ドアから声が聞こえた。
それはジェラールとキアの国境警備隊のリーダー、エースの声だった。アルビオン城への報告を終えて戻ってきました。
「もしそうしなかったら、騎士たちの誇りを汚したことになる。別の部隊に送り込んでいただろう。」
エース・C・ブラッドフォルト。他王国からの侵略軍と戦う国境警備隊を率いる青年。若く見えるが、白髪が混じり、茶色の瞳は若々しい輝きを放っているものの、言葉遣いは老人のそれだ。しかし、キアとジェラードにとっては、そんなことは問題ではなかった。彼は彼女たちの誇りであり、唯一のリーダーなのだ。
キアはまるで世界が許してくれたかのように…いや、自分自身を許してくれたかのように微笑んだ。彼女はため息をつき、元気づけるように頬を叩いた。(女の子って本当に素晴らしい生き物だ)
ジェラードとカイルは、いつものキアが元の姿に戻ったのを見て、嬉しくなった。
「これから忙しくなるぞ」エースは口調を変え、部屋の中にいる人々に事態の深刻さを強く訴えた。 「この瞬間から、ウルク王国とジェード帝国からの攻撃は避けられない。我々はジェード帝国との国境警備を任され、十三花が援軍として派遣される。」
「……あの少女たちだ。」ジェラールとキアは驚きの声を上げた。十三花――アルビオン王直属の騎士――が彼女たちの援護を務めるとは、二人にとってこれ以上ない衝撃だった。
他国出身のカイルは、三人の騎士たちが交わす専門用語を理解できなかったが、昨夜の密会で聞いた話から、戦争はまさに始まり、舞台は新たな局面へと移ったと確信していた。
もちろん、エースは、まだ同じ部屋にいたバビロニアの少年と、彼女と二人で持ち込んだ事情を忘れていなかった。彼は少年に、これから起こることの概略を伝えた。
「エリザ、その少女は、ここアルビオンで安全に保護されるだろう。誰も彼女に触れることはできないだろう」エースはカイルという名の少年にそう保証し、彼女を全力で守ると誓った。
「だが、お前はバビロニアの住人として、王国へ連れ戻されるだろう」
「いや…」カイルが連れてきた少女、イライザだった。王国については少ししか知らないが、悪い人を見抜く力を持っている。そして、もしカイルがそこに戻れば、あの会議にいた人たちもその一人になるだろう…
キアも心配そうにカイルの背中に寄り添い、ジェラルドは親指を噛むことしかできなかった。
「心配するな」エースは再び4人に安心させるような笑みを向けた。「カイルはアルビオンに『非常に貴重な情報』を与えた。バビロニアは絶対にそれを確認してはならない」
常に天才を自認するジェラルドは、チームリーダーのエースの言葉の裏にある言葉を分析して…
「つまり、情報を提供した者に何かすれば…」
「…情報の信憑性が証明され、アルビオンや他の王国に介入する口実を与えれば、戦争は一時的にでも食い止められるかもしれない…」3人は希望に燃え、カイルは安堵のため息をついた。
「だがもちろん、それが君の命が危険にさらされているという事実に変わりはない…」エースは保険としてカイルに一枚の紙と紋章を渡した。その紙の中身はエースとカイルだけが知っている。
「君はそこに戻るだろうが、一人ではない…」エースはカイルに差し出したもう一つの物…紋章を指差した。
後にカイルは、その紋章が真夜中の会衆で最も恐れられる男、二つ名「死の使者」の守護の印であることを知る。




