第012話 回避盾は隠した名とともに
我原の一家はみんな運がいい。
それは俺を除いてだ。
その最たるものは姉だった。
例えば、簡単なテストの四択問題なら問題を見るまでもない。
仕事でも急遽降ってきた案件を担当することになったり。
まぁ、数え上げたらきりがない。
ゲームだってもそうだ。
剣を振ればクリティカル連発だし、カジノゲームなら大穴が降り注ぐ。
そんな姉を横目で生きた俺はちょっとした意地を持つようになった。
例えばテストなら、実力で全問正解すれば、結果は同じだろう。
仕事でなら積み重ねた信頼で案件を勝ち取れば、結果は同じじゃないだろうか。
ゲームだってそうだ。
プレイヤースキルや装備で殲滅速度をあげれば、カジノなら大穴じゃなくても小さな勝ちを積み重ねて結果同じ金額を出せればいいのだ。
そう。
実力で運と同じ結果を無理やり引っ張ってきたらそれは運に勝ったといっていいのじゃないだろうか。
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「見せてやる! 回避盾の真骨頂だ!」
落ちてくる針を紙一重で避ける。
これはスキルでも何でもない。
地面を強く踏みしめ、大きく横に飛ぶ。
その数瞬後、空から降り注ぐ針が俺のいたところに落ちる。
が、すでに俺はそこにいない。
右に、左に。
地面を蹴りながら素早く移動する。
避けきれない針は両手にある短剣で切り落とす。
「すごい……何あれ、なんていうスキル?」
「たぶんですけど、あれスキルじゃないです」
「コトハちゃん、分かるの?」
「母が言っていました。
おじさんは凄い人だって」
「いや、凄いって言っても……いくらゲームでも……
あの量をスキルなしで回避しているっての?
そんなの芸当できるのあの人くらいじゃないと……」
「あの人?」
「うん、ベータテスト時代に、現れた回避盾専門の人で、
その名も≪踊る――」
「その名を呼ぶな!!!!」
俺は思わず叫んだ。
ピティが俺のベータ時代の名前を呼びそうになった。
一瞬、集中が解け、顔のわずかそばを針が通る。
「殺される! それ知られると、俺殺されるから!」
教育上よろしくないと姉に封印されたのだ。
ばれたら姉に何されるかわからない。
姉は手加減がないんだ。
「よし、コトハちゃん、私行くから回復お願いね!」
「はい」
ピティがコトハから離れると大きなハンマーを担いだ。
「鍛冶屋のSTRってのを見せてあげるわ!」
ピティがハンマーを振りかぶってトータスコータスに向かう。
いくつか迎撃針がピティにささるが、コトハがワイドヒールで一瞬で回復する。
「てえややあぁぁ!」
ピティの一撃がトータスコータスの体力を大きく削る。
「もう一丁!」
再度振り上げもう一度叩きつける。
たった二撃で、トータスコータスの体力が半分になった。
その瞬間、トータスコータスの甲羅が赤く変化した。
「ピティ、急げ! 硬質化が始まったぞ!」
「任せて! トールストライク!!!!」
ピティが飛び上がってハンマーを振り下ろした。
が、ガンッと硬い音がしてトータスコータスの体力はほとんど減らなかった。
「くそっ、ここまで硬くなるのか。
ピティ、一旦引け!」
俺の声にピティが慌てて距離をとる。
与えたダメージによって防御力が上がる。
トータスコータスの特性だ。
トータスコータスの首がゆっくりと甲羅の中に隠れていく。
それと同時に、半分まで削った体力が全快近くまで回復していく。
「あぁ、せっかく、私が削ったのに」
「トータスコータスは持久戦になるからな。
本当は準備して戦う相手だが……」
アイテム採集メインだったため、用意があまりできていない。
「俺が削れるところまで削るから、何かあったらフォロー頼む」
「おじさん、攻撃できるんですか?」
「まぁ、任せろ」
俺は針を避けると、トータスコータスの方に飛び込んだ。
「あれがベータのあの人なら、たぶん、大丈夫なはず」
「ベータ時代のおじさんはどんな人なんですか?」
「有名だよ。
単身ソロプレイで攻撃を回避しながらモンスターを撃破していくんだけど、
そのスタイルで結構議論を呼んでね」
「議論ですか?」
「うん、ダメージや回避速度から極振りだろうって予想されていたんだけど。
ダメージ的にはSTR極振りに見えるけど、回避速度的にAGIの極振りにも見える。
彼はどっちなんだっていう話」
「ピティさんはどっちだと思います?」
「STRは武器である程度補正かけられるから、AGIかなって思ったけど、
あの針をプレイヤースキルのみで避けてるってのを目の前で見てたら、もうどんなパラメータしてるのかわかんないね」
「そうなんですね。やっぱりおじさんは凄いですね」
「ははは」
ピティとコトハが後ろで見守っている中、ミヤコの集中力は極限まで高まっていた。
トータスコータスに近くまで飛び込んだところで、トータスコータスがその場で回り始めた。
ただ回るだけなら良かったが、時折その甲羅の棘が伸びたり縮んだりする。
後ろから飛ぶ針、前は伸び縮みする針。
周囲すべてに注意を払いながら短剣を振るう。
最初の一撃は、トータスコータスの防御力が上回りダメージが与えられなかった。
が、次の二撃目はこちらの攻撃力が上回って、ダメージを与えられた。
すると、トータスコータスの防御力がまた上がり、三撃目はトータスコータスの防御力が上回った。
だが、四撃目はこちらが上回った。
スキル:剣の舞。
回避すれば回避するほど攻撃力が上昇する。
AGIに極振った火力不足を補う俺の重要なスキルだ。
ただし、一度でも攻撃を受けるか舞を止めると上昇した攻撃力はなくなる。
ただ攻撃を避けるだけじゃない。
剣の舞を維持するための特定のステップを踏み続ける。
「俺の剣の舞とそっちの硬質化。
どっちが先に限界を迎えるか。我慢比べだ!」
回避と連撃。硬質化と自動回復。
減っては増え、増えては減ってを繰り返すトータスコータスの体力。
突如、俺の目の前にスキル取得のウィンドウが現れた。
『スキル:覚悟完了を取得しました。』
スキル:覚悟完了
取得条件:即死級ダメージを連続100回。累積1000回回避し続ける
効果:デスペナルティが10倍となる代わりに、STR、AGIが大幅増
「即死級って……あれか≪紙の命≫のせいか」
被ダメ2倍の≪紙の命≫というデメリットスキル。
これのおかげで、ちょっとした攻撃がすべて即死級に早変わりだ。
デスペナルティが10倍になるのは正直きついが、逆を言えば、死ななければそのデメリットはないに等しい。
スキル名ではないが、死なずに倒す覚悟はできた。
減ったは増え、増えては減ってを繰り返すトータスコータスの体力が徐々に減り始めた。
「スキル≪影分身≫!」
俺と全く同じ分身がすぐ横に現れた。
スキル≪影分身≫
本体と同じようにスキルを使用できる分身だ。
通常は攻撃に使い、ダメージ上昇を狙うが、俺は違う。
「スキル≪剣の舞≫! これで攻撃上昇率が2倍だ!」
影分身を使った≪剣の舞≫併用の二重連撃。
トータスコータスの体力があっという間に削れていった。
「これでラストだ!」
最後の一撃を打ち込むとトータスコータスは大きな声を上げて地面に倒れた。




