八話:水落石出・前 気の迷い
珍しく璃君が話すから、余計な事を言ってしまった。そもそも彼の弱みを知ったところで、一瞬気分が良いだけだ。
織実は、ついっと視線を逸らした。
「お昼の支度、しよ〜かな〜」
不毛な会話で、身を削っても仕方ない。撤退も戦略の内なのだ。書庫から逃げるように出てくると、続き間を足早に横切っていく。
そうは言っても、昼時はとうに過ぎているから、作るなら軽い物が良いだろう。薬のせいか、空腹をあまり感じない。しかし、それと飯抜きは別問題だ。
「何がいいか…………」
正房の外に出てくると、天気は相変わらず良好だった。日もまだ高く、満月も空の真上に浮いている。ふと、裏山の異常な寒さを思い出し、腕を擦ってしまった。
「寒いのか?」
ぎょっと振り向くと、何故か璃君も正房から出てくるではないか。家屋調査もしたいのに、一緒なのは問題だ。若作りな上、年齢不詳。冷たく整ったその顔で叱られるのは、流石に怖いし、ちょっと堪える。水切りを始めた責任は取るつもりだが、キレた璃君がやって来るのと、隣でキレられるのでは、話が違う。
「裏山は、寒かったなぁ〜って」
「食草は無かった筈だ」
「無かったです」
せっかく登ったのに、山の幸は皆無であった。その点については残念だ。代わりに、見た事もない草や花が生えていた。
「氷室は此方だ。来なさい」
「え」
相変わらず、返事も聞かずに歩きだす。付いて来るのが当たり前のような態度だ。何時か、振り返ったら居ませんでした、というドッキリを味あわせたい。
後が怖いからしないけど。
しかし氷室か。これ以上、璃君が変になったら、取り返しが付かない。即座に、白慈を巻き込もうかと考える。三倍くらいは、優しくなっても良いだろう。それもそれで後が怖いが。
というか璃君に、自覚は有るのだろうか? いやまて、有ると言われても、全く責任が取れない!
「樒」
「はっ、はーい!」
呼ばれて駆け寄る。歩幅の違いは、通常通り考慮されないようである。まだ救いはありそうだ。余計な事は言うまい。
「何を作る?」
「軽い感じで」
「軽いとは?」
「うーん…………芋でも蒸します!」
「芋か。南瓜にしなさい」
「は?」
まさか、食べたいのだろうか。南瓜は、やや火が通りにくい。何と言っても皮が硬いのだ。物騒な中華包丁はよく切れるが、面取りついでに指まで取れてはシャレにならない。野菜の変更がしたくなる。
「あのー、南瓜、好きなんですか?」
「種が欲しい」
「タネ…………?」
野菜の変更は難しそうだ。半分にぶった切ってワタを出し、そのまま蒸してしまおう。三十分もあれば、火は通るハズ。邪道だけれど、熱の通りを良くする為に、塩でも振ってしまおうか。
幸い、朱鬼とミカンは、そこまで味に煩くない。
その点は助かっているのだけれど…………璃君はどうか。そもそも、霧とか霞を食べている場面すら見た事がない。茶は飲むが。水なら何でも良いのだろうか?
南瓜を小脇に抱える璃君の後を、織実は早足で付いて行く。種を渡したら、すぐに帰ってくれるだろうか。いや無いな。今までの彼なら、持って来いの一言だ。それが無いのだから、居座られる気がする。
やはり南瓜が好きなのか。塩をかけたら怒ったりして? うう〜ん、と声を出して唸ってしまい、先行く璃君が立ち止まる。
「どうした?」
そもそも、悩むなんて時間の無駄だ。本人は目の前に居るのだし、いっそ聞いてしまおう。今日は多分、機嫌がいいようだ。今のところは。
「南瓜に塩って、どうですか?」
「味は好きにするといい」
「そうですか」
そんなに種が欲しいのか。ちょっと微妙な気分になってくる。というか、仙人が欲しがる種って、どうなのだろう? 俗世に行けるのなら、種も苗も選び放題では?
まさか、普通の南瓜ではない?
気付いて衝撃が走る。いくら環境が俗世に近くても、品種まで近いとは限らない。種が欲しいなんて、明らかに変だ。
厨房で南瓜を蒸し始めたら、織実は適当な言い訳をして白慈のもとに走った。
調合部屋に駆け込むと、彼は何時も通り、怪しげな色の胡麻油を加熱していた。
「白慈助けて。璃君が、氷室野菜を食べたがってる!」
「問題は無かった筈ですが?」
そうなのだが、絶対に何かおかしい。あの璃君が、南瓜を持って歩いている時点で、既に大事だ。これ以上はヤバいと、警鐘が鳴る。
「一緒に来て!」
「嫌です」
「そこを何とか!」
手を合わせて頼み込む。黄色に透けた瞳から、すとんと温度が抜け落ちた。
「行きません」
「なんでー!」
織実は引かない。仙境で凄まれたら怖い人の頂点は、璃君だ。その人に、家屋破損で怒られる未来が確定しているのだから、ある意味怖いものナシだった。地雷なんて、何度でも踏めそうな勢いだ。
「一緒に来て〜っ!」
「しつこい!」
「知ってる! でも来て!」
「何故僕がッ!」
声を荒げた彼は、炭火を落として席を立つ。そのまま無言で、戸口に向かって織実を押した。力では全く敵わない。
「白慈〜っ!」
「璃君と仲睦まじくする事の、何に不満があるのです!?」
「なっ、仲睦まじいって、なんなのよ!? 変な妄想はヤメて!!」
まさか璃君が好き過ぎて、そんな妄想に至るとは。信者怖い。行き過ぎた敬愛で疎まれるなんて、いい迷惑だ。
「そういうのは白慈に譲る! 妄想ごと持ってって!」
「ゆっ、ゆずっ!?」
何故か、白慈はひどく狼狽えた。その隙に、背後に回って押し歩く。
「なんて事を言うのです! 月帝のお決めになった事を」
「恨みしかない!」
「無礼な…………!」
一応、怖い神様と聞いたから、文句を口から出さないだけだ。織実にとって、感謝など欠片も有りはしない。グッと、肩を白慈に押し返される。
「離しなさい!」
「今日は、南瓜食べるまで、絶対に、イヤ!」
負けじと織実は、目の前の腹に手をついた。肘を入れ、鳩尾に容赦なく体重をかける。
「ッ樒!」
「今日はっ、引かない〜っ、から!」
「貴女に引いた例など、ないでしょう!」
暫く押し合っていると、ミカンが時間だと呼びに来てしまった。屋敷が広いせいで、移動に時間を取られてしまう。
「白慈連れてくの、手伝って!」
駄目もとで言うと、ミカンは喜んで白慈の頭に飛び乗った。
「いけー! 進めー! そーれそれ!」
そう言ってクルクル踊りだす。味方にダメージが入るヤツ!
「僕に構うな!」
「今日は無理!」
「かぼちゃ! かぼちゃ!」
「何をしているのだ、其方達」
璃君の登場で、白慈の意思がポキリと折れた。こちらにまで「火元から離れぬように」と、小言が飛んでくる。適当に返事をした織実は、一行を先導して正房前を通り、厨房に向かった。
行きに抜かりなく、被害を調べた安全経路だ。
置いていった朱鬼には、かなり嫌味と泣き言を言われたけれど、また裏山に行く事で話を付ける。石の水切り、今度は森に向かってしなくては。それから魚屋のじいさんに、防寒具の事を聞いてみよう。
そんな現実逃避をしている内に、アフタヌーン南瓜パーティーは、無事にお開きとなったのだった。
問題の食後なのたが、変化はびっくりする程何もない。むしろ白慈の好感度は、ただ下がったように思われる。当然の結果なので後悔はない。
「これで安心して、氷室使えるー!」
そんな安堵に喜んだのも束の間。ミカンと屋敷の被害捜索をしていた織実は、表情をなく無くした白慈から「主共々、夜もお邪魔致します」という、嬉しくない申し出を受けるのだった。
朝の登山に、ダッシュで下山。屋敷の被害調査に急遽五人前の夕食と、珍しくハードな一日を過ごした織実は、早めに身支度をして部屋に引っ込んでいた。
寝間着にしている白い浴衣のような着物で、ごろんと寝台にひっくり返る。足が筋肉痛になると思っていたのに、痛くも成らず、怠さもない。
仙人の身体とは、どうなっているのだろう。しかし確かに疲れたようで、気付くと眠っていたようだ。
「樒」
低い声に呼び起こされる。目を開くと寝台脇の卓で、薬湯が白く湯気を上げていた。すぐさま寝直したくなるが、視線を動かすと足下の方、寝台の上に璃君は腰を降ろして待っている。
「夜の薬だ」
一回くらいは、サボらせて欲しい。そう思ったが、早くお帰り頂く為に身を起こす。肩から滑り落ちたのは、水色の…………璃君の背子だ。
「着ていなさい」
彼はやや諦めた口調で言ってから、卓の薬湯を取りに行く。白い寝間着は、仙境の住人が満場一致で、下着と称するものだ。これの下にまだ着ている物がある為、織実にはその感覚が分からない。分からないが、仙境は朝に向かって冷えるので、羽織って損はなかった。
「失礼を承知で伺いますが…………もう少し美味しくなりません?」
「まともな部類だ、飲みなさい」
「うぐ…………」
今日も懲りずに抵抗したが、あえなく瞬殺される。仕方なく薬湯を喉に流し込み、続いて水も飲み干した。一気飲みだけは、上達したような気がする。
「其方、今日は何をしていた?」
「何って、なんです?」
唐突に聞かれて、噎せるかと思った。ぎこちく笑顔を貼り付けて、まずは、しらばっくれてみる。家屋破損は、まだバレていないと思いたい。
「白慈に、使いをさせた様だが?」
「あー、それは…………」
一瞬迷ったが、今日の行動を追求されるよりは、璃君の行動を追求したい。織実は別方向に腹を括った。
「そのですね? 最近、以前にも増して過保護というか、気に掛けて頂いている、というか…………璃君に、変な物でも食べさせたのかなって、思いまして」
「何故、私に聞かぬのだ」
「…………勇気がなくて」
真面目な顔で言い返されて、つい本音を言ってしまった。仕方なく面倒を見ている風だったのが、気になって面倒を見ている、になれば、流石に突っ込んで聞きにくい。
祖母家庭で育った為、父親という存在も疎遠なのだ。万が一、璃君に父親ぶられていても…………気付かないし、知りたくもない。実父と混ぜ合わせて、八つ当たりしてしまいそうだ。
「成程。望むならば答えるが、其方が望む答えでは無いだろう」
答えてくれるあたり、明確な理由があるのだろう。気になるが、とても怖い。うわ〜っと頭を抱えてから、織実は白慈の報告を思い出す。
「あたしの予想では、料理を差し上げてから、変わったように思ってまして…………氷室野菜なのかなって、白慈に他の仙境を調べて貰いました。杞憂だったんですけど」
「そうか」
璃君は少し、考える様子で窓の外を見ていた。感情の薄い横顔は、酷薄なうえ残酷そうな怖さと冷たさがある。彼はそんな人では無いと、一応理解はしていても、部屋の気温と一緒に血の気も引くようだ。沈黙が辛くなって、織実は口を開いた。
「その、すみません、でした」
「…………何故謝る?」
「白慈に頼んでは、駄目でしたよね」
「あれは、自分を見詰める頃合いだ。其方が顎で使っても、何も咎めぬ」
そこまで言って、璃君は何故か、再び寝台の端に腰を降ろした。しかもさっきより距離が近くて、咄嗟に膝を抱えてしまう。確かにここは彼の家だし、寝台も天幕の付いた大きな物だ…………でも、気付くと璃君は部屋の中に居る事が多く、一応コチラは女性でもある。過去の自分を棚上げし、もう少し配慮を頂きたい、と思わずにはいられなかった。
「初めに」
璃君は、一瞬眉を寄せてから、青い視線をこちらに向けた。整って冷たい印象を受ける顔には、珍しく迷いの気配がある。
「其方が此処に落ちたのは、私のせいだ。だから、出来得る限りの自由を与え、不便が無いよう計らった」
「はい?」
終わった話を、掘り起こさないで欲しい。織実は渋面になった。
「だが料理を食してから、原因は其方にもあったと、気が付いた」
「あのですね? 壺は、実家にあったんですよ? あたしが触ったりしなければ」
「其方は、引きずり込まれている。よって私のせいなのだ。月帝は妻にと、其方を選定した」
「は? つま?」
妙な単語が出て来た。何度か瞬いてから、冗談なのかと首を傾げる。
「夫婦という意味だ」
「誰が…………」
「其方と私だ」
声も出せずに、あんぐりと口を開けてしまった。仙境ジョークだと言って欲しいが、最近の璃君を思い出すと、笑い飛ばせない何かもあって。織実は笑う事に失敗し、ぺたりと引きつった頬を両手で包む。
確実に血の気が引いている。その時、肌が冷たいなんて、心底知りたくなかった。
「それ、いつからです?」
「初めからだ」
「初めって、落ちた時から?」
「そうだ」
サクッと肯定されて、頭を抱えた。それは絶対に、教えてくれないと駄目なヤツだ。怒鳴りたかったのに、顔すら上げられない織実は、消え入りそうな声で文句を言った。
「早く教えてください」
「必要無いと考えた。地位さえ得れば、其方は何処へでも行ける。悪戯に結ばれた縁とは言え、解消出来ぬ事では無かった」
どうして過去形で語るのか。嫌な予感がヒシヒシとする。
「出来るんですか?」
「無理だ。其方は既に、修行の必要も無い程、気を練る事に長けている」
「は? 気なんて眉唾、あたし」
「見えず感じなくとも、有るものは有る。故に其方は、私との離縁も不可能となった」
「なんで!?」
勢いで顔を上げたが、璃君が近くに居るせいで、結局何も話せない。動揺している自分に、動揺している。分かっているのに、どうして良いのかも分からない。
「無力な其方が、力を付けて此処を飛び出す事で、離縁の材料となったのだ。しかし其方は、力を既に持っている。現状、離縁の方法は皆無に等しい」
「璃君は、それで…………」
「其方を妻と受け入れた」
「!?」
断固拒否して粘って欲しい。何故開き直ってしまうのか。割り切りの早い人だと、知ってはいたが、諦めが良すぎて、もう残念の部類だ。
「本当に、どうにも出来ないと?」
「出来ぬ」
「裁判は?」
「無い」
俗世より人権を保障されないって、どういう事か。やっと怒る元気が湧いてきた。話を整理すると、気とかいう物を何処かで使った事になる。
「あたしは気なんて、知りませんから!」
「事実を言っている。無意識のようだが、料理中それを垂れ流す癖があるようだ」
「は?」
落とし穴がそんなところに。璃君が変になった原因が、食材ではなく自分などと。
「其方の作る料理には、気が込められているのだ」
「知らないですよ、そんなの!」
「生まれ持った性質だろう。稀に居る。其方は病と無縁であった筈だ」
「それは、ウチの家系特性でして」
「家系? 其方のような性質は、血筋で引き継がれるものではないぞ」
そんな事を言われても、我が家の女性は「健康なのが取り柄」と、代々言い伝えられるような血筋だ。ただ織実が家を出て一人暮らしに戻った祖母は、餅を喉に詰らせ、呆気なくこの世から旅立った。母の健康状態は、知る由もない。
「手を」
濃紺の袖に包まれた、璃君の手が差し出される。これが夫と言われても、実感の「じ」の字もありはしない。眉間にシワが寄ってくる。
「また脈ですか」
「違う」
出し渋っていると、右手を取られ、何故か指を絡めて繋がれる。
「ななな、何するんです!?」
「逆もだ」
「無理!」
「其方は、自身の気も分からぬのだろう? ならば、分かるようにすれば良い。いずれ視認出来る」
それで、唐突に恋人繋ぎを要求される、理不尽さ。織実は座った目付きで璃君を睨んだ。
「見えて良い事なんて」
「少なくとも自衛が出来る」
「でも!」
「武術よりは手っ取り早い」
「くっ」
そう言われると、弱かった。渋々左手も差し出すと、手の平の合わせて指を組まれる。実感出来ていなかった何かを、分かってしまいそうで怖い。体格差は男女というより、年齢差。圧倒的な年齢差。必死に言い聞かせても、気恥ずかしくて仕方なかった。異性と手を繋ぐなんて、小学生以来だ。
「ゆっくり息をしていなさい。右から左手に向けて気を流す」
電気みたいな言い方だ。痛かったらどうしよう。この手が自力で離せない事は、嫌でも分かる。
「あ、あたしは何をすれば?」
「呼吸を乱さず、じっとしていなさい」
「それだけ?」
「そうだ」
璃君が静かに目を閉じた。少し怖いが、織実も仕方なく目を閉じる。繋がれた右手が熱い。それは段々と腕の中に広がって、じわりと肩に這い上がる。鳥肌が立った。
「ちょっ、ちょっと待って!」
押し留めようと力が入る。身をよじったが、繋がれた手に力を入れられ、見えない圧が増していく。
「璃君! 待って! まっ」
息が詰まった。どう頑張っても、押し返せない。
「息を」
静かに璃君が言う。目も開かず、表情も凪いだまま。しかし見えない何かに、容赦は欠片も存在しない。
「まっ、まって」
声に力が入らない。濁流に流される勢いで、右から左の指先に、熱が回った。
「これで一巡だ」
「い、いち?」
「次」
「は!?」
止める間も無く、右手が熱くなっていく。唸って抵抗していたが、歯牙にもかけて貰えない。二巡目が無情にも過ぎていく。
「うぅ…………」
やはり彼は、スパルタ教師だった。嫌な予感はしてたのに、武術が嫌だからといって、悪魔の手を取ってしまうとは。
「呼吸を乱さぬよう。消耗するぞ」
「す、すきでしてるわけしゃ」
呂律も怪しいくらい、ごっそりと体力を削られている。右手が熱くなるだけで、身体が強張った。
「私の気など、普段から口にしているではないか」
「ふ、ふだ?」
「仙の薬が、ただの色水と?」
何だそれは。つまりあの甘苦渋い薬湯に、璃君が数パーセント含まれていると。なんてものを飲ませんだ、こんちくしょう!
反抗心は燃え上がる。しかし璃君は、心持ちでどうにかなる相手ではなかった。織実が前後不覚に陥るまで、気功修行は強行されたのだ。
「…………頑なめ。やめろと言えば良いものを」
夢の世界に行ってしまった彼女には、酷な事をした。房中術が女性に不向きな理由も知っている。だが、本人が無自覚だからこそ、確かめる必要があったのだ。
この仙境は、清ければ半分引いて、澱んでいれば四倍を課す。そこには、誤差など生じない。
織実が齢十六に見えないのなら、それはもう、本人の身体が滅んだ事を意味していた。今の姿は、生まれ持った特性により、無意識に急ごしらえしたのだろう。
もし本当にその通りなら、恐るべき才能だ。
意識の無くなった彼女を抱き上げて、そっと寝台に寝かせてやる。斑晶が璃君となってから、これほど住人の面倒をみた事は無いだろう。妻と言われたから、多少は気にかけたのだ。
それが多少では、足りなくなった。
指先にすら侵入を許さない、神仙のような力量差。彼女は目覚めると、それを何処かに隠してしまう。ただの天仙とは言えない膨大なそれは、意識のない時間しか、守ってくれないようなのだ。




